トップアスリートの55%がビタミンD不足で握力との関連を示唆 屋内競技やジュニア層ではより深刻 ドイツの調査
トップアスリートの過半数がビタミンD不足であり、屋内競技の選手はよりその割合が高く、ビタミンDレベルが低いほど握力が低いという有意な関連のあることが、ドイツから報告された。著者らは、サプリメントの利用を含む個別化された栄養戦略の必要性を指摘している。
アスリートのビタミンD不足の影響
脂溶性の微量栄養素であるビタミンDは、セコステロイドホルモン(ステロイド骨格の一部が開裂〈seco〉した構造)であり、骨代謝、免疫機能、筋肉のパフォーマンスなどに重要な役割を果たしている。ビタミンDの不足は疲労骨折や感染症、筋損傷のリスク上昇につながることが示唆されており、アスリートのキャリアにマイナスに働く可能性が指摘されている。ただしアスリートの筋力とビタミンDレベルとの関連はまだ十分検討されていない。これを背景として本論文の著者らは、ドイツのトップアスリートのビタミンDの充足状況を把握するとともに、ビタミンDレベルが全身の筋力の代替指標である握力と関連しているか、およびビタミンD不足の関連因子はなにかを調査した。
なお、ビタミンD不足の定義に関して、複数の組織が異なる閾値を提唱しており、さらに地理的環境(主として緯度)や分析方法が、定義の標準化を困難にしている。本研究では血清中の25-ヒドロキシビタミンD[25(OH)D]濃度が20ng/mL(50nmol/L)未満の場合を「欠乏」、20~30ng/mL(50~75nmol/L)の場合を「不足」、30ng/mL(75nmol/L)以上の場合を「充足」と分類している。
ドイツの代表チームに所属しているアスリート474人を対象に調査
この研究は、ドイツの代表チームに所属している10種類の競技(体操、近代五種、卓球、バレーボールなど、すべてオリンピック競技)アスリート、計474人を対象に実施された。対象者のおもな特徴は、平均年齢19.3歳(範囲13~39)、女性48.73%、屋内競技71.73%など。
血清25(OH)D(以下、ビタミンD)レベルや握力の測定に加えて、3日間の食事記録を基にビタミンD摂取量を算出。また、ビタミンDの代謝にかかわる17種類の一塩基多型(single nucleotide polymorphism;SNP)の有無を判定した。なお、ビタミンDレベル測定の時期は、夏季(4~9月)が59.07%、冬季(10~3月)が40.93%だった。
4割がビタミンD不足、16%は欠乏で、ジュニア層、屋内競技でより低値
対象全体のビタミンDの平均は30.98±13.43ng/mLだった。55.5%はビタミンD不足または欠乏に該当し、39.5%が不足、16%が欠乏に該当した。
次に、性別、年齢層(18歳未満/以上)、屋内競技/屋外競技とビタミンレベルとの関連を検討。
その結果、年齢層についてはシニアアスリートのほうがジュニアアスリートより高かった(34.39±14.76ng/mL vs 27.46±10.84ng/mL、p<0.001)。また、屋外競技のアスリートは屋内競技のアスリートよりも高かった(35.15±16.10ng/mL vs 29.34±11.85ng/mL、p<0.001)。これらは多変量調整後も有意であり、それぞれ独立した関連が認められた。なお、性別に関しては有意差がなかった。
ビタミンD摂取推奨量を満たしているのは、サプリ利用を含めても15%のみ
食事記録のデータを得られたのは226人だった。その記録から推計された、食事からのビタミンD摂取量は平均2.6±2.55μg/日だった。226人のうち38人(女性21人)はビタミンDサプリメントを摂取しており、それを加えると10.8±23.7μg/日となった。
226人中、食事とサプリメントを通じてドイツ栄養学会が推奨する1日あたりのビタミンD摂取量である20μgを満たしていたのは、わずか34人(15.0%)だった。
ビタミンDレベルが低い選手は握力が弱い
握力が測定されたのは404人だった。解析の結果、握力はビタミンDレベルと有意に正相関していた(β=0.01、p<0.001)。具体的には、ビタミンDレベルが1ng/mL高いごとに、握力は0.01N/kg高いという関連があった。
アスリートを対象とするビタミンDについての栄養指導が必要ではないか
上記のほかに、一塩基多型(SNP)との関連の解析では、AC遺伝子型(β=7.46)やCC遺伝子型(β=6.23)が、ビタミンDレベルと有意に関連していた。
著者らは本研究で明らかになったことを、「ドイツのトップアスリートにおいて、ビタミンD欠乏または不足の有病率が55.5%と非常に高いことが強調される。またビタミンDレベルと握力の間に観察された正の相関関係は、ビタミンD欠乏/不足に的を絞った介入の必要性を示している。とくに、シニアアスリートに比較しジュニアアスリートで不足傾向が顕著であり、また、屋内競技のアスリートで低値だった」と総括。そのうえで、「ビタミンD不足の有病率が高いことを踏まえ、今後の研究ではトップアスリートにおけるビタミンD不足のリスクを軽減するための包括的な戦略の開発に焦点を当てるべきであり、その戦略にはビタミンDの重要性を強調した栄養教育やサプリメントプログラムなどが挙げられる」と提案している。
文献情報
原題のタイトルは、「Vitamin D status and its determinants in German elite athletes」。〔Eur J Appl Physiol. 2025 Jan 4〕
原文はこちら(Springer Nature)