ストレスが重なり合う状況には要注意! 寒さに「精神的ストレス」が加わると持久性運動パフォーマンスが低下する可能性
「暑熱(暑さ)」がアスリートのパフォーマンスを低下し、精神的負荷がその影響を増大させることが知られている。では、「寒冷(寒さ)」はどうだろうか? そのような視点による研究結果が、「European Journal of Applied Physiology」に掲載された。大阪公立大学都市健康・スポーツ研究センターの今井大喜氏、岡﨑和伸氏らの報告であり、寒冷に精神的ストレスが加わると、パフォーマンス低下が増大する可能性があるという。
寒冷ストレス+精神的ストレスで、パフォーマンスはより低下するか?
暑熱環境下ではパフォーマンス低下抑制のため、競技前に全身または身体の一部を冷却するという戦略(プレクーリング)の有効性が報告されている。このプレクーリングの効果は、さまざまな条件によって左右されることも明らかにされていて、例えば、それほど高温ではない環境下では筋肉の温度低下や代謝・神経系の機能低下によって、かえってパフォーマンス発揮が妨げられる可能性もある。また、精神的ストレスの強さが暑熱環境下でのパフォーマンス低下の程度に関与することも示されている。
一方、寒冷環境がスポーツパフォーマンスに及ぼす影響は複雑で、さまざまな状況に依存して異なる。これまでの研究で、運動時の環境温度とパフォーマンスの関係は逆U字型を示すことが報告されており、気温10度前後の寒冷環境では、それより低温または高温の条件に比べて、持久性運動パフォーマンスが高く発揮されるといったデータがあるものの、精神的ストレスが加わることの影響は検討されていない。
このような背景を踏まえて今井氏らは、「全身皮膚表面の冷却中に心理的課題によって誘発した精神的疲労は、冷却のみの場合と比較し、その後の持久性運動パフォーマンスを低下させる」との研究仮説のもと、以下の検討を行った。
9人の健康な若年男性に対するクロスオーバー研究で検討
この研究は、寒冷ストレスのみを加える条件と、それに精神的ストレスを加える条件の2条件を全参加者に行うという、クロスオーバーデザインで実施された。研究参加者は軽~中強度の運動を習慣的に続けている健康な男性9人(21.1±0.6歳、BMI22±3kg/m2、VO2peak42.9±5.3mL/kg/分)。喫煙者や心血管代謝疾患の既往者などは除外されていた。
研究室に到着後に、心拍数、体温、呼気ガス、認知機能などのベースライン評価を実施。続いて、室温28°C、相対湿度33%の人工気候室内で水循環スーツを着用し、まず34°Cで20分間の灌流を行い、すべての指標が定常化したことを確認後、10°Cで10分、次いで15°Cで最大85分灌流した。この冷却方法は深部体温を下げずに体表面温度のみを低下させることを目的として設定された。
冷却開始後、精神的ストレスを加える条件ではストループカラーワードテスト(赤・緑・青・黄の4色のうちいずれかで着色された色文字が表示され、その色文字の意味ではなく、色をできるだけ速く回答するテスト)を行った。一方、寒冷ストレスのみを加える条件では、ドキュメンタリー映像を鑑賞してもらった。
ストループカラーワードテスト2セット(54.2±5.7分)終了後または映像の終了後に再度、認知機能テストを行い、それを20分以内に終了させた後、自転車エルゴメーターにより疲労困憊に至るまでの運動継続時間(time to exhaustion;TE)を評価した。運動負荷中には、自覚的運動強度(rate of perceived exertion;RPE)をボルグスケールにより把握。また介入前後および運動終了直後にはチャルダー疲労スケール(Chalder Fatigue Scale;CFS)により疲労の程度を把握した。
なお、この試験は気候による暑熱の影響を避けるため2月末~4月の間に実施した。両条件の試行には5日以上のウォッシュアウト期間を設け、試行の24時間前からカフェイン・アルコールの摂取および激しい運動を禁止したほか、脱水回避のため研究室到着の2時間前に500mLの水の摂取を指示し、2条件とも同じ内容の軽食を摂取するよう指示した。また両条件は同じ時間帯に試行した。
寒冷ストレス+精神的ストレスで疲労がより高まってパフォーマンスが低下
研究では、体温、血行動態、呼気ガス代謝諸量、糖代謝、内分泌ホルモン、認知機能、疲労度、および運動パフォーマンスなど、さまざまなパラメーターへの影響が評価された。論文では、それらの結果のなかでとくに注目すべきこととして、以下の四つのポイントが強調されている。
(1)寒冷+精神的ストレスで疲労度が高まるが、寒冷ストレス単独ではそうでない
CFSで評価した疲労の程度は、初期値に変動がみられたため、それを考慮した共変量解析や、変化量による解析の結果、寒冷ストレスのみの条件に対して精神的ストレスを加えた条件では、介入直後および運動終了直後において有意に上昇していた。
(2)寒冷+精神的ストレスでは、運動前後でアドレナリンが有意に大きく上昇
運動終了直後の血漿アドレナリン・ノルアドレナリン濃度は、寒冷ストレスのみの条件に対して精神的ストレスを加えた条件では高値を示し、それはとくにアドレナリンで顕著であり、その値には条件間の有意差が認められ、効果量も大きかった(効果量〈d〉=0.719)。一方、血漿コルチゾール濃度は、両条件で有意な変化はみられなかった。これらのことから、寒冷+精神的ストレスは、視床下部-下垂体-副腎皮質系より交感神経-副腎髄質系をより亢進させると考えられた。
(3)寒冷+精神的ストレスで、寒冷ストレス単独よりも疲労困憊が速まる傾向
疲労困憊に至るまでの時間(TE)は、負荷0%から開始し毎分20%ずつ増大させていき、最大80%VO2peakとして、RPEが19~20に到達し、かつ50回転/分を維持できなくなるまでの時間を計測した。その結果、寒冷ストレスのみの条件では573±153秒であるのに対して、寒冷に精神的ストレスを加えた条件では527±189秒であり5.7%低下した。この差は非有意だったが(p=0.133)、中程度の効果量が認められた(d=0.271)。
(4)持久性運動パフォーマンスの低下は疲労度の上昇と相関
条件間のTEの変化量(MS-CON)とCFSの変化量(MS〈運動終了直後-介入前〉-CON〈運動終了直後-介入前〉)との間に、有意な負の相関が認められた(r=-0.919、P=0.002)。つまり、寒冷+精神的ストレスの負荷により高じた疲労が、パフォーマンス低下に関連していた。
これらの結果に基づき論文の結論は、「全身の皮膚表面の冷却中に誘発される精神的疲労は、全体的な解析では持久性運動パフォーマンスに有意な低下をもたらさなかった。ただし個人差があり、一部の参加者では有意な低下が認められた。これらの個人差は、主観的疲労感の増大および交感神経-副腎髄質系の亢進と関連していた」と総括されている。
文献情報
原題のタイトルは、「Mental fatigue accompanied by whole-body surface cooling is associated with the impairment of subsequent endurance exercise performance」。〔Eur J Appl Physiol. 2025 Jul 11〕
原文はこちら(Springer Nature)