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身体活動量が適切な場合、摂取エネルギー量は少ないより多い方が死亡率が低い 米国NHANES大規模調査の解析

日常の身体活動量がガイドラインの推奨を満たしている場合、死亡リスクが低値となる。そして、その関係を摂取エネルギーの多寡で二分して検討すると、より多くのエネルギーを摂取している群で、死亡リスクがより大きく低下しているとする論文が発表された。米国国民健康栄養調査のデータを解析した観察研究の報告。

身体活動量が適切な場合、摂取エネルギー量は少ないより多い方が死亡率が低い 米国NHANES大規模調査の解析

「低カロリー食+適切な運動で死亡率が最も大きく低下する」という研究仮説の下で検討

エネルギー密度の高い食品を容易に入手できる環境では人々の体重が増えやすく、周知のように世界中で肥満人口の増大が問題となっている。また、肥満に関連する疾患の多くが、体重を適正に管理することで改善することも、数々のエビデンスで示されてきている。さらに、摂取エネルギー量をより低い範囲に抑える、いわゆる「カロリー制限」に、健康増進や長寿という点で潜在的なメリットが存在することを示唆する報告も増加している。

他方、身体活動もまた健康増進のための重要な因子であり、豊富なエビデンスの裏付けがある。ただし、摂取エネルギー量の適切さと身体活動の相乗効果についてのエビデンスは十分とは言えない。加えて、とくにカロリー制限に関しては健康アウトカムに及ぼす影響が年齢によって異なる可能性があり、若年者では心血管代謝疾患の減少、高齢者では筋骨格系疾患の増加と関連していることも示唆されている。

以上を背景として、今回取り上げる論文の研究では、米国国民健康栄養調査(National Health and Nutrition Examination Survey;NHANES)のデータを用いて、身体活動とカロリー制限の死亡リスクに対する相乗効果の有無を検討した。研究仮説は、「低カロリー食と適切な運動の組み合わせが、死亡率を最も大きく低下させる」とされていた。

NHANES参加者を摂取カロリーと身体活動量の多寡で4群に分けて比較

解析対象は、2007~18年のNHANESの参加者から、20歳未満および解析に必要なデータが十分でない参加者を除外した2万1,618人。平均年齢は47.71±0.28歳、男性が49%だった。

摂取エネルギー量は「米国人のための食事ガイドライン2020-2025」の推奨、身体活動量は600MET-分/週をカットオフ値として、全体を以下の4群に分類した。(1)摂取カロリーを多く摂取し身体活動が不十分な「HCEI群」4,186人(19%)、(2)摂取カロリーが少なく身体活動が不十分な「LCEI群」4,201人(15%)、(3)摂取カロリーが多く身体活動が十分な「HCEA群」7,329人(28%)、(4)摂取カロリーが少なく身体活動が十分な「LCEA群」5,902人(28%)。

摂取カロリーが多く身体活動が十分な「HCEA群」が最も低リスク

中央値6.75年の追跡で全死亡が1,957人記録されており、心血管死は568人、癌死は508人だった。

交絡因子(年齢、性別、人種、BMI、ウエスト周囲長、喫煙・飲酒状況、教育歴、貧困〈poverty-income ratio〉、高血圧・糖尿病・脂質異常症・腎臓病・心血管疾患の既往)を調整後、摂取カロリーが多く身体活動が不十分な「HCEI群」を基準として他の群の死亡リスクを検討したところ、以下のような結果が得られた。

身体活動が十分な2群では、摂取カロリーが多い群でより低リスク

全死亡

全死亡に関しては、身体活動が十分であれば摂取量の多寡にかかわらずリスクが低かった。ハザード比(HR)と信頼区間は次のとおり。摂取カロリーが多く身体活動が十分なHCEA群はHR0.59(0.48~0.71)、摂取カロリーが少なく身体活動が十分なLCEA群はHR0.69(0.56~0.84)。一方、摂取カロリーが少なく身体活動が不十分なLCEI群は、HCEI群と有意差がなかった。

心血管死

心血管死に関しては、摂取カロリーが多く身体活動が十分なHCEA群においてのみ、有意なリスク低下が認められた(HR0.64〈0.43~0.94〉)。身体活動が十分でも摂取カロリーが少ないLCEA群は、身体活動が不十分な2群とともに、HCEI群と有意差がなかった。

癌死

癌死のリスクに関しては、すべての群がHCEI群と有意差がなかった。

性別などはこの関連に影響を与えないが、BMIと喫煙状況は交互作用が有意

次に、年齢、性別、BMI、飲酒・喫煙状況、高血圧・糖尿病・心血管疾患の既往の有無で層別化したサブグループ解析が行われた。その結果、年齢や性別、飲酒状況、疾患既往の有無は、いずれも交互作用が有意でなかった。

それに対して、BMIと喫煙習慣に関しては、以下のように有意な交互作用が観察された。

全死亡

BMI25未満、25以上30未満、30以上の三つに層別化した解析で、25未満、および25以上30未満において、身体活動が十分な2群は摂取カロリーの多寡にかかわらず、有意なリスク低下が観察され、摂取カロリーが少なく身体活動が不十分なLCEI群のみ、摂取カロリーを多く摂取し身体活動が不十分なHCEI群とのリスク差が非有意だった。それに対してBMI30以上では、すべての群がHCEI群と有意差がなかった。

心血管死

BMI25以上30未満では、すべての群において、HCEI群より有意にリスクが低かった。それに対してBMI25未満では、摂取カロリーが多く身体活動が十分なHCEA群においてのみ、有意なリスク低下が観察された。さらにBMI30以上では、すべての群がHCEI群と有意差がなかった。

喫煙状況に関しては、喫煙歴なし、元喫煙、現喫煙の三つに層別化し解析された。その結果、HCEI群との比較で有意なリスク低下が観察されたのは、現喫煙者における摂取カロリーが少なく身体活動が十分なLCEA群のみだった。

単純なカロリー制限は「普遍的に有益な戦略」ではない可能性

これらの結果を基に著者らは、「単純なカロリー制限は必ずしも普遍的に有益な戦略ではない可能性があることが示唆された。食事と運動をあわせて考えると、適切な運動を行っている限り、高カロリーおよび低カロリーの摂取の両方が全死亡リスクの低下と関連しており、前者グループでより大きな影響が観察された。また、高カロリー食と適切な運動を並行している場合のみが、心血管死リスクの低下と関連していた」と総括している。

また、交互作用は非有意ながら、高血圧既往者や50歳以上の集団で、より心血管死のリスク低下が顕著な傾向がみられたことから、それらに該当する集団では、摂取カロリーが多いと身体活動を十分に行っていることの相乗的な効果が発揮されるのではないかとも記している。

ただし、フレイルや複数の併存疾患を有している対象に限れば、別の関連性が認められる可能性もあることから、さらなる研究の必要性を指摘している。

文献情報

原題のタイトルは、「Higher calorie intake with adequate exercise is associated with reduced mortality compared with low-calorie diet with equivalent exercise: An observational study from NHANES based on the 2020–2025 Dietary Guidelines for Americans」。〔Exp Gerontol. 2025 Jun 14:208:112805.〕
原文はこちら(Elsevier)

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