パワーリフティングとパラ・パワーリフティング関連の研究の現状と将来 スコーピングレビュー
パワーリフティングおよびパラ・パワーリフティングのスポーツ科学・医学の現状を総括し、エビデンスの不足している領域を特定するとともに将来の研究に向けた提言を述べた、スコーピングレビュー論文を取り上げる。著者らは、このトピックに関する研究報告が急速に増加しているが、女性を対象とした研究が依然として少ないこと、パワーリフティング特有の怪我のメカニズムが明らかにされていないことなどが指摘されている。栄養に関連のある項目を中心に、一部を抜粋して紹介する。

イントロダクション
パワーリフティングは筋力を競い合う競技であり、スクワット、ベンチプレス、デッドリフトの1RM(1回だけ挙上可能な最大負荷量〈one repetition maximum〉)の合計で順位が決まる。1964年に第1回パワーリフティング選手権が開催され、72年には国際団体が設立され、現在はドーピング検査を課す国際的組織となり、100カ国以上の選手が参加している。またパラ・パワーリフティングはベンチプレスを3回施行して最も重い重量を競い合う競技であり、84年の世界大会から行われている。
近年、パワーリフティング等を対象とするスポーツ科学または医学の研究が急速に進んでいる。しかし、それらの研究報告の包括的レビューはまだ行われていない。これを背景として著者らは、(1) 発表論文の体系的検索、(2) 研究の特徴の分析、(3) スポーツ科学・医学の各分野における研究概要の提供、(4) 現行の文献のギャップの特定と将来の研究への提言という四つの目的のため、スコーピングレビューを実施した。
システマティックレビューとメタ解析の拡張版であるスコーピングレビューのための優先推奨報告項目(PRISMA-ScR)に準拠して、SPORTDiscus、CINAHL、MEDLINE、Scopusという文献データベースに、それぞれの開始から2025年6月26日までに収載された文献を対象とする検索を行った。一次検索で2,117報がヒットし、重複削除、スクリーニング、全文精査を実施。また、論文執筆過程で見いだした他の情報源からの3件の研究報告も適格と判断し、最終的に218件の研究論文をレビューの対象とした。
解析対象研究の特徴
レビューの対象となった218件の研究全体で、生体力学(17%)、トレーニング(17%)、競技(21%)、身体的資質(22%)、傷害(8%)、心理学(4%)、栄養・サプリメント(11%)という七つの異なる研究トピックが特定された。また、報告年については全体の50%が2020年以降に発表されており、近年になり急速に増加していることが示された。心理学を除くすべてのトピックは、2020年以降に過去10年間よりも多くの文献が報告されていたが、心理学については2010年代に4件報告があったが2020年以降は2件のみだった。筆頭著者の所属機関の所在地をみると、全体として4分の1は米国であり(26%)、2番目はブラジル(15%)、以下、オーストラリア、ニュージーランド、ポーランド、英国などが続いた。
研究の79%はパラ・パワーリフティング選手を含んでおらず、20%はパラ・パワーリフティング選手のみを対象とし、2件の研究は両者を対象としていた。また、41%は男性と女性で調査し、33%は男性のみ、22%は性別を明記していなかった。女性選手のみを調査した研究はわずか3%だった。
多くの研究(45%)は選手の競技レベルを記していなかった。18%は国内レベル、10%は世界レベルと記していた。また、用語の定義付けがなされていないが、「エリート」レベルとしている研究が6%だった。そのほか、大半の研究(85%)が対象者の年齢カテゴリーを特定していなかった。さらに84%の報告は、研究参加者が薬物使用状況(ドーピング検査がある大会に参加しているか否か)について報告していなかった。
栄養とサプリメント
25件の研究で、パワーリフティング選手の食習慣、あるいは合法または違法なエルゴジェニックエイドの使用が調査されていた。このうち5件は男性のみを対象としており、10件は男女混合のコホートを対象とし、他の10件は性別を特定していなかった。また、64%は競技レベルを述べておらず、3件は国内レベル、1件は世界レベルとしていた。
食事とエルゴジェニックサプリメント
多くの研究で、パワーリフターの食習慣や合法的なエルゴジェニックサプリメントの特徴を調査し、栄養介入や薬理介入の効果の評価、栄養に関する知識の評価などを行っていた。また、2022年以降の5件の研究では、急速な減量戦略を調査しており、この過程で失われる体重は通常、体重の約3%であると報告されていた。
サプリメントについては3件の研究があり、最も利用されているのはクレアチンとカフェインであって、マスターズパワーリフターは他のアスリートと比較して亜鉛の摂取量が高いことなどが報告されていた。また、さまざまな競技アスリートの尿中カフェイン濃度を測定した研究では、最も高い濃度はパワーリフターであるとされていた。ある研究はオーストラリアのパワーリフターの74%がクレアチンを使用していると報告し、3件の研究が、パワーリフターまたはパラパワーリフターがクレアチン摂取によるパフォーマンスへの効果を概ね肯定的に捉えていることを示していた。
パフォーマンス向上ドラッグ
5件の研究では、パワーリフティングにおけるパフォーマンス向上ドラッグ(performance-enhancing drugs;PED)使用の実態を調査していた。1988年には、薬物検査を受けたパワーリフター45人のうち15人がアナボリックステロイドの使用を認めたことが報告されていた。2003年には、さまざまなスポーツのPED使用状況が調査され、パワーリフティングとボディービルディングで最も高い使用率が認められた。ある調査では、32人のパワーリフターのうち93%がステロイドの使用を報告していた。
スコーピングレビューのポイント
論文では、本レビューで明らかになったポイントを以下の3項目に総括している。
- パワーリフティングやパラ・パワーリフティングの研究は、2020年以降に2倍以上に増加している。研究はさまざまな人口統計学的特徴をもつ集団、さまざまな競技レベルにわたっているが、女性のみを調査した研究はわずか3%だった。
- スポーツ科学と医学において最も研究が進んでいる分野は身体能力であり、心理学は最も研究が進んでいない分野である。また、既存のエビデンスは広範であるにもかかわらず、パワーリフティングでよく見られる怪我のメカニズムやパフォーマンス向上ドラッグの使用など、いくつかのギャップが特定され、さらなる研究が必要。
- 将来のパワーリフティング研究の解釈を支援するために、今後の研究では参加者の特性をより明確に報告することが提案される。さらに、標準的なパワーリフティング関連用語の使用と、科学的厳密さの重視も推奨される。
文献情報
原題のタイトルは、「The Applied Sport Science and Medicine of Powerlifting and Para Powerlifting: A Systematic Scoping Review with Recommendations for Future Research」。〔Sports Med. 2025 Sep 9〕
原文はこちら(Springer Nature)







熱中症予防情報
SNDJユニフォーム注文受付中!

