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REDsを知る・見つける・治す・予防するREDsを知る・見つける・治す・予防する

5. おわりに「スポーツからREDsをなくすために」

2024年04日22日 更新

REDsを知る・見つける・治す・予防する

最後に、今回のIOCコンセンサスステートメントの改訂のポイントについてまとめます。前回(2018年)にコンセンサスステートメントがまとめられて以降、REDsの認知度が高まり多くの研究が行われるようになって、今回の改訂では以下に挙げる六つのテーマの重要性が強調されています。利用可能な炭水化物の不足(low carbohydrate availability;LCA)がREDsの重要なリスク因子であること、男性やパラアスリートのREDsについての理解が急がれることなどが述べられています。今後はこれらのテーマを含めて、REDsの研究がさらに広がっていくことでしょう。

(1)利用可能な炭水化物の不足(LCA)とLEAの相加的影響

LEAの原因として、炭水化物摂取量が過少であることによる「利用可能な炭水化物の不足(low carbohydrate availability;LCA)」が重要であることが、より明確になってきた。アスリートが体重管理のために摂取エネルギー量を減らそうとする時、筋量への影響を避けるためにタンパク質は減らさず、炭水化物を減らすことが少なくない。しかし、LCAは、免疫能や骨代謝、鉄代謝に負の影響を及ぼすことが示されており、LEAではなくLCA単独でもそれらの影響が生じる。今後のLEA研究では炭水化物摂取量をより重視する必要がある。

(2)REDsとオーバートレーニング症候群(OTS)のオーバーラップ

REDsはオーバートレーニング症候群(overtraining syndrome;OTS)とオーバーラップする病態であり、両者を鑑別可能な単一のバイオマーカーはなく、除外診断により診断される。OTSと診断されたケースでLEAやLCAによる兆候が認められたとする研究報告がある。LEAやLCAの判定は困難ではあるが、そのようなケースはOTSではなくLEAやLCAが根本的な原因と考えられることから、OTSとして扱うべきでないことに注意を要する。

(3)REDs発症とLEAの時間的関係

軽度で短期間のLEAであれば必ずしも有害な転帰につながるわけではないが、問題のあるLEA曝露はREDsを引き起こす。LEAがどの程度の期間続いた場合にREDsを発症するのかは、前向き研究の実施が困難であるため明らかにされていない。その期間は性別やLEAの程度によって異なる可能性がある。これに関連する重要なこととして、REDsの症状が急性かつ短期間のみ認められた場合、それがLEA曝露によるものではないこともあるという点が挙げられる。REDsが疑われる時、他の潜在的な原因の鑑別を要する必要性を念頭に置かなければならない。

(4)REDsのメンタルヘルスへの影響

メンタルヘルスの不調はREDsのリスク因子であり結果でもある。また、乱れた食行動(disordered eating;DE)や摂食障害(eating disorder;ED)は、LEAやREDsと併存することもあれば単独で認められることもある。DEやEDの既往を有することはLEAの重要なリスク因子として位置づけなければならず、重大な結果をもたらし得ることから、予防、早期発見、適時介入が肝要。LEAやREDsではDEやEDの他に、睡眠の質の低下、気分の変調、うつ症状、幸福感の低下なども評価すべき。ただし、LEAやREDsとメンタルヘルスとの関連の全体像はいまだ明確でなく、例えばLEA曝露の初期段階においては大半のアスリートがメンタルヘルス不調を経験しないことの理由も明らかにされていない。

(5)男性アスリートのREDs

男性アスリートのREDsの研究の必要性が強調されているが、2018~20年に報告されたREDs関連の研究のうち、対象に男性が含まれていた研究はわずか20%にすぎない。また、女性アスリートではLEA判定の閾値として利用可能エネルギー量が30kcal/kg除脂肪体重/日というカットオフ値が提唱されている一方で、男性アスリートではいまだ不明。女性よりはカットオフ値が低値である可能性が示されているものの、男性においてもLEAはホルモン分泌の変化、免疫能低下、骨代謝への悪影響、そしてパフォーマンス低下など、女性のREDsと同様の変化を来し得る。男性のREDsの潜在的な指標として、性欲の低下と早朝勃起の消失が該当する可能性がある。

(6)パラアスリートのREDs

パラアスリートにおけるREDの有病率は不明だが、パラアスリートは健常アスリートよりも問題のあるLEAのリスクがより高いのではないかとの懸念がある。問題のあるLEAは、骨の健康障害や骨関連のダメージを引き起こす可能性がある。また、中枢神経の障害がある場合、エネルギー出納とは無関係に月経機能が変化することがある。骨代謝の指標に関して、現行の測定法や基準値は健常者集団の測定結果によって定義されたものであり、パラアスリートに適した評価技術の開発と基準値の設定のため、さまざまなパラアスリートを対象とした研究が必要とされている。

こういった研究は、現場に反映されて、初めてその成果が達成されます。その担い手は、このサイトをご覧いただいているアスリートやご家族、サポートスタッフの方々です。この特集ページが、「アスリートはさまざまな健康上のリスクと、それによるパフォーマンス上のリスクに直面しながらトレーニングをしている」という事実が社会に周知される一助となれば幸いです。

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