日本人アスリートに百日咳ワクチンの追加接種を推奨するべきか? 罹患後のパフォーマンス低下は数カ月に及ぶ懸念
日本のアスリートは百日咳ワクチンの追加接種を受けるべきではないかとする、岡山大学病院感染症内科の萩谷英大氏の論文が、「IJID Regions」に短報として掲載された。要旨を紹介する。
ポストコロナで百日咳が世界的に流行
百日咳は百日咳菌による感染症で、基本再生産数は15~17と報告されており感染力が強い。罹患すると風邪症状に始まり、数週間から数カ月にわたり咳が続くことがある。さらに、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック終息後には、マクロライド耐性株による流行が世界的規模で発生している。
幼児期から思春期にかけて、ワクチンの繰り返し接種が世界標準
百日咳の最も効果的な予防法はワクチン接種であり、国際的には幼児期から思春期にわたり繰り返し接種が推奨されている。例えば米国疾病対策センター(CDC)は、生後6カ月までに初回シリーズ(3回)を接種し、生後15~18カ月、就学前期(4〜6歳)、思春期初期(11〜12歳)の追加接種を推奨している。
日本の定期接種は乳幼児期までで終了、ワクチンのタイプも異なる
一方、我が国では、生後6カ月までに3回、12〜18カ月に1回の計4回が定期接種として行われるものの、それ以降は任意接種となるため大半の人は幼児期以降にブースト接種を受けていない。さらに、日本で用いられているワクチンは、ジフテリア、百日咳、破傷風に対する三種混合(DPT)ワクチンのみであり、抗原毒素量が海外で使われているものよりも多く、接種後の局所副反応が強く現れやすいという差異も存在する。
国際大会参加アスリート間で流行した事例がある
アスリートが百日咳に罹患した場合、軽快するまでの長期間、トレーニングに支障が生じたり、大会参加が制限されたり、パフォーマンスが低下する懸念がある。実際、過去にはポーランドの射撃ナショナルチームの選手間で百日咳が流行し、期待された成績を上げられなかったという事例の報告がある。
日本のスポーツを世界水準にするためには、ワクチン接種を世界標準に
国際化の進展とともに、人々の感染症罹患リスクは高まっており、国際大会に出場するアスリートも同様と言える。これらを論拠として萩谷氏は、「我が国のスポーツを世界水準に引き上げるためには、ワクチン接種政策を国際標準にあわせることが不可欠」と述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「Should Japanese athletes undergo booster vaccination for pertussis?」。〔IJID Reg. 2025 Jul 31:16:100718〕
原文はこちら(Elsevier)