サルコペニア患者におけるロイシン強化ホエイプロテインの有効性を総括 筋トレ併用で改善の可能性
今回は、サルコペニア患者におけるロイシンを強化したホエイプロテイン補給の効果に関するレビュー論文の要旨を紹介する。パキスタン、中国、タイ、エチオピアの研究者らによるもの。

サルコペニアに対するロイシン強化ホエイプロテインサプリの有用性を文献レビュー
サルコペニアはフレイルや転倒のリスクを高め、2型糖尿病のリスク上昇とも関連が知られている。世界的にサルコペニア患者の増加が報告されており、例えばパキスタンの中規模を都市で行われた疫学研究では16%という有病率が報告されている。それにもかかわらず、多くの高齢者が、筋タンパク質合成に必要とされるタンパク質を十分に摂取していないことも報告されている。
近年、サルコペニアの予防や治療において、栄養戦略、とくにロイシン強化保衛プロテインとレジスタンストレーニングの併用に関する関心が高まっている。ロイシンは必須アミノ酸であり、ラパマイシン標的タンパク質(mechanistic Target of Rapamycin;mTOR)経路を介して筋タンパク質合成を促進し、レジスタンストレーニングは筋力を高める。日本からの報告では、ロイシンを含むホエイプロテインとレジスタンストレーニングの並行介入が、プロテイン摂取のみやレジスタンストレーニングのみよりも高齢者のサルコペニア予防・改善に有効であることが報告されている。これらを背景として著者らは、高齢者におけるロイシン強化保衛プロテインサプリメントの有益性に関する報告を対象とする、包括的な解析を実施した。
Google Scholar、Wiley、PubMed、Scopus、NCBIなどの文献データベースから、関連のある論文を広範囲に検索した。検索には、サルコペニア、サルコペニア肥満、高齢者、mTOR、ロイシン、ホエイプロテイン、ロイシン強化ホエイプロテイン、筋肉量などのキーワードを用い、2011~23年に発表されたランダム化比較試験、縦断研究、メタアナリシスを体系的にレビューした。
サルコペニアと疾患の関連
サルコペニア癌患者
癌患者は栄養不良の有病率が高く、治療の忍容性、臨床転帰および生存率に極めて大きな悪影響を及ぼす。そのため、早期の栄養サポートと早期の栄養スクリーニングを行うことが強く推奨されており、さまざまなサプリメントが推奨されている。しかし、癌患者に対するロイシン強化サプリのエビデンスは不足している。
そうしたなか、ある研究では、ロイシン強化サプリ摂取により癌患者の栄養バイオマーカーが安定し筋機能が向上したことが報告されている。この研究では、ホエイプロテインベースの経口サプリメントをビタミンDサプリと組み合わせると、癌患者の筋肉機能、生活の質、体組成の維持に有益であると結論付けている。
3経路のメカニズム
高齢者におけるmTORシグナル伝達経路
mTORシグナル伝達経路が活性化しているにもかかわらず同化抵抗性を示す反応は、サルコペニアの特徴と言える。高齢者では、速筋線維の萎縮・喪失に伴い遅筋の割合が増え、骨格筋におけるGLUT-4(glucose transporter-4)の機能低下やインスリン刺激に対する筋のグルコース取り込みの低下が見られる。これらは肥満や2型糖尿病などの代謝異常と関連している。
ロイシンとmTORシグナル伝達経路
多くの研究により、ロイシン強化アミノ酸摂取はmTOR経路を活性化し、骨格筋におけるタンパク質合成を促進することが示されている。さらに、ロイシン強化アミノ酸サプリをレジスタンストレーニングと併用すると、筋タンパク合成はより高まる。高齢者の食事にロイシンを補充することで、サルコペニアの改善に寄与する可能性がある。
サーチュイン経路とサルコペニアの関連
サーチュインのSIRT1(Sirtuin 1)は、骨格筋におけるタンパク質恒常性、アポトーシス、ミトコンドリア機能障害、インスリン抵抗性、およびオートファジーの調節に重要な役割を果たすことから、サルコペニアの抑止において重要な役割を担っている。サーチュイン経路は、サルコペニアの主要因である加齢およびフレイルと密接に関連し、この経路はニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)依存性タンパク質として知られる7種類のアイソフォームから構成されている。またこの経路は加齢を遅らせるという点で、現時点で一定程度のエビデンスのあるほぼ唯一に近い手段である、カロリー制限食の効果を媒介する働きも担っている。
分岐鎖アミノ酸としてのロイシン
ロイシン、イソロイシン、バリンという分岐鎖アミノ酸(branched-chain amino acids;BCAA)は必須アミノ酸と考えられており、なかでもロイシンはmTORシグナル伝達経路の重要な活性化因子であり、筋タンパク質合成を促進する。運動前に摂取すると、運動後にBCAAレベルが増加する。
最近の研究では、13週間のレジスタンストレーニングと併用して1日10gのロイシンを補給することで、サルコペニア患者の歩行速度が向上したことが示された。また、ロイシン低値が死亡リスクと関連するとする報告もあるが、一方で栄養介入では死亡リスクに有意な影響はみられないと報告されており、標的を絞った栄養戦略のさらなる研究が必要である。
アミノ酸源としてのホエイプロテイン
牛乳とその成分は、ヒトの健康に直接影響を与える機能性食品として広く知られている。牛乳にはホエイとカゼインという2種類の主要なタンパク質がある。ホエイプロテインは、アルブミンやラクトフェリンなどの免疫グロブリン、カルシウム、ビタミンDなどの必須栄養素を含む生理活性成分の豊富な供給源である。ラクトフェリンは強力な抗菌作用を示し、ほかのグロブリンは抗菌作用や抗ウイルス作用に寄与している。
慢性炎症性疾患や肥満症の状況において、ホエイプロテインは、とくに副甲状腺ホルモンや1,25-ジヒドロキシコレカルシフェロールなどのカルシウム産生ホルモンと組み合わせると、炎症を軽減することが示されている。さらに、グルコース恒常性を調節し、脂肪形成を阻害する役割も報告されている。また、これらの代謝上のメリット以外にも、レジスタンストレーニングによって引き起こされる酸化ストレスを軽減し、免疫細胞内の酸化還元バランスを維持するのに役立ち、それによって全体的な免疫機能を強化する。
サルコペニアのためのロイシン強化ホエイプロテイン
ロイシン強化ホエイプロテインとレジスタンストレーニングを組み合わせることで、高齢者のサルコペニア対策として、臨床的に意義のあるエビデンスに基づいた戦略が実現する。
ロイシンは筋タンパク質の合成を促進し、筋肉の分解を抑制するうえで重要な役割を果たし、加齢に伴う同化抵抗に対抗する。この栄養介入は、レジスタンストレーニングと組み合わせることで、筋肉量、筋力、身体機能を有意に改善し、高齢者の可動性を高め、自立を支援することが示されている。既存の研究は、デザイン、投与量、参加者の特徴がさまざまだが、全体的な知見は、一貫してこのアプローチの利点を強調している。
これらの知見を臨床診療に効果的に応用するために、今後の研究では、投与戦略の改良、長期的なアウトカムの評価、個々の患者のニーズに合わせた介入の個別化を目指し、最終的にはより広範な導入を促進し、ターゲットを絞った栄養と運動を通じて健康的な老化を目指す必要がある。
文献情報
原題のタイトルは、「Enhancing Muscle Quality: Exploring Leucine and Whey Protein in Sarcopenic Individuals」。〔J Cachexia Sarcopenia Muscle. 2025 Oct;16(5):e70060〕
原文はこちら(John Wiley & Sons)







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