子どもの身長が最も伸びる時期を被曝のない超音波検査1回で予測可能 日本人での計算式の提案
身体の発育のピークに到達する年齢を、被曝リスクのない超音波検査の画像データを基に予測する計算式が提案された。R2が0.782と、高い予測能を持つという。順天堂大学医学部附属順天堂医院総合診療科の上村公介氏らの研究によるもので、「Journal of Medical Ultrasonics」に論文が掲載された。

ジュニアアスリートの将来を考える時に重要となる、最大発育速度年齢(PHVA)
身体の成長速度が最大化する年齢(peak height velocity age;PHVA〈最大発育速度年齢〉)は子どもによって異なり、その差が傷害リスクと関連することが知られている。よってPHVAを予測することが、傷害リスク回避のために重要とされる。
PHVAを予測する手法として、医療機関でエックス線画像検査を施行する方法も報告されている。しかし、小児期に被爆することの潜在的なリスクという懸念を伴い、健常な児へのエックス線画像検査は実際には困難である。
これに対して超音波検査は被曝リスクがなく、かつ検査のための機器が小型のため、施行場所が制限されず、ほぼリアルタイムで評価可能という特徴がある。すでに、超音波検査で骨化中心(骨の成長過程で軟骨が骨に置き換わり始める場所)を把握することで身長の伸びを予測できる可能性が、先行研究として報告されている。ただし現状においては半定量的な評価にとどまり、予測能の精度は検証されていない。
これらを背景として上村氏らは、超音波検査で得られるデータを基にPHVAに到達する年齢を予測する手法の開発を試みた。なお、本研究はジュニアアスリート対象の研究ではないが、競技特化を考慮する際にはその時点の身長とPHVAに至るまでの期間を予測することが重要であることから、ジュニアアスリートは本研究の意義がとくに高い対象集団と言える。
国内の小中学生を5年強追跡して解析
この研究には、国内の小中一貫校に通う181人が参加した。2019年6~12月に1回、超音波検査を施行し、2022年12月まで身長の伸びを追跡した。追跡期間は超音波検査施行時の年齢によって異なり、3~8年の間に分布していた。
超音波検査は、左側の上肢と下肢にある8本の骨の12カ所で行った。これらの部位は着衣のまま測定できるという簡便性と、最大発育速度(peak height velocity;PHV)に到達する数年前から骨化中心が確認されるためPHVAの予測に適していることから選択された。また、左側とした理由は、従来のX線による骨年齢評価法との整合性を保つため。なお、測定はすべて1人の研究者が行った。
5.4年の追跡で半数強がPHVAに到達
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックにより追跡不能となった子どもなどを除外し、最終的に159人(男児96人、女児63人)のデータが解析に用いられた。身長の伸びの追跡期間は中央値5.4年で、この間に中央値16回測定されていた。
159人のうち、追跡期間中にPHVAに到達していたのは84人(男児35人、女児49人)だった。
PHVAまでの年数を予測する4種類のパラメーターと、それを用いた予測式
得られたデータを用いて、超音波検査で評価した各部位の骨の成熟度を独立変数、PHVAと超音波検査から推定した年齢との差を従属変数として、多変量回帰分析を実施。その際、多重共線性(独立変数の中に互いに強い相関のある因子が含まれていることにより結果をゆがめてしまう可能性)が認められたいくつかの因子を取捨選択し、8部位のデータを解析に用いた。その結果、有鉤骨鉤、踵骨足底厚、足底種子骨、脛骨結節という4部位の骨化中心が、有意なパラメーターとして特定された。これら4種類のパラメーターを用いてPHVAに至るまでの年数を予測する、以下の予測式が作成された。
1.206+(0.562×踵骨足底厚)-(1.120×足底種子骨)-(0.675×脛骨結節)+(0.229×有鉤骨鉤)
この予測式は、PHVAに至るまでの年数の分散の78.2%を説明可能(R2=0.782)と計算された。つまり、身長の伸びに影響を及ぼし得る栄養状態などの他の因子を考慮しなくても、単回の超音波検査のみで8割近い精度で予測できる可能性が示された。
なお、上記の予測式には含まれていないが、単一のパラメーターとしては、母指種子骨の骨化中心の予測能が優れていた。ただし母指種子骨の骨化中心は、PHVの数カ月前という直前になって出現するため、長期予測のパラメーターとしては実用性が限定的と考えられた。
超音波検査はジュニア期のスポーツの種類・強度の調整、怪我のリスク抑制などに有用
著者らによると本研究は、超音波検査によって複数の部位の骨化中心を測定し、PHVAまでの期間の予測を試みた初の研究だという。その結果、先行研究で示されている単一部位での測定よりも高精度でPHVAを予測できることが示唆された。
超音波検査は被曝を伴わずに非侵襲で施行でき、かつ数分の手技で完了する。さらに本研究により、わずか1回の施行で5年以上先という長期的な視野でPHVAを予測可能であることが示された。ただし、サンプルサイズの関係で性別の検討を行っていないこと、超音波検査を1人の研究者が担当したため検者による変動が不明であること、および、スポーツの実施状況、栄養状態、遺伝的背景などを考慮していないことなどを、本研究の限界点として著者らは挙げている。とはいえ、最後の点についてはとりもなおさず、他の因子を考慮せずに超音波検査のみでも、PHVAを予測できることを示しているとも解される。
これらの考察のうえで、論文には、「超音波検査を用いたアプローチは、PHVAの予測に役立ち、運動の種類や強度の調整、スポーツ障害のリスク抑制などのスポーツ医学領域に有用と言え、さらに、思春期特発性側弯症などの疾患の臨床にも役立つのではないか」と述べられている。
文献情報
原題のタイトルは、「Ultrasound-based prediction model for years to peak height velocity using multiple secondary ossification centers」。〔J Med Ultrason (2001). 2025 Oct 24〕
原文はこちら(Springer Nature)







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