アスリートにとっての必須アミノ酸「ロイシン」 筋肉コンディショニング効果のエビデンス
大多数のスポーツにおいて、筋肉は少ないより多いほうがよく、筋力は低いよりも高いほうがパフォーマンス発揮に有利だ。そのため、多くのアスリートが、筋肉量を増大・維持し、筋力を高めるための、何らかのトレーニングを続けている。
スポーツを実践している人、あるいは筋力トレーニングをする人なら、「ロイシン」という栄養素の名前を一度ならず耳にしたことがあるのではないだろうか?
今回は、そのロイシンの働きについて簡単にまとめる。
アスリートにとってロイシンは“特別な”必須アミノ酸
ロイシンは、必須アミノ酸の一つ。必須アミノ酸とは、蛋白質を作り出すために必要な20種類のアミノ酸のうち、体内で合成することができないために、栄養素として摂取しなければならない、つまり体外から取り入れることが“必須”のアミノ酸のこと。必須アミノ酸は9種類存在し、いずれも筋蛋白質の合成に必要。
それら9種類の必須アミノ酸の中でも、ロイシンは特別な役割をもっている。特別な役割とは、筋肉の蛋白質合成のスイッチを入れる働きのことだ。
筋肉の蛋白質のバランスを“正”に保つ
言うまでもなく筋肉がなければ、身体のどんな細部の動きもコントロールすることができない。筋肉は、日常生活においても身体を動かしている限り、常に働いている。さらに、スポーツやトレーニングなどを行うと、日常生活で生じるよりも極めて強い負荷が筋肉にかかる。そのような強い負荷によって、筋肉を構成している蛋白質はダメージを受けて分解される。
分解されるのにまかせておくと、筋肉はやせ衰えていくばかりなので、「筋肉コンディショニング」により、分解された筋蛋白質を補う必要がある。筋肉を再構築する過程で使われるのがアミノ酸であり、再構築をスタートさせるアミノ酸がロイシンということだ。
ロイシン強化による筋肉コンディショニング効果のエビデンス
では、そのロイシンの摂取量を増やしたら、筋肉量の維持・増大につながるのだろうか? 仮にそうであれば、ロイシンの摂取量を増やすことが、多くのアスリートにパフォーマンス向上の恩恵をもたらすかもしれない。
ロイシンなどの必須アミノ酸は、マグロ、カツオ、牛肉、鶏肉、卵、大豆、チーズなどの蛋白質が豊富な食品に多く含まれているので、それらを多くとることが一つの戦略として考えられる。ただ、それらの食品をとってから体内に吸収されるまでには、3~4時間かかる。摂取した蛋白質がいったんアミノ酸になり、それが筋肉の再合成に使われるまでには、タイムラグがあるということだ。
そこで、運動前後に蛋白質ではなく、アミノ酸そのものを摂取するという方法が浮かびあがる。とくに、前述した理論から、ロイシンを強化したアミノ酸であれば、筋肉量の維持・増大への期待がより高まる。
実際、科学誌に論文が掲載されたエビデンスが多数存在する。
例えば、成人8名にロイシン含有量の異なる飲料(3.5gと1.87g)を摂取してもらい、60%VO2peakで60分の運動をしてもらったところ、運動負荷後の筋蛋白質再合成速度はロイシン強化条件のほうが有意に高かったという報告がある1)。また、ロイシン強化によって筋蛋白再合成のシグナルが有意に強くなると報告されている2)。
さらに、ロイシンの強化によって、運動負荷による筋肉のダメージが抑制されること3)や、筋力の低下幅が抑えられ回復が促進されること4)などの報告もある。
より詳しくは、以下に示す文献、または「アミノ酸スポーツ栄養科学ラボ」を参照してほしい。
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引用文献
- 1) Am J Clin Nutr. 2011 Sep;94(3):809-18
- 2) Nutrients. 2020 Aug 12;12(8):2421
- 3) J Phys Ther Sci. 2019 Jan;31(1):95-101
- 4) Nutrients. 2020 Apr 11;12(4):1061