スマホアプリを活用した栄養士による遠隔の食事指導で高齢者の筋肉量が増大 サルコペニア予防介入の新たな可能性
食事の写真を活用して遠隔で栄養指導を行う介入が、高齢者のサルコペニアの予防や改善に有用とする論文が「JMIR Formative Research」に掲載された。福井大学医学部地域医療推進講座の大西秀典氏、水上保孝氏らが、福井県若狭町の地域在住高齢者を対象に行ったパイロット研究の結果であり、わずか3カ月の介入で筋肉量(SMIや四肢筋肉量)に有意な変化がみられたという。同大学発のプレスリリースを基に研究の成果を紹介する。

研究のポイント:適切にカスタマイズされた間接的な介入でSMI増加の可能性
- 近年、寝たきりを防ぎ、健康長寿を目指すためには、適切な運動により筋肉量や筋力を増加させる「サルコペニアの予防」の有効性が示されている。本研究ではサルコペニアの予防の運動指導に加えて、普段の食事指導(食事写真アプリ+栄養士のフィードバック)を組み合わせることで、どのような変化が起こるのかを検証した。
- アプリを活用して、個別に運動指導(動画)や食事指導(食事写真解析および栄養士のフィードバック)を支援したところ、がわずか3カ月でも筋肉量が有意に増加する傾向がみられた。
- 本研究では、身体計測など一部を除き、食事指導・運動支援の介入のすべてをアプリから遠隔で行うことができた。今後、健康長寿を目指すための新しい遠隔支援モデルとして期待される。
研究の概要:医療アクセスが困難な地域の高齢者のサルコペニア予防介入という課題
現在、高齢化が進む日本において、筋肉量が低下するサルコペニア※1の予防や改善が重要な課題となっている。複数の研究により、筋肉量が低下することで死亡や要介護状態のリスクが高まることが示されている。大西氏、水上氏らの研究チームは、アフラック生命保険(株)およびアフラックデジタルサービス(株)の協力により開発したアプリケーションを活用し、遠隔による食事・運動指導を行い、骨格筋量指数(skeletal muscle mass index;SMI)※2が改善するかを検討した。
※1 サルコペニア:加齢、生活習慣、疾患などを原因として筋肉量が減少し、それに伴って筋力や身体機能が低下する状態を指す。診断には、握力の測定、体組成計などを用いた筋肉量の評価、歩行速度などの身体機能の測定が用いられる。
※2 骨格筋量指数(SMI):四肢の筋肉量を身長の2乗で割った値。サルコペニアの診断や評価に用いられる重要な指標。
同研究チームは、2019年から福井県若狭町で地域高齢者の健康づくりを支援する研究を展開している。若狭町は都市部に比べて医師が少なく、医療へのアクセスに課題を抱えていることから、研究チームではICTを活用した遠隔での健康見守りに注目。自宅で健康データを記録し、それを共有し活用することで、生活習慣を改善して病気を早期に発見することをめざしており、それにより、安心して暮らせるだけでなく、将来の医療費や介護費用の抑制にもつながると予想される。
本研究では地域住民の希望者31名にアプリを導入した。解析できた20名のうち食事指導のみ群、食事+運動指導群において、統計学的にSMI増加の可能性が示唆された。本研究の遠隔による間接的な介入で改善の兆しが確認できたことから、今後の地域高齢者支援や介護予防策への活用が期待される。
研究の背景と経緯:サルコペニアには食事・運動を柱とする積極的介入が必要
サルコペニアが進行すると、単に筋力が落ちるだけでなく、QOLが著しく低下し総死亡リスクや要介護リスクの増大を招くことが知られている。今後さらに高齢化が進む我が国で、早期からサルコペニアのリスク軽減を図り、健康寿命の延伸につなげていくことが重要。サルコペニアの改善には、食事療法と運動療法を二本柱とした積極的な介入が必要とされる。
研究の内容:専用アプリを用いて3カ月間にわたり栄養士が食事指導
本研究の対象は、2022~23年にかけて福井県若狭町の地域住民検診に参加した226名に郵送にて公募を行い、それに応じた31名のうち除外基準をクリアした20名。参加者の身体機能や運動機能評価は検診時に測定し、サルコペニアの診断は、「Asian Working Group for Sarcopenia 2019(AWGS2019)※3」の診断基準に基づき判定した。
