乳製品の摂取は心血管疾患リスクをわずかに低下、骨の健康にも有益 アンブレラレビューと最新のメタ解析
乳製品の摂取と心血管疾患(CVD)や骨の健康との関連に関するアンブレラレビュー、および最新のメタ解析の結果が報告された。乳製品全体、牛乳、ヨーグルト、バターなどに分類した解析が行われている。全体として、乳製品はCVDリスクの低下とわずかに関連しており、骨の健康にとっては有益性が認められるという。

乳製品と心血管疾患、骨の健康に関するこれまでの研究
骨粗鬆症と心血管疾患(cardio vascular disease;CVD)は、かつては互いに独立した疾患とされていたが、多くの疫学研究により関連性が示されてきている。その関連のメカニズムの一部は、加齢、喫煙、運動不足、飲酒、糖尿病などの共通するリスク因子により説明できると考えられるが、炎症、酸化ストレス、アテローム性動脈硬化の進展プロセスと骨リモデリング障害など、生物学的に共通するメカニズムの関与の存在も想定されるようになってきている。
食事も、骨粗鬆症とCVDに共通するリスク因子である可能性があり、かつ、修正可能な因子であることから、これらの疾患の世界的な増加を背景として、その実態を明らかにする必要性が高くなってきている。これまでにも多くの観察研究や介入研究がなされ、さらにそれらの報告を対象とするメタ解析もされてきているが、結果の一貫性が十分でない。とくに、乳製品の骨代謝に対するプラスの影響に比べて、CVDに対しては、乳製品に含まれているカルシウムやカリウム、マグネシウムなどのミネラルが血管内皮機能や糖代謝、ナトリウムバランスという点で保護的に働くと考えられる一方、脂質も多く含むことがリスク上昇に働くことも理論的には考えられる。
これらを基に今回取り上げる論文の著者らは、これまでの研究で得られたエビデンスを包括的に統合して、乳製品のタイプ別の検討などを含むアンブレラレビューを実施。また、CVDとの関連については最新のメタ解析も行った。
文献検索について
アンブレラレビューでは、システマティックレビューとメタ解析のガイドライン(PRISMA)に準拠して、2024年4月までにMEDLINE等の文献データベースに収載された、システマティックレビューとメタ解析の報告を検索。対象が19歳以上の成人であり、乳製品摂取の介入または曝露によるCVDまたは骨関連指標との関係を対照群と比較している報告を適格とした。先天性疾患、感染性疾患、外傷性疾患に伴うCVDまたは骨転帰をアウトカムとしている研究の報告は除外した。
8件のデータベースで1,158報がヒットし、重複削除後の805報を2名の研究者がタイトルと要約に基づきスクリーニングして、45報を対象に全文精査を実施。抽出された33報に、CVDリスクについてはハンドサーチで特定した7件の報告を追加し、解析が行われた。
乳製品摂取とCVDイベントおよびCVDのリスク因子との関連
乳製品の総摂取量とCVD:リスク低下が示される
30件の研究(参加者121万6,100人、イベント6万474件)の再解析で、乳製品の摂取量の最も多い群は最も少ない群と比較して、CVDの相対リスク(RR)が0.96(95%CI;0.93~0.99)であり、有意なリスク低下が示された(p=0.005)。研究間の異質性は中等度だった(I2=48%)。
牛乳の摂取量とCVD:リスク低下が示される
23件の研究(153万962人、4万3,609件)の再解析で、牛乳の摂取量の最も多い群は最も少ない群と比較してRR0.969(0.941~0.998)であり、有意なリスク低下が示された(p=0.035)。研究間の異質性は中等度だった(I2=54.7%)。
ヨーグルトの摂取量とCVD:リスク低下が示される
14件の研究(49万6,631人、2万4,337件)の再解析で、ヨーグルトの摂取量の最も多い群は最も少ない群と比較してRR0.92(0.87~0.98)であり、有意なリスク低下が示された(p=0.012)。研究間の異質性は低かった(I2=19.8%)。
冠動脈疾患(coronary heart disease;CHD)リスクとの関連
