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植物性食品中心の食生活では多疾患併存(マルチモビディティ)が少ない傾向 欧州40万人に11年間の追跡調査

40万人を11年間追跡した結果、健康的な植物性食品の食生活を送っている人は、生命予後との関連が強い、癌、心血管疾患、2型糖尿病のうち二つ以上の併発で定義した「多疾患併存」(multimorbidity〈マルチモビディティ〉)が、有意に少ないことが明らかになった。この関連は、60歳未満ではより強固に認められるという。

植物性食品中心の食生活では多疾患併存(マルチモビディティ)が少ない傾向 欧州40万人・11年間の追跡調査

多疾患併存に食習慣は関係あるか?

複数の疾患を併発した状態である多疾患併存は、世界的に増加し、とくに高齢者の健康課題として対策が急がれている。2023年の報告では、多疾患併存の世界的な有病率は37%であり、60歳以上では50%を超えるという推計値が報告されている。

疾患を個々にみた場合には、発症リスクに食習慣や栄養素摂取状況が関係していることが明らかな疾患は多く存在するが、多疾患併存にもそのような関連があるのか否かは十分に検討されていない。今回紹介する論文の著者らは、欧州で行われている二つの大規模疫学研究のデータを縦断的に解析し、この点を調査した。

欧州の40万人を11年間追跡

この研究には、「欧州癌・栄養前向き調査(European Prospective Investigation into Cancer and Nutrition;EPIC)」と「UKバイオバンク(UK Biobank)」のデータが解析に用いられた。EPICは1992~2000年に欧州10カ国、23施設で登録が行われ、現在も継続中の前向き研究であり、参加者のベースライン年齢は35~70歳で多くは一般住民で、一部の国では健診受診者や献血協力者が参加している。UKバイオバンクは2006~10年に英国でスタートした、現在も継続中の前向き研究であり、参加者は一般住民でベースライン年齢は40~69歳。

EPICでは参加登録時に、過去12カ月間の食品摂取状況が、各国または各施設で精度検証された質問票を用いて把握されている。またUKバイオバンクではwebベースの自記式24時間想起質問票により、2009~12年にかけて参加者1につき最大5回、食品摂取状況が調査されている。これらのデータを用い、本研究では「healthful plant-based diet index;hPDI」と「unhealthful plant-based diet index;uPDI」という2種類の評価指標のスコアを算出した。hPDIは、全粒穀物や果物、野菜、ナッツ、豆類などの健康に良い植物性食品の摂取量が多いことを表す指標、uPDIは反対に、精製穀物やジャガイモ(フライドポテトなど)といった健康にあまり良くない植物性食品の摂取量が多いことを表す指標。どちらもスコアの範囲は18~90点。

本研究において、多疾患併存は、あらゆる部位の癌、心血管疾患、2型糖尿病のいずれ二つ以上が併存している状態と定義された。著者らは、これら三つの疾患は世界の主要な死因であり、食事や栄養の関与が示唆されており、かつ、予防可能な疾患という共通の特徴があるとしている。

uPDIの高さが多疾患併存リスクの低さと関連し、60歳未満は関連がより強固

合計40万7,618人(EPICが22万6,324人、UKバイオバンクが18万1,294人)が解析対象となった。EPICでは中央値10.9年(四分位範囲9.7~12.5)、UKバイオバンクでは同11.4年(10.9~12.2)の追跡で、合計6,604件の多疾患併存が発生していた(女性36.0%/EPIC3,455件、UKバイオバンク3,149件)。

hPDIやuPDIが10ポイント高い場合の多疾患併存リスクを、交絡因子を調整したCox回帰分析により検討した。

hPDIが高い(健康に良い植物性食品の摂取量が多い)と多疾患併存リスクが低い

解析の結果、健康に良い植物性食品の摂取量が多いことを表す指標であるhPDIが10ポイント高いごとに、多疾患併存リスクがEPICでは11%低く(ハザード比〈HR〉0.89〈95%CI;0.83~0.96〉)、UKバイオバンクでは19%低リスクであることが示された(HR0.81〈0.76~0.86〉)。

一方、健康にあまり良くない植物性食品の摂取量が多いことを表す指標であるuPDIが10ポイント高いごとに、多疾患併存リスクがUKバイオバンクでは22%高いことが示された(HR1.22〈1.16~1.29〉)。EPICでは、uPDIと多疾患併存リスクとの有意な関連はみられなかった(HR1.00〈0.94~1.08〉)。

60歳未満ではhPDIと多疾患併存リスクとの関連がより強固

次に、60歳未満/以上で層別化した解析が行われた。その結果、以下のように、60歳未満では、hPDIと多疾患併存リスクとの関連がより強固であることが示された。

EPICでは、60歳未満ではhPDIが10ポイント高いごとに14%低リスクであるのに対して(HR0.86〈0.78~0.95〉)、60歳以上では有意な関連がみられなかった(HR0.92〈0.84~1.02〉)。UKバイオバンクでは、60歳未満ではhPDIが10ポイント高いごとに29%と3割近いリスク低下が認められたが(HR0.71〈0.65~0.79〉)、60歳以上では14%のリスク低下だった(HR0.86〈0.80~0.92〉)。

なお、uPDIと多疾患併存リスクとの関連については、EPICでは年齢層にかかわらず関連が非有意で(uPDIが10ポイント高いごとに60歳未満ではHR1.05〈0.95~1.16〉、60歳以上ではHR0.96〈0.87~1.06〉)、UKバイオバンクでは年齢層にかかわらず関連が有意だった(60歳未満ではHR1.28〈1.17~1.41〉、60歳以上ではHR1.20〈1.12~1.28〉)。

これらの結果に基づき著者らは、「健康的な植物性食品中心の食生活の遵守は、癌、心血管疾患、および2型糖尿病の多疾患併存リスクの低さと関連していた。この知見は、60歳未満の成人と60歳以上の成人で一貫していた。健康的な植物性食品と少量の動物性食品で構成される植物性食品中心の食生活を重視することは、中高年における癌および心血管代謝疾患の併発抑制に有益である可能性がある」と結論している。

文献情報

原題のタイトルは、「Plant-based dietary patterns and age-specific risk of multimorbidity of cancer and cardiometabolic diseases: a prospective analysis」。〔Lancet Healthy Longev. 2025 Aug;6(8):100742〕
原文はこちら(Elsevier)

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