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REDsを知る・見つける・治す・予防するREDsを知る・見つける・治す・予防する

2. REDsを知る

2024年02日29日 更新

REDsを知る・見つける・治す・予防する

2-1. スポーツの目的

スポーツに参加する目的は人それぞれ千差万別です。すぐに思いつくだけでも、体を動かし汗を流す爽快さ、健康の維持や増進、試合を楽しみたい、対戦成績や記録の向上、メダルの獲得など、さまざまな目的を挙げることができます。ただ、エリートレベルで戦おうとするアスリートにとっては、記録更新や試合に勝つことが、目的の中で大きなウエイトを占めることでしょう。

競技成績の向上を狙うには、トレーニングの量と質が重要なことは言うまでもありません。トレーニングの量を増やせば、それに従ってエネルギーの消費が増えます。その分、食べる量を増やさなければ体格を維持・向上できません。そればかりか、体重や筋量・筋力が低下してしまい、そのような変化は多くのスポーツでパフォーマンス上マイナスに働きます。さらに、健康への悪影響の心配も生じてきます。

2-2. スポーツとREDs

エネルギー出納がマイナスの状態になっていることを「利用可能エネルギー不足(low energy availability;LEA)」といい、スポーツによってLEAが生じている状態を「スポーツにおける相対的エネルギー不足(relative energy deficiency in sport;REDs)」といいます。LEAの状態では、その程度がごく軽く、かつ短期間であれば、直ちに悪影響が生じるリスクは必ずしも高くはありません。また、体重が軽いことが有利に働く競技の場合、LEAが一時的に競技成績の向上につながることがあるかもしれません。

しかしそのような不自然な状態が長続きすることはなく、やがてREDsとなって記録の伸び悩みや心身の不調などが始まることが少なくありません。そのような時にLEAやREDsのことを知らなければ、記録不振の理由がわからずトレーニング量をさらに増やし、より深刻な状態を招いてしまうことも。結果として選手生命が短縮してしまうリスクも高まります。

さらに重要なこととして、REDsの状態では、体は限られたエネルギーを生命維持のために優先して使うということです。その影響で、優先順位が低い機能を省略するような変化が起こります。そのような変化の代表的な症状が、女性における月経不順や無月経であり、また性別を問わずメンタルヘルスの不調や睡眠障害などが起きてきます。

近年、このようなREDsはアスリートの重大な健康問題であるとの認識が国際的に高まり、注意喚起がなされてきています。それにもかかわらず、いまだにその危険性が十分理解されているとは言い難く、例えば「無月経になっても引退すれば月経は自然に再開するから問題ない」といった誤解が少なくないようです。

2-3. REDsの定義

REDsをよりわかりやすくするために、たとえ話として、家計の収支がマイナス続きになった時を考えてみましょう。家計がピンチになった時、恐らくみなさん、貯金を切り崩すとともに、生活の質を落としてなんとかやりくりすることでしょう。REDsもこれと同じです。LEAに対応して、体脂肪や体タンパク質からエネルギーを取り出すのが貯金の切り崩しに相当し、生命維持上の優先順位が低い機能を省略することは、生活の質を落とすことに相当します。

前述のとおり、国際オリンピック委員会(IOC)もREDsの問題に対応して、コンセンサスステートメントを策定し改訂してきています。最も新しい改訂が、2023年9月に行われました。

そのステートメントでは、REDsのことを「アスリートが長期間または重度の利用可能エネルギー不足(LEA)に曝されることによって引き起こされた、生理的・心理的な機能が損なわれる症候群」と定義しています。そして、REDsの悪影響として、「エネルギー代謝調節障害、生殖機能障害、筋骨格系の障害、消化管機能障害、免疫能低下、心血管系の障害、造血機能障害、およびスポーツパフォーマンスの低下などが挙げられ、さらに悪影響はこれらに限定されるものではなく、かつ、これらは相乗的にリスクを高めることがある」と解説しています。

2-4. アスリートとLEA

IOCのステートメントにあるように、REDsは利用可能エネルギー不足(LEA)に曝されることによって生じる症候群です。では、なぜアスリートはLEAになりやすいのでしょうか。考えられる理由を表1にまとめました。

表1 アスリートが利用可能エネルギー不足(LEA)になりやすい理由
意図せずにLEAとなるケース
トレーニングによって大量にエネルギーを消費する
トレーニング疲れに伴う食欲低下で十分に食べられない
トレーニング負荷に伴う消化・吸収の遅延のため、食べた物がエネルギーとして利用されない
身体の成長や環境・トレーニング量の変化に応じた摂取量の調整がなされていない
既にREDsを来しており、その症状として食欲低下が生じている
体重管理や減量のためにLEAになるケース
体重別階級のある競技のアスリート
審美系競技のアスリート
体重が軽いほうが有利と考えられることのある競技(おもに持久系)のアスリート
(文献1を改編)

わかりやすい理由の一つは、アスリートはトレーニングのため、アスリートでない人よりも多くのエネルギーを消費することが挙げられます。トレーニングによるエネルギー消費を補うため、アスリートは非アスリートよりも食事量を多くして、摂取エネルギー量を増やします。ところが、トレーニングの疲れのために食欲が低下して十分食べられなかったり、トレーニング中は消化・吸収が抑制されるために、多く食べてもエネルギー源とならずに出ていってしまうということが起きたりします。さらに、既にREDsのリスクが高まっている状態では、そのために食欲低下が生じるようなこともあり得ます。

また、ジュニア期には、身体の成長とともに当然、消費エネルギー量が急増しますし、成長するためのエネルギー量も必要とされます。進級や進学によってトレーニング環境が変わり、消費エネルギー量が急に増えることも少なくありません。そのような変化に合わせて摂取エネルギー量をこまめに増やしていく必要があるのですが、その配慮が十分でない場合に、LEAが起こり得ます。ジュニア期のLEAによるREDsは、二次性徴の遅延や発育・発達の障害、最大骨量の低下につながりやすく、マイナスの影響が生涯にわたって残ってしまうことがあり、より注意が必要とされます。

以上は、意図せずにLEAが生じてしまう理由ですが、それら以外にも、体重別階級のある競技や審美系競技、および、体重が軽いことが時に有利に働くと考えられがちな持久系競技では、アスリート本人やサポートスタッフの判断によって、意図的な減量が行われ、LEAとなっていることも少なくないようです。

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