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アスリートへの心理的虐待が摂食障害や自傷行為などの指標に関連 カナダ代表選手800人での検討

アスリートにおいて最も頻繁に生じるとされる虐待である心理的虐待が、摂食障害や自傷行為のリスク、アスリートとしての満足度の低下と関連しているとする論文が、カナダの国家代表選手約800人を対象とする調査の結果として報告された。

アスリートへの心理的虐待が摂食障害や自傷行為などの指標に関連 カナダ代表選手800人での検討

「スランプの際に人格を否定された」などの心理的虐待は摂食障害等のリスクになるか?

アスリートが経験することのある虐待のなかで最も多いタイプの虐待は、心理的虐待であるとされている。例えば、他の選手や観客がいる前で辱められるような発言を受ける、体格について否定的なコメントをされるといったことであり、コーチやトレーナー、または同僚によってこれらが行われることが多い。

アスリートでない一般人口においては、心理的虐待を受けることによって、精神的健康度や幸福感が低下し、摂食障害や自傷行為のリスクが高まることが明らかにされており、とくに教育の現場ではそのような指導を慎むように変化してきた。しかし、アスリートではそのような関連性の有無が十分検討されておらず、選手の指導のためという名目のもと、伝統的にこのような心理的虐待が長く行われてきている。

三つの研究仮説

この状況を背景として、この論文の著者らは、以下の三つの仮説を立て、エリートアスリートを対象とする調査を行った。

三つの仮説とは、(1)心理的虐待はアスリートの満足度と負の相関があり、摂食障害や自傷行為の指標とは正の相関がある、(2)アスリートの満足度は、これらの関係を緩衝するように働き、心理的虐待を経験しながらも競技に高い満足度をもつアスリートは、摂食障害や自傷行為のリスクが低い、(3)審美系スポーツや体重別階級のあるスポーツの選手、および団体競技の選手は、それら以外の選手よりも、変数間の関係がより強固である――というもの。

調査対象と調査項目

この研究の対象は、カナダの国家代表レベルのエリートアスリートが登録されている「AthletesCAN」のメンバーのうち、16歳以上の6,239人に対して研究参加協力のメールを送信し、回答を得られた794人。パラアスリートや引退後10年以内のアスリートも含まれている。

心理的虐待の経験については、先行研究に基づき9項目の質問(見下されたり屈辱を与えられたりした、蔑称で呼ばれた、パフォーマンス低下時に人格を否定された、など)により、範囲0~9点でスコア化した。選手としての満足度は、10項目の質問からなる「アスリート満足度質問票(Athlete Satisfaction Questionnaire;ASQ)で評価した。

摂食障害については、以下の3項目の質問で評価した。(1)選手生活で乱れた食行動(摂取量の制限、過食、嘔吐など)を考えたことがあるか、(2)乱れた食行動をとったことがあるか、(3)乱れた食行動または摂食障害の治療を受けたことがあるか。自傷行為については、以下の3項目の質問で評価した。(1)選手生活で自傷行為や自殺を考えたことがあるか、(2)自傷行為や自殺行動をとったことがあるか、(3)自傷行為または自殺企図に関して治療を受けたことがあるか。

仮説1は支持され、2と3は部分的に支持されるという結果

回答者794人の内訳は、現役選手が75%、引退後の選手が25%(引退からの経過年数は4.31±2.79年)、平均年齢27.85±9.08歳、女性63%で、12%が障害を有していた。参加競技は64種類にわたっており、体操、バレーボール、陸上、自転車、水泳、ボートなどの割合が高かった。

審美系競技または体重別階級競技の選手は115人(14%)、団体競技の選手は226人(28%)だった。

6割が心理的虐待の経験あり:

心理的虐待を経験したことを報告したアスリートは478人(60%)だった。摂食障害は191人(24%)、自傷行為は140人(18%)が、なんらかのリスクの存在を示す回答をした。

仮説1の検証

心理的虐待の経験があることは、アスリートとしての満足度と負の相関があり(r=-0.316)、摂食障害のスコア(r=0.311)、自傷行為のスコア(r=0.252)とは正の相関があって、いずれも有意だった。つまり、仮説1は支持された。

仮説2の検証

アスリートとしての満足度のスコアを用いて全体を3群に分け、自傷行為のスコアとの関連を比較したところ、すべての群において、心理的虐待のスコアが高いほど自傷行為および摂食障害のスコアが高いという関連が認められた。

ただし、満足度スコアが最も高い群では、心理的虐待スコアの高さが自傷行為スコアに及ぼす影響が最も弱かった。反対に満足度スコアが最も低い群では、心理的虐待スコアの高さが自傷行為のスコアに及ぼす影響が最も強かった。一方で、摂食障害との関連は逆転していて、満足度スコアが最も高い群では心理的虐待スコアの高さが摂食障害スコアに及ぼす影響が最も強く、満足度スコアが最も低い群では心理的虐待スコアの高さが摂食障害スコアに及ぼす影響が最も弱かった。

つまり、仮説2は自傷行為との関連については支持され、摂食障害との関連については否定された。

仮説3の検証

心理的虐待スコアと摂食障害スコアおよびアスリート満足度スコアとの関連の交互作用は、審美系競技および体重別階級競技の選手では有意な傾向がみられたが(Β=0.81、p=0.08)、その他の競技の選手では交互作用が認められなかった。一方、団体競技と個人競技の選手で比較した場合、いずれも交互作用は非有意だった。

つまり、仮説3は部分的に支持された。

摂食障害等を報告したアスリートには虐待経験の有無のスクリーニングも必要

これらの結果をもとに論文の末尾には、以下のような推奨と結論が記されている。

スポーツにおける心理的に有害な慣行を除外し対処する必要があることが示唆される。とくにコーチやその他のサポートスタッフへの教育を強化し、また自己犠牲を奨励し過度の要求を受け入れる文化を強調するスポーツ倫理の遵守を求めることの危険性の認識を高め、アスリートのメンタルヘルスへの潜在的な悪影響を考慮する必要がある。

メンタルヘルスの問題を発見するための、より強力なスクリーニングが必要である。例えば、摂食障害や自傷行為を報告したアスリートに対しては虐待経験の有無を確認し、適切な心理的サポート(例えば心理士や精神科医への紹介)を提供したり、スタッフに対する適切なコーチングスタイルを教育することも必要となる。

心理的虐待がアスリートに悪影響を及ぼすことは明らかと言え、蔓延しているこの問題への対処は極めて重要。スポーツにおける心理的虐待防止に向けた、さらなる改善が求められる。

文献情報

原題のタイトルは、「The relationship between psychological abuse, athlete satisfaction, eating disorder and self-harm indicators in elite athletes」。〔Front Sports Act Living. 2025 Jan 10:6:1406775〕
原文はこちら(Frontiers Media)

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