乳製品の総摂取量とCHD:有意な関連なし
35件の研究(151万6,353人、6万2,067件)が再解析され、両者間に有意な関連性は認められなかった(RR0.98〈0.95~1.01〉、p=0.21、I2=56.3%)。
牛乳の摂取量とCHD:わずかなリスク上昇が示される
25件の研究(143万7,380人、5万6,428件)が再解析され、牛乳の摂取量が多いことは、わずかだが有意なCHDリスクの上昇と関連していた(RR1.0189〈1.0007~1.0374〉、p=0.041、I2=32.3%)。
ヨーグルトの摂取量とCHD:有意な関連なし
11件の研究(71万5,404人、2万536件)が再解析され、両者間に有意な関連性は認められなかった(RR0.98〈0.91~1.07〉、p=0.82、I2=62.6%)。
脳卒中リスクとの関連
乳製品の総摂取量と脳卒中:リスク低下が示される
20件の研究(87万3,992人、4万1,792件)が再解析され、乳製品の摂取量の最も多い群は最も少ない群と比較して有意なリスク低下が示されたが、研究間の異質性が高かった(RR0.87〈0.81~0.94〉、p=0.0003、I2=88.2%)。
牛乳の摂取量と脳卒中:リスク低下が示される
12件の研究(96万4,851人、4万7,448件)が再解析され、牛乳の摂取量の最も多い群は最も少ない群と比較して有意なリスク低下が示されたが、研究間の異質性がかなり高かった(RR0.90〈0.83~0.98〉、p=0.024、I2=91%)。
ヨーグルトの摂取量と脳卒中:有意な関連なし
5件の研究(22万5,141人、7,303件)が再解析され、両者間に有意な関連性は認められなかった(RR1.00〈0.90~1.13〉、p=0.88、I2=32.7%)。
高血圧リスクとの関連
乳製品の総摂取量と高血圧:リスク低下が示される
23件の研究(68万1,467人、15万8,709件)が再解析され、乳製品の摂取量の最も多い群は最も少ない群と比較して有意なリスク低下が示された(RR0.89〈0.85~0.94〉、p=0.000017、I2=65.4%)。
牛乳の摂取量と高血圧:リスク低下が示される
10件の研究(24万9,450人、9万396件)が再解析され、牛乳の摂取量の最も多い群は最も少ない群と比較して有意なリスク低下が示されたが、研究間の異質性が高かった(RR0.947〈0.902~0.995〉、p=0.034、I2=79%)。
ヨーグルトの摂取量と高血圧:有意な関連なし
5件の研究(73万5,034人、10万5,362件)が再解析され、両者間に有意な関連性は認められなかった(RR0.97〈0.86~1.08〉、p=0.43)、I2=84.3%)。
乳製品摂取と骨の健康との関連
骨の健康については、研究デザイン、アウトカム指標などについて研究間に大きな異質性があり、メタ解析を実行できず定性的な解析が行われた。
全体として乳製品、とくに牛乳の摂取は骨密度の上昇と関連していたが、骨粗鬆症リスクに関するエビデンスはさまざまであり、牛乳は骨折との関連が一貫していないのに対し、チーズとヨーグルトは保護効果が示唆された。また限定的なエビデンスではあるが、牛乳は骨吸収マーカーを低下させる可能性を示唆している。
本アンブレラレビューの結果は、これらの解析と考察に基づき、「乳製品、とくに牛乳とヨーグルトの摂取が心血管疾患リスクの低下とわずかに関連していることが示唆される一方で、乳製品の摂取は骨密度と骨折予防に有益であると考えられる。しかし、これらの関連性を確認するにはさらなる研究が必要である」と総括されている。
文献情報
原題のタイトルは、「Dairy Consumption and Risk of Cardiovascular and Bone Health Outcomes in Adults: An Umbrella Review and Updated Meta-Analyses」。〔Nutrients. 2025 Aug 22;17(17):2723〕
原文はこちら(MDPI)







熱中症予防情報
SNDJユニフォーム注文受付中!

