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女性のレジスタンストレーニング、その歴史と健康効果を総括 パフォーマンスからメンタルヘルスまで広がる効果

過去には、女性のレジスタンストレーニングは推奨されない時代があったが、現在では、女性の健康とパフォーマンスに多くのメリットがあることが広く認識されている。今回は、女性のレジスタンストレーニングの歴史とパフォーマンス向上や健康効果に関する、米国の研究者らによる総説論文の要旨を紹介する。

女性のレジスタンストレーニング、その歴史と健康効果を総括 パフォーマンスからメンタルヘルスまで広がる効果

イントロダクション

歴史を通じて、文化的な規範や固定観念により、女性のレジスタンストレーニング(resistance training;RT)は推奨されていなかった。今日では、科学的研究と支援活動に支えられ、女性がRTを行うことの認識と受容が高まり、多くの女性がRTにより健康とパフォーマンスのメリットを得ている。

一般的に、女性のRTへの生理学的適応は、男性と同様に主に神経内分泌系と免疫系によって媒介されるが、性ホルモンであるエストロゲン、テストステロン、成長ホルモン、インスリン様成長因子Iが関与する、いくつかの異なる主要経路を介する。その結果、女性は筋肥大、基質利用、疲労および回復に関して男性とは異なる適応を示すことがある。このような生理学的差異はあるものの、女性は十分な頻度、強度、持続時間のRTプログラムに参加することで、筋力、パワー、運動能力の向上を達成する。さらにパフォーマンスの向上以外にも、RTは女性の健康に好ましい影響を与える。具体的には、代謝、体組成、骨の健康、心血管の健康、精神の健康、自尊心、そしてボディーイメージの向上などが挙げられる。ただし、男性と女性に対するRTの推奨事項は非常に類似しているが、目標によっては女性において特に留意すべき点がいくつかある。

女性のRTと歴史的変遷

20世紀初頭、女性がウェイトトレーニング施設を利用できる機会は非常に限られていた。当時の社会規範では、女性の身体活動は優雅さと女性らしさの維持に重点を置くべきとされており、柔軟体操、軽い運動、および性別にふさわしいと見なされるその他の活動に限定されることが多かった。

RTは男性の領域であると広く考えられており、女性にとっての潜在的なメリットについてはほとんど考慮されていなかった。そのようななか、YMCA(キリスト教青年会)は、女性に軽い運動器具を提供するようになったが、これらは男性が利用できる包括的なウェイトトレーニング設備とはほど遠いものであった。女性に提供される運動器具は、筋力増強目的でないマシンに限られることが多く、筋肉質は女性にとって望ましくないという当時の一般的な考え方を反映していた。

20世紀半ば、1950年代から60年代にかけて、女性のフィットネスを取り巻く状況は徐々に変化していった。女性専用のジムが登場し始めたが、その多くは有酸素運動、ストレッチ、小さなウェイトやレジスタンスバンドを使用した軽い抵抗運動を重視していた。この時期に人気を博したフィットネスクラス、たとえば柔軟体操、ヨガ、ダンスなどのクラスは、筋肉量を増やすことよりも、柔軟性や心血管の健康を増進することを目的としていた。

1970年代から80年代は、フィットネス業界にとって変革の時代であり、より幅広い機器を提供するヘルスクラブや商業ジムが急速に台頭した。しかし、これらの施設の利用者は主に男性が占めており、機器は重量や人間工学の点で主に男性向けに設計されていた。

1972年のタイトルIX(教育における性差別を禁止する連邦法)の成立は、米国における女子スポーツにとって大きな転換点となった。この画期的な連邦公民権法は、連邦政府の資金援助を受けるあらゆる教育プログラムや活での性差別を禁じ、スポーツにおける女性の機会を劇的に拡大した。タイトルIX制定以前は、米国内で高校スポーツに参加する女子は30万人未満だったが、現在では330万人以上の女子が参加しており、タイトルIXが女子アスリートの機会拡大に大きく貢献したことを示している。

一方、80年代に広まったフィットネスブームにより、女性のフィットネスのルーティーンにウェイトトレーニングが定着し、ヘルスクラブは女性向けのより包括的なプログラムを提供するようになった。メディアはRTの利点を強調し、女性の望ましいボディーイメージとして、強く引き締まった体格を受け入れるよう奨励した。この時期に社会の態度が大きく変わり、スリム体型志向から、より筋肉質な女性の体型が受け入れられるようになった。

1990年代は女性のフィットネスの新時代を迎え、とくに女性のニーズに応えるよう設計された女性専用のジムやフィットネスセンターの出現が目立ってきた。これらにより、女性のRTがより身近なものになった。

そして21世紀に入り、女性のRTとRTを取り巻く状況は劇的な変化を遂げた。2000年代初頭、女性のRT参加の機運は高まり続けていた。同時に、ウェイトリフティングを行う女性への偏見は薄れていった。この変化は、運動科学への理解の深まりと、インターネットやソーシャルメディアを通じた情報の広範な発信によって促進され、女性にRTのメリットを伝えるうえで大きな役割を果たした。

パフォーマンス向上以外の健康上のメリット

パフォーマンス向上以外に女性がレジスタンストレーニング(RT)を行うメリットがあり、肉体的・精神的にも過小評価されている健康上のメリットが数多くある。また、RTによる筋力とパフォーマンスの向上は、強度と負荷に強く関連しているが、RTの健康上のメリットの多くは、さまざまな強度と頻度で得ることができる。

女性にとってのRTの健康上の利点は、罹患率と死亡率の低下という形で表れる。2022年に行われた6件の研究のメタ解析では、RTを行わない場合と比較して、あらゆる量のRTにより全死亡リスクが15%減少することが示された。

身体の健康に加えてRTは、女性にメンタルヘルス上のメリットをもたらし生活の質(QOL)を高める。RTは健常者と精神疾患罹患者の双方において、年齢を問わず、不安や抑うつ症状を軽減することが研究で示されている。

今後の方向性

女性にとってのRTのメリットに関する理解は大きく進歩したが、いくつかの分野ではさらなる研究が必要とされる。今後の研究は、RTの長期的な効果、とくに数十年にわたる継続的な運動が高齢女性の健康状態にどのような影響を与えるかに焦点を当てるべきだろう。さらに、年齢層やフィットネスレベルに応じてメリットを最大化する最適なトレーニング変数(頻度、強度、量など)を探るためにも、さらなる研究が必要である。

また、女性のRT参加に影響を与える心理的・社会的要因の調査も重要な分野だ。これらの要因を理解することで、とくに歴史的に参加率が低かった集団において、トレーニングへの参加と継続率を高める、より効果的なプログラムを設計できる可能性がある。

加えて、RTと食事療法や有酸素運動といった他の健康介入との関連性を研究で検証し、健康状態全体を改善するうえで最も効果的な組み合わせを特定する必要がある。RTが、がんや心血管疾患といった慢性疾患の影響を軽減する可能性について、分子メカニズムの視点からのより深い研究も求められる。

文献情報

原題のタイトルは、「Evolution of resistance training in women: History and mechanisms for health and performance」。〔Sports Med Health Sci. 2025 Feb 3;7(5):351-365〕
原文はこちら(Elsevier)

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