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長距離ランナーの4人に1人がレース中に消化器症状を経験 栄養戦略との関連も明らかに

中国の800人以上のレクリエーションランナーを対象に行われた、レース中の消化器症状に関する調査の結果が報告された。4人に1人以上が消化器症状を来すこと、女性より男性に多いこと、レース前とレース中の食事が症状発現に関係していることなどが示されている。

長距離ランナーの4人に1人がレース中に消化器症状を経験 栄養戦略との関連も明らかに

長距離レースではエネルギー摂取が需要だが、それが消化器症状を招きがち

持久系競技では長時間にわたるレース中にエネルギーを枯渇させないことが結果を大きく左右し、とくに炭水化物の摂り方が重要となる。しかし、食事の摂取がレース中の消化器症状の発現に関与していることも知られている。これは、運動中には筋肉への血流が優先され、消化管の血流が不足することが原因と考えられている。

レース中の消化器症状を抑制し、かつエネルギー需要を満たすための栄養戦略の模索が続けられているが、消化器症状の発現には日常の食習慣も関与している可能性がある。今回取り上げる論文の著者によると、長距離ランナーの消化器症状に関するこれまでの研究の多くは、動物性食品中心で高脂肪食であることの多い欧米で行われてきており、植物性食品中心で高繊維であることの多い中国人での研究は少ないという。

これを背景に著者らは、中国国内の長距離ランナーの食習慣とレース中の消化器症状について、横断的な調査を行った。日本人の食習慣も、調理法という点では炒める・揚げるの多い中国とやや異なるものの伝統的に植物性食品が中心であり、欧米での研究に比べ参考になる点が多いかもしれない。

800人のレクリエーションランナーを対象に調査

この研究は、中国の長距離ランナーの栄養状態を把握する目的で実施されている大規模調査「中国マラソン栄養調査(China Marathon Nutrition Survey;CMNS)」のサブスタディとして、2024年に実施された。研究参加の適格基準は、フルマラソン、ハーフマラソン、10km走、トレイルランニングなどの長距離競技大会に参加経験がある18歳以上のランナー。重度の疾患有病者、代謝に影響を及ぼし得る薬剤の服用者、妊婦・授乳中女性などは除外した。

レース中の消化器症状については、精度検証済みの質問票(Gastrointestinal Symptom Rating Scale;GSRS)を用いて評価した。GSRSでは、腹部膨満感、腹痛、便意などの11項目の症状を7段階のリッカート尺度(症状なしは1、最も重度の不快感は7)でスコア化する。

好発症状やその関連因子などが明らかに

オンライン、オフラインにより計929人が回答し、データ欠落等を除外して805人を解析対象とした。おもな特徴は、年齢39.7±10.0歳、男性74.9%、BMI22.6±4.3で、ふだん参加している競技はマラソンが42.5%、ハーフマラソン64.6%、その他9.3%。トレーニング歴は5年未満が60.7%、1カ月の走行距離は100~200kmが43%、大会参加回数は5回未満が40.4%だった。

性別により好発症状がやや異なる

全体の26.1%のランナーが、レース中に消化器症状を経験したと回答した。最も一般的な症状は、膨満感(18.6%)、便意(17.8%)、および腹痛(16.5%)だった。

症状の出現率は性別によって異なり、男性の上部消化管症状として膨満感(19.6%)と腹痛(18.1%)、下部消化管症状として便意(18.9%)と下痢(16.9%)が多く、女性では上部消化管症状として膨満感(15.8%)と腹痛およびげっぷ(ともに11.9%)、下部消化管症状として便意(14.4%)、脇腹の痛み(12.4%)が多かった。

レースの中盤に最も症状が現れやすい

消化器症状の出現頻度と重症度はレースのステージによって異なっていた。

症状はレース中盤で最も多く現れ(30.0%)、また重症度スコアもレース中盤が最も高かった(2.43±0.22)。レース終盤になると症状の出現頻度は低下したが(16.7%)、症状は引き続き比較的強いと報告された(2.26±0.29)。性別で比較すると、女性は男性よりもレースの序盤での症状発現が多かった。

症状発現との関連因子

消化器症状の発現に関連のある因子を検討すると、複数の有意な因子が特定された。

まず、男性は女性よりも症状を経験している割合が高く(27.9 vs 20.8%、p=0.048)、年齢については34歳以下の場合にその割合が高かった(p=0.014)。最も有意性の強い因子は、胃炎、機能性消化不良、過敏性腸症候群、慢性便秘など、臨床的に診断された状態または自覚症状の既往歴だった(p<0.001)。

ランニングの経験年数、トレーニングレベル、レース歴、レース前の睡眠およびストレスレベルとの有意な関連は認められなかった。

栄養戦略との関連

回避する食品

大半のランナーが消化器症状のリスク抑制のため、何らかの食品の摂取を制限していて、制限をしていないとの回答はわずか5.5%だった。摂取を避けるとの回答が多い食品は、魚介類(47.5%)、赤身肉(26.2%)、豆類(25.3%)、乳製品(24.1%)、紅茶/コーヒー(19.4%)であり、一方で、エナジーバー/ジェル(3.1%)、エナジードリンク(3.2%)、スポーツドリンク(4.8%)を回避するとの回答は少数だった。

摂取タイミング

レース前の食事のタイミングも消化器症状の発現に影響を与えていた。レース開始30分以内の食事は、腹部膨満感(p=0.017)、便意(p=0.040)、鼓腸(p=0.011)の増加と有意に関連していた。また、レース中に消化器症状を経験したランナーは、レース後に食欲不振を報告する可能性が高く(p<0.001)、この点は回復への影響という点でも対策を要する事項と考えられた。

消化器症状の影響の認識と管理法

消化器症状を訴えたランナーの76.2%が、症状がパフォーマンスに悪影響を及ぼしていると回答した。症状出現時の対策として最も一般的なものは、走行ペースを落とすが76.2%、歩くまたは休憩をとるが41.0%であり、53.8%がこれらの対策を効果的と感じていた。症状を経験することのあるランナーの3%は、症状緩和を目的として非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を使用していると回答した。なお著者らは、NSAIDsの使用には腸の健康への潜在的なリスクを示唆する研究があると付記している。

消化器症状に関する情報源については、42.2%がソーシャルメディアに頼っていると回答し、次いで書籍や雑誌が37.8%、友人や家族との会話が31.8%だった。

論文の結論は、「本研究の結果はレクリエーションランナーの消化器症状を軽減するために、個別化された食事計画の重要性を強調している。レース前の食事のタイミングを調整し、特定の食品を避けることで、不快感を軽減できる可能性がある。今後の研究では、持久系競技におけるアスリートの健康とパフォーマンスを向上させるための、個々のランナーに合わせた栄養とトレーニングのアプローチを探求する必要がある」と総括されている。

文献情報

原題のタイトルは、「Gastrointestinal symptoms among recreational long distance runners in China: prevalence, severity, and contributing factors」。〔Front Nutr. 2025 Jul 23:12:1589344〕
原文はこちら(Frontiers Media)

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