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妊娠を経験する現役アスリートの健康とパフォーマンスの研究は停滞気味 国際レビューが現状と課題を報告

今回は、競技生活中に妊娠を経験する女性トップアスリートの健康とパフォーマンスのサポートに関するスコーピングレビューを紹介する。論文のタイトルに「two steps forward, one step back(二歩進んで一歩後退)」と付けられているように、全体として、引退が視野に入る以前に妊娠・出産を経験するアスリートが増加しているにもかかわらず、このトピックに関する研究があまり進展していないことを強調している。

妊娠を経験する現役アスリートの健康とパフォーマンスの研究は停滞気味 国際レビューが現状と課題を報告

イントロダクション

妊娠により女性の体に解剖学的、生理学的な変化が生じ健康状態が変化しやすく、アスリートの場合はそれに生体力学的な変化も加わりパフォーマンスにも影響が生じやすい。このためかつて女性アスリートは、キャリアを終えるまで妊娠を回避することが多かった。しかし今日では多くの女性アスリートが現役中に妊娠・出産を経験するようになってきている。

国際オリンピック委員会(IOC)は2015年、アスリートの妊娠・出産に関して専門家パネルを招集し、システマティックレビューを実施。その結果、約40項目の質問項目(いわゆる臨床疑問)を特定しこの領域の研究が不足していることを報告した。例えば、高強度トレーニングは流産リスクと関連があるか、妊娠中の腹筋運動は安全かなどである。

このIOCの報告は2015年のことだが、それ以降、国際レベル、世界レベルで活躍する女性アスリートはますます増加し、2024年のパリ五輪では全選手の半数を女性が占めるまでになっており、このトピックに関する臨床疑問の答を得る必要性がより高まっている。これを背景として本論文の著者らは、改めてシステマティックレビューを実施した。なお、IOC報告はレクリエーションレベルでの研究報告も含めていたが、本レビューはトップアスリートに限定している。また、IOC報告は産後の競技への復帰についても言及していたが、本スコーピングレビューは妊娠に特化している。

レビュープロトコル

システマティックレビューとメタ解析の拡張版であるスコーピングレビューのための優先推奨報告項目(PRISMA-ScR)に準拠して、PubMed、SPORTDiscus、Web of Scienceという文献データベースを用いた検索が行われた。包括基準は、18~40歳の妊娠中の女性アスリート対象研究、または妊娠に関連のあるトピックに焦点を当てた研究の報告であり、かつ、アスリートの競技レベルがTier4または5であることとした。年齢の上限は閉経前である必要があるために設けた。競技レベルは国際レベル(世界人口の0.00125%未満)または世界レベル(同0.00006%未満)であることとするために設定した。

報告年については、2015~23年とした。2015年以降とした理由は、前記のIOC報告および、同時期に発表された妊娠中の運動に関するレビュー論文の発表後とするために設定した。レビュー、書籍、灰色文献、英語以外の言語で執筆されている論文は除外した。

IOCの報告以降もこのトピックに関する研究はあまり進展していない

抽出された研究の特徴

一次検索で534報がヒットし、重複削除後の519報を2名の研究者がタイトルと要約に基づき独立してスクリーニングを実施。12報を全文精査し最終的に8件の研究報告を適格と判断した。なお、意見の不一致は討議により合意に至り、3人目の研究者の採決を要さなかった。

2016~19年は毎年1本の論文が発表されていて、2022年と23年には2本ずつ発表されていた。研究デザインは、定性的なものが5件、定量的なものが1件、混合研究が2件だった。研究が実施された国は、カナダが3件、ノルウェーとスペインが各2件、英国が1件だったが、一部の研究はソーシャルメディアを通じて多くの地域(国名は記されていない)から回答を得て報告していた。

特定されたリサーチギャップ

5件の研究では、このトピックに関連のある数多くのテーマが報告されていた。その中には、女性アスリートの生殖に関する研究の不足、妊娠中および産後のスポーツ参加に関するエビデンスに基づいた推奨を提示する必要性、妊娠中のアスリートに求められる必須のサポート、妊娠中のアスリートのトレーニング、安全上の懸念、身体制御、恐怖と懸念、二重のアイデンティティーなどが含まれていた。

2件の研究では、定量的なトレーニングおよび競技関連のデータが報告されており、ランニング量は妊娠第1期から第3期にかけて大幅に減少すること、妊娠第1期および第2期のトレーニング量は妊娠前の80~85%であるが第3期には50%まで減少すること、軽~中等度の運動は妊娠中を通じて行われたが妊娠5週目以降は高強度運動は行われないことなどを報告していた。

ノルウェーのさまざまな競技のトップアスリート(34人)と対照群(活動的な女性34人)を比較した研究からは、不妊症、流産、早産、低出生体重に関して、群間 差がないことを報告していた。両群ともに妊娠前と比較してトレーニング量は減少していたが、トップアスリート群は対照群よりも早く、出産後0~6週目にスポーツに復帰していた。また、妊娠・出産の合併症には群間差はなかった。アスリートは妊娠中の筋力トレーニングと栄養に関するアドバイスに満足していないという実態も報告されていた。

すべての研究報告において、限界点が報告されていた。問題の大半は対象の多様性に関連することで、例えばサポート側の男性医療従事者や妊娠経験のない従事者の経験に関するデータが限られていたこと、サンプルバイアスにより肯定的または中立的な経験を持つ人が参加しなかった可能性があること、低~中所得国のアスリートが非常に少ないこと、各競技固有の問題が特定されていないことなどである。加えて、研究の大部分が定性的デザインであり、データの一般化が困難であった。

論文の結論は以下のようにまとめられている。

「過去10年間、国際レベルおよび世界レベルの女性アスリートの妊娠に関する研究は不十分であり、この集団における研究の現状は顕著な変化がないことが示された。この領域の専門家は依然として多くの未解決の研究課題を抱えており、妊娠中のエリート女性アスリートのサポートのために、十分な研究に基づいたアプローチをとることはいまだ困難である」。

文献情報

原題のタイトルは、「Two steps forward, one step back: What research progressions have been made to support the advancement of health and performance in pregnant international and world-class sportswomen since 2016? A scoping review」。〔Womens Health (Lond). 2025 Jan-Dec:21:17455057251368289〕
原文はこちら(SAGE Publications)

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