2022年欧州陸上選手権で栄養成分表示の有用性を調査 アスリートの食品選択の自信を高める効果
2022年の欧州陸上競技選手権大会における、栄養成分表示の影響に関する調査結果が報告された。栄養成分表示はアスリートの食品選択の自信を高め、回答者の9割以上が今後の大会でも継続されることを希望していた。
スポーツ大会での栄養成分表示はどのくらい役立っているのか?
規模の大きなスポーツイベントでは、レストランで提供される食品に栄養成分表示が提供されるようになり、オリンピックやコモンウェルスゲームズなどでは義務化されている。ただ、栄養成分表示は会場内で食事を摂る人がその情報を利用することで、はじめて役に立つものであるにもかかわらず、その利用状況はあまり調査されていない。
この研究は、2022年8月にミュンヘン(ドイツ)で開催された欧州陸上競技選手権大会中に、大会施設内のレストランで食事を摂る18歳以上のアスリートおよびサポートスタッフを対象として実施された。レストラン内などにアンケートページへのQRコードを掲示し、アクセスするとインフォームドコンセントを表明後に回答できるようにシステム化されていた。
回答者の内訳とアンケートの内容
回答者数は280人であり、選手が221人、スタッフが59人だった。大会に参加したアスリートは1,540人だったため、アスリートの14.4%が回答したことになる。
回答したアスリートのおもな特徴は、性別は男性が42.2%、参加競技は短距離39.3%、中距離19.6%、長距離17.8%、跳躍10.3%、投擲9.8%、複合競技3.3%。スタッフは男性79.7%で、コーチ63.8%、理学療法士15.5%、医師8.6%など。
アンケートの質問項目は、栄養成分表示の利用頻度、有用性、内容の評価などであり、5段階のリッカートスコアで回答を得たほか、自由記述欄を設けてあった。
レシピ開発と栄養成分表示の内容
大会施設内のレストランで提供される食事のレシピは、選手が宿泊するホテルの一つ(リーディングホテル)が開発し、事前に欧州陸上競技連盟が承認。各メニューの栄養成分のデータの提供を受け、果物を除くすべての食品にも短縮バージョンの栄養成分表示を掲示した。また、より詳しいフルバージョンの表示を、選手が宿泊するホテルのウェルカムデスクに設置した。
短縮バージョンには、原材料のリスト、アレルゲン情報などを表示し、フルバージョンにはそのほかに、エネルギー量、主要栄養素の重量と%エネルギー、および、高脂肪食/低脂肪食、高炭水化物食/低炭水化物食、高タンパク食/低タンパク食に該当する場合はそれをアイコンで表示した。
原文はこちら【Nutrients. 2024 Dec 19;16(24):4375】(MDP)
27.6%の回答者が成分表示を見て食品選択を変更
得られた280人の回答のうち19人の回答は内容が不完全のため除外し解析された。
ふだんの食生活に関する質問から、回答者の大半は(73.9%)は栄養スタッフの個別指導を受けておらず、79.9%は食事制限をされていなかった。食事制限のある回答者(20.1%)では、乳糖不耐症が(3.6%)が最多で、ビーガンまたはベジタリアン(3.2%)、グルテンフリー(2%)などが続いた。
栄養成分表示の利用状況と重要性
栄養成分表示ラベルの利用状況は、5段階のリッカートスコアの中央にあたる「時々(occasionally)」が38.3%と最多で、「常に(always)」は5.7%、「ほぼ毎回(almost every time)」14.6%、「ほぼ使用しない(almost never)」13.8%、「全く使用しない(never)」25.3%であり、選手とスタッフ、性別、選手の参加競技、スタッフの職種での比較で有意差はなかった。ただし、何らかの食事療法を行っている人は使用頻度が高いという有意差があった。
栄養成分表示を利用しない理由として挙げられた回答は、「必要がない」(17人)、「食品を見て選びたい」(8人)、「アレルギーや不耐症がない」(7人)、「興味がない」(7人)などだった。
一方で、28.4%は栄養成分表示を「非常に重要」と考えていて、41.0%は「重要」と考えていた。この回答の傾向に、回答者の属性による有意な違いはみられなかった。なお、栄養成分表示の利用頻度と重要度の捉え方は、弱い有意な正相関が認められた(ρ=0.319、p<0.001)。
栄養成分表示の内容や有用性
短縮バージョンの情報量について、69.0%が「十分」と回答した。フルバージョンは回答者の26.5%しか見ておらず、内容については「十分」が65.8%だった。表示内容の中で最も重要とされた項目は、アレルゲンに関する情報だった。傾向として、管理栄養士による食事療法を受けているアスリートは栄養成分表示を「非常に重要」と考える割合が高かったのに対し(38.8%)、そうでないアスリートでは少なく(23.5%)有意差がみられた(p=0.024)。
回答者の多くは、栄養成分表示が「役に立つ」(31.8%)または「やや役に立つ」(30%)と考えていた。とくにサポートスタッフにおいて役立つとする回答が多く、アスリートとの間に有意差が認められた(p=0.036)。
また、回答者の27.6%が、栄養成分表示を見たことで当初の食品選択を変更していた。その理由としては、アレルゲンに関連する内容が多かった。
栄養成分表示の評価
栄養成分表示があることにより、41.9%の回答者が食品の選択に「自信があった」、31.3%が「中程度の自信があった(moderately confident)」を選択した。
この質問に対する回答の選択肢の分布には、アスリートとサポートスタッフで有意差があり、スタッフのほうが自信を持てたとする回答を多く選択していた(p=0.037)。また、サポートスタッフの大半が、アスリートにとって栄養成分表示が「重要」(52.2%)または「非常に重要」(30.4%)と考えていた。
著者らは、「栄養成分表示は、選手とサポートスタッフの双方にとって有益であり、今後の大会でも維持していくべきであることが示された」と述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「Implementation of Nutrition Labels at the 2022 European Athletics Championships: An Observational Study of the Use and Perceptions of Athletes and Athlete Support Personnel」。〔Nutrients. 2024 Dec 19;16(24):4375〕
原文はこちら(MDP)