肥満の人の体重や腹囲が腎機能と関連 男女とも増加すると悪化、男性は減少すると腎機能低下を抑制できる可能性
特定健診の大規模データを用いて、肥満者の体重(body weight;BW)やウエスト周囲長(waist circumference;WC)の変化と腎機能(eGFR)の変化との関連を解析した結果が報告された。男性ではBW・WCの減少が腎機能に対して保護的に働き、BW・WCの増加はeGFRの低下を加速させる可能性がある一方、女性ではBW・WCの増加がeGFRの加速と関連しているのみで、BW・WCの減少によるeGFRに対する保護的な効果はみられないという。奈良県立医科大学附属病院臨床研究センターの小津有輝氏、浅田潔氏らの研究によるもので、「Endocrine Journal」に論文が掲載された。

肥満に伴う腎機能の低下速度は、肥満の改善や悪化に伴って改善・悪化するのか?
肥満は、2型糖尿病や脂質異常症、高血圧など、生活習慣病と呼ばれる種々の心血管代謝疾患の主要なリスク因子であり、それらの疾患を介して、または直接的に、腎機能を低下させ得る。肥満に伴う心血管代謝疾患のリスクは、体重の3~5%程度の減量でも抑制されることが示されているが、肥満者の体重変化が腎機能に及ぼす影響については知見が乏しい。これを背景として小津氏・浅田氏らは、厚生労働科学研究「特定健康診査による個人リスク評価に基づく、保健指導と連結した効果的な慢性腎臓病(CKD)地域医療連携システムの制度設計」の一環として、特定健診・保健指導データを用いた検討を行った。
この研究では、2008~11年に特定健診・保健指導を受けていて3年間の追跡が可能であり、ベースライン(初回の健診)時点で肥満(BMI25以上)であったデータ欠落のない2万326人(男性49.5%)を解析対象とした。
体重・ウエスト周囲長の変化で3群に分け、eGFRの傾きや蛋白尿発現との関連を解析
体重(BW)やウエスト周囲長(WC)の変化については、ベースラインの1年後にそれら両者とも5%以上低下していた場合を「減少群」、両者とも5%以上上昇していた場合を「増加群」とし、減少群、増加群のいずれにも該当しない場合を「不変群」として、3群に分類した。
主要評価項目は推算糸球体ろ過量(eGFR)の変化であり、ベースラインから1年後の変化を、BWやWCの変化に伴う「同時期効果」、ベースラインから3年後までの変化を「持ち越し効果」として関連を解析した。
肥満者の体重やウエスト周囲長の変化による腎機能との関連は性別で異なる
肥満者はeGFRの低下が速い
男性のベースライン時点の主な特徴は、平均±標準偏差で、年齢61.5±8.1歳、BW 73.1±8.0kg、WC 92.7±6.4cm、BMI 27.3±2.1、eGFR 72.9±15.2mL/分/1.73m2(以下では単位を省略)だった。BW・WCカテゴリーは、減少群が296人(2.9%)、増加群が96人(0.9%)だった。
女性のベースライン時点の主な特徴は、年齢62.9±6.9、BW 62.5±7.2、WC 92.8±7.5、BMI 27.6±2.6、eGFR 74.1±15.7だった。BW・WCカテゴリーは、減少群が283人(2.8%)、増加群が73人(0.7%)だった。
eGFRは年平均-0.59(95%信頼区間―0.66~―0.51)のスピードで低下していた。性別ごとにみると、男性は-0.60(同-0.71~-0.50)、女性は-0.57(-0.69~-0.45)で低下していた。これらの値は、特定健診受診者全体の平均値として報告されている-0.45より大きく、日本人において、BMI25以上の肥満者は腎機能低下速度が速いことが改めて確認された。
男性のBW・WC減少はeGFR保護的に働く
それでは、本研究の主テーマであるBWとWCの減少または増加とeGFRの変化との関連をみてみよう。この関連の解析に際しては、ベースラインの年齢、身長、BW、WC、eGFR、血圧、HbA1c、血清脂質、肝機能、降圧薬、血糖降下薬、脂質改善薬などを交絡因子として調整したうえで、BW・WC不変群を基準として減少群および増加群との差を求めた。
まず男性では、BWとWC両者減少に伴う同時期効果(eGFRの1年間の変化の差)は1.67(0.59~2.75)、持ち越し効果(eGFRの3年間の変化の差)は1.53(0.35~2.70)であった。つまり、BW・WCともに減少した場合は、男性の場合、腎機能保護的に働くことが示唆された。
一方、BWとWC両者増加に伴う同時期効果は-1.60(-3.76~0.55)、持ち越し効果は-1.80(-4.09~0.48)であり、eGFRの低下傾向がみられた。つまり、BW・WCともに増加した場合は、男性の場合、腎機能低下を速める潜在的な可能性が示唆された。
女性のBW・WC増加はeGFR低下の加速と関連
次に女性では、BWとWC両者減少に伴う同時期効果は0.85(-0.57~2.26)、持ち越し効果は0.17(-1.34~1.67)であった。つまり女性の場合、男性と異なり、BW・WCともに減少することによる腎機能に対する保護的な作用が観察されなかった。
一方、BWとWC両者増加に伴う同時期効果は-2.87(-5.51~-0.24)、持ち越し効果は-4.17(-7.13~-1.20)であった。つまり女性の場合も、BW・WCともに増加した場合は、腎機能低下を速める可能性が示唆された。
男性では体重管理で腎機能低下を抑制し得る可能性
上記のほかに、副次評価項目として蛋白尿の発現との関連も検討された。その結果、リスク差の検討では男性、女性ともに、BW・WCの減少に伴う同時期効果と持ち越し効果の双方でリスク抑制が認められた(リスク比としての検討では、男性の持ち越し効果と女性の同時期効果でリスク抑制が認められた)。
以上一連の結果を基に論文の結論は、「男性において、体重およびウエスト周囲長の減少は腎機能保護効果と関連し、それらの増加は腎機能悪化と関連していた。しかし女性では、体重およびウエスト周囲長の減少による腎機能低下抑制がみられなかった。体重やウエスト周囲長の変化は、とくに男性において将来の腎機能の予測に重要であり、体重管理が腎不全の抑止につながる可能性がある」と総括されている。
なお、女性では腎機能の変化との関連が男性ほど明確でなかった理由として著者らは、「女性は閉経後に骨格筋量が大きく減少するため、体重の減少が脂肪量の減少を意味しないケースもあると考えられ、代謝リスクの変化を捉えにくいのではないか」との考察を加えている。
文献情報
原題のタイトルは、「Sex-specific associations between annual kidney function changes and weight/waist changes in overweight Japanese: Japan Specific Health Checkup cohort」。〔Endocr J. 2025 Oct 2〕
原文はこちら(J-STAGE)







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