高齢者の社会参加に情報収集力と歩行速度が関与? フレイル健診データを機械学習モデルで解析
フレイル健診受診者のデータを用い、機械学習により高齢者の社会参加状況の予測モデルを構築して、その判別能を検討した研究結果が報告された。比較した3種類のモデルの中では深層学習モデルが最もバランスの良い判別能を示し、そのモデル構築に最も寄与した因子は情報収集能力や歩行速度などだったという。信州大学医学部保健学科理学療法学専攻の横川吉晴氏らの研究によるもので、「Geriatrics」に論文が掲載された。
フレイル抑止のための社会活動への参加を阻害する因子は何か?
高齢者の社会活動への参加は健康の維持・増進につながり、かつ、高齢者の良好な健康状態は社会活動への参加につながるという、双方向性の関連のあることが知られている。そして、高齢者の社会活動と健康状態の双方を阻害する重要な因子として、フレイルが挙げられる。ただしこれまでのところ、フレイルリスクのある高齢者の社会活動参加を阻害する因子が明確にされているとは言えず、その一因として、従来の統計学的なアプローチでは、健康状態と社会参加の複雑な双方向性を包括的に把握することの難しさがある。
これに対して機械学習は、複雑なデータセットから潜在的な関連性を見いだして、高精度の予測モデルの構築が可能。横川氏らは、深層学習、非線形サポートベクターマシン(nonlinear support vector machine;NLSVM)、および機械学習によるロジスティック回帰という3種類のモデルを用いて、高齢者の社会活動参加阻害因子の特定を試みるとともに、このアプローチの適用可能性を検討した。
フレイル健診と運動教室に参加した高齢者を社会参加の有無で2群に分類して検討
この研究は、長野県松本市在住の65歳以上の高齢者のうち、地域で開催された運動教室登録者でフレイル健診に参加した295人のデータを用いて行われた。
研究参加者の社会活動への参加状況の評価には、JST版新活動能力指標(Japan Science and Technology Agency-Index of Competence;JST-IC)を用いた。JST-ICは16項目の質問からなり、このうち「社会参加」に関連する4問(地域の祭りや行事に参加しているか、町内会・自治会で活動しているか、自治会やグループ活動の世話役や役職を引き受けることができるか、奉仕活動やボランティア活動をしているか)のいずれかに「はい」と回答した場合は「社会活動に参加している」、すべてに「いいえ」と回答した場合には「社会活動に参加していない」と判定した。
その結果、236人(80%)が社会活動に参加しており、59人(20%)が参加していないと分類された。
社会活動への参加の有無での比較で、年齢、歩行速度、情報収集能力などに有意差
社会活動への参加のほかに、年齢、性別、教育歴、就労状況、経済状況、同居者数、疾患数、歩行速度、握力、転倒歴、認知機能、フレイルカテゴリー、睡眠時間、手段的日常生活動作(IADL)、年間医療費、情報収集能力、健康リテラシーなどの18項目を、一般的な評価指標や質問によって把握した。情報収集能力についてはJST-ICの「情報収集」に関連する4問(外国のニュースや出来事に関心があるか、健康に関する情報の信憑性を判断できるか、など)に基づき判定した。
これら18項目の評価結果を社会活動への参加の有無の2群で比較すると、平均年齢(社会活動参加群79歳 vs 非参加群81歳)、歩行速度(同順に1.22 vs 1.09m/秒)、健康リテラシー(20 vs 18点)、情報収集能力(4 vs 2点)などに有意差が認められた。性別の分布や教育歴、握力、疾患数、就労状況、認知機能、転倒歴などには有意差がなかった。フレイルカテゴリーについては、社会活動非参加群でロバスト(非フレイル/プレフレイル)が少ない傾向があったが、群間差はわずかに有意水準に至らなかった(p=0.051)。
情報収集能力や歩行速度などが社会参加に影響する可能性
続いて、社会活動への参加の有無を目的変数、その他に評価された18項目すべてを説明変数として、機会学習により前記3種類の予測モデル構築を行った。その際、全データの80%にあたる235人分をトレーニング用のデータセット、残り20%にあたる60人分を検証用データセットとした。なお、3種類の予測モデルのうち、非線形サポートベクターマシン(NLSVM)とは、データ分類のための最適な境界を見いだすことに優れた機械学習モデルであり、非線形の複雑なデータ構造にも対応できることが特徴とされている。
各モデルの判別能は、適合率(precision〈誤認の少なさ〉)、感度、特異度、F1スコア(感度と適合率のバランス)、およびAUCなどで評価した。
深層学習モデルはF1スコアが高く、バランスのよい判別能を示す
三つのモデルのなかで、深層学習は感度(0.833)、およびF1スコア(0.625)が最高値であり、バランスのとれた性能を示した。NLSVMはAUCが最も高かったが(0.795)、適合率が最も低く(0.438)、偽陽性が多くなる傾向が示された。ロジスティック回帰は適合率と(0.894)と特異度(0.833)が最も高い一方で感度が低いために(0.583)、F1スコアは2番目で(0.519)、AUCは最も低かった(0.776)。3種類のモデルのAUCは0.776~0.795の範囲であり、いずれも判別能は中程度と判定された。
深層学習モデルにおいてモデル構築に寄与した因子は、寄与率の高いものから順に、情報収集能力(寄与率12.28%)、歩行速度(4.54%)、睡眠時間(3.98%)、同居者数(3.85%)、IADL(2.81%)などであった。ただし、いずれも単独では統計的に有意な判別能を示さなかった。
高齢者の社会参加の予測は難しい?
著者らは本研究の限界点として、横断的手法による検討のため因果関係の推論が制限されること、解析対象が地域運動教室登録者のうちフレイル健診参加者でありサンプリングバイアスが存在する可能性のあること、説明変数とした18項目の妥当性が不明なことなどを挙げている。また、検討した3種類のモデルのAUCがいずれも0.8未満であり判別能は中程度であって、「高齢者の社会活動への参加を予測することの複雑さ、および方法論的な課題が浮き彫りにされた」と記している。
これら一連の検討・考察に基づき、論文の結論は「機械学習モデルは、フレイル健診を受診した高齢者の社会活動への参加を予測するうえで中程度の判別能を示し、深層学習は最もバランスのとれた性能を示した。また情報収集能力が重要な要素として浮上した。なお、各モデルのパフォーマンス特性が異なることから、スクリーニングに用いる際には目的に適したモデルを慎重に選択する必要がある」と総括されている。
文献情報
原題のタイトルは、「Examination of Social Participation in Older Adults Undergoing Frailty Health Checkups Using Deep Learning Models」。〔Geriatrics (Basel). 2025 Sep 12;10(5):124〕
原文はこちら(MDPI)