この診断基準の3要素である筋力、筋肉量、身体機能のうち、筋肉量、筋力について、介入に伴う変化を観察した。筋肉量は全身骨格筋量、四肢筋肉量(appendicular skeletal muscle mass;ASM)を、多周波体組成計により測定し、筋力については握力を計測した。
※3 Asian Working Group for Sarcopenia 2019(AWGS2019):アジア各国のサルコペニアの研究者が集まり、2019年に話し合ってサルコペニアの診断基準が報告されている。日本では、このAWGS2019を用いてサルコペニアを判定することが推奨されている。
判定基準:(1)骨格筋量指数(SMI)の減少(BIA法;男性7.0kg/m2未満、女性5.7kg/m2未満)、(2)筋力と身体機能の低下(筋力低下:男性28kg未満、女性18kg未満、身体機能低下:歩行速度1.0m/秒以下)。上記の骨格筋量の減少に加えて、筋力低下と身体機能の両方、または一方が認められる場合に、サルコペニアと診断される。
サルコペニアの診断に加えて、携帯の専用アプリを使用し、参加者から週に3回の食事の写真を送ってもらい、その後、栄養士からフィードバックを行った。
20名の参加者は、介入中断群(平均年齢77.0歳、男性と女性が各2名)、食事指導のみ群(平均年齢71.3歳、男性と女性が各4名)、食事+運動指導群(平均年齢75.4歳、男3名、女性5名)の3群に分類し、介入前後の数値を統計学的手法により解析した。有意水準※4 は5%(p<0.05)とした。
※4 有意水準:統計学において仮説検定を行う際に使用される基準をいう。通常は5%や1%が用いられる。
解析結果:四肢骨格筋量やSMIが有意に改善
介入前後において、中断群では各項目で有意な差がみられず、食事指導のみ群では男性においてSMI(7.9→8.3kg/m2)、女性では全身筋肉量(34.9→35.3kg)と四肢骨格筋量(16.0→16.3kg)に有意な改善がみられた。食事+運動指導群では、女性において全身筋肉量(32.6→32.9kg)に有意な改善がみられ、男性と女性ともに四肢骨格筋量およびSMIに有意な改善がみられた。
今後の展開:サンプルサイズを増やし多変量解析での検証と社会実装を目指す
本パイロット研究では、運動に加えて定期的な食事指導の介入が有効であることが示された。これらの結果は、参加者の運動量や食事量など適切にカスタマイズされた間接的な介入や栄養士によるフィードバックにより、SMI(骨格筋量指数)の増加が期待できる可能性を示唆している。
今後の課題としては、参加者数の拡大、アプリに不慣れな高齢者でも簡便で使いやすい機器の開発、運動、食事指導などの適切な介入期間や頻度の設定、筋肉量だけではなく、筋肉の質にも着目した検討が必要とされる。
本研究は対照群を設けない小規模な研究ではあるが、サルコペニアの予防または改善に有用である可能性を示唆している。ただし、本研究は参加者が少数であったことから、多変量解析※5を実施できていない点に留意する必要がある。今回の結果はあくまで単変量解析※6に基づくものであり、効果を示す「可能性」を示唆する段階にとどまる。
著者らは、「今後はさらに研究を深化させ、社会実装を目指していく」としている。
※5 多変量解析:複数の要因を同時に考慮し、それぞれの要因が結果に与える影響を統計的に評価する手法。この方法により、他の要因(交絡因子)の影響を調整し、より信頼性の高い結論を導くことが可能。
※6 単変量解析:ある特定の要因(変数)と結果(例えば、疾患の有無や治療効果)との関係を1対1で検討する解析方法。この手法は、他の要因の影響を考慮せず、個々の要因が結果とどのような関連があるかを把握することを目的とする。
文献情報
原題のタイトルは、「Changes in Skeletal Muscle Mass Index With Personalized Exercise and Meal Photo Analysis via Nutrition Applications: Single-Arm Pilot Study」。〔JMIR Form Res. 2025 Sep 25:9:e71807〕
原文はこちら(JMIR Publications)







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