レモンマートルエキスが器具不要の低負荷筋力トレーニングの効果を増強しサルコペニア対策に 国内高齢者RCT
オーストラリア原産のハーブ「レモンマートル」のエキスが、低負荷筋力トレーニングの効果を増強する可能性のあることが報告された。順天堂大学スポーツ健康科学部の沢田秀司氏、同大学大学院スポーツ健康科学研究科の町田修一氏らの研究であり、「The Journal of Nutrition, Health and Aging」に論文が掲載された。高齢者を対象に実施した2件のRCTの結果、プラセボ摂取に比べて、より大きな筋肥大が認められたという。器具を使わず自体重の負荷のみで行える手軽で安全な筋トレは、サルコペニアリスクのある高齢者でも習慣的に行うことのできる運動として推奨されている。今回の研究成果から、著者らは、レモンマートルエキスの摂取がそのような運動に付加的効果をもたらすのではないかとしている。

サルコペニアリスク抑制のための手軽にできる筋トレの効果を栄養でサポートする
人口の高齢化を背景に、サルコペニア対策が社会的な課題となっている。サルコペニアリスクの抑制に関して筋力トレーニングのエビデンスは豊富だが、高齢者が筋トレを始めること自体にハードルが存在し、また安全上の懸念も生じる。それに対して自体重を用いた低負荷の筋トレは、特別な器具を必要としないためすぐにでも始められ、かつ一般的に安全性も高いと考えられる。ただし、負荷強度を下げれば、当然ながら筋トレ効果は減弱することが懸念される。
一方、サルコペニア抑止のもう一つの戦略として栄養介入も期待されており、とくにたんぱく質摂取の重要性が指摘されている。しかし、高齢者では食事の摂取量を増やすことが困難なことがあり、十分にたんぱく質を摂取できないケースも少なくない。そのため、わずかな摂取量で筋トレの効果を高めるような機能性をもつ成分の模索が続けられており、それらの成分の一つとして沢田氏らはレモンマートルエキスの有用性に着目。すでに小規模のパイロット研究の結果として、筋肥大増強作用を有することを報告している(doi: 10.31989/ ffhd.v14i12.1472)。
レモンマートルの筋サテライト細胞の活性化作用が筋肥大に対してプラスに働く可能性がある
レモンマートルはオーストラリア原産のハーブで、その葉のエキスには抗菌作用、抗酸化作用、抗炎症作用のあることが知られている。また、レモンマートルエキスとその活性化合物(カスアリニン)が、筋損傷後の筋肉細胞の再生に不可欠な骨格筋サテライト細胞の活性を高めることも、先行研究により明らかにされている(doi: 10.3390/ nu14051078)。
これらの知見に基づき、沢田氏らは今回、先行研究よりもサンプルサイズを大きくして筋肥大効果に対するレモンマートルエキスの有用性を検討することや、先行研究よりも少ない運動量による筋肥大効果に対するレモンマートルエキスの影響を検討することを目的として、独立した2件のプラセボ対照二重盲検無作為化比較試験(randomized controlled trial;RCT)を実施した。
研究参加者と介入方法、評価項目について
2件の研究の参加者は、治験業務受託機関(contract research organization;CRO)を通じて募集された。適格条件は、年齢65歳以上で、筋量や筋力の低下、または歩行速度の低下を自覚している人とされ、極端な栄養不良、糖尿病用薬使用中、医学的な運動の禁忌などに該当する人、および習慣的にトレーニングを行っている人は除外した。応募した327人からスクリーニングにより上記の基準に合致する125人(70.4±4.5歳)を参加者として抽出した。
この125人のうち65人を、後述する一つ目のRCT、60人を二つ目のRCTの対象とした。2件のRCTごとに、年齢、性別、および研究参加時点での最大歩行速度と椅子立ち上がりテストの成績に偏りを生じないように配慮しつつ、無作為にレモンマートル(lemon myrtle;LM)群とプラセボ群の2群に分け、12週間にわたり筋トレとの並行介入を行った。
主要評価項目は大腿前部の筋厚であり、副次評価項目は歩行速度(通常歩行速度と最大歩行速度)、椅子立ち上がりテスト(30秒間)とし、ベースライン、介入6週時点、介入終了時点(12週後)に評価した。
LM群に割り当てられた参加者にはLMの錠剤(カスアリニン2.5 mg/2粒を含有)を支給、プラセボ群の参加者にはセルロースなどからなる外観からはLMと区別できない錠剤を支給し、いずれも毎朝2錠ずつ水とともに摂取してもらった。介入効果は、この割り付けを知らされていない研究者が行うという、二重盲検法により判定した。なお、研究参加者には、研究期間中に生活習慣を変えることがないよう指示した。
筋トレの運動量の異なる2件のRCTを実行
2件のRCTにおいて、介入期間やLMの摂取量は等しい条件とした。また、低負荷筋トレはいずれにおいてもスクワット、スプリットスクワット(両足を前後に開いた状態で行うスクワット)、プッシュアップ(腕立て伏せ)、クランチ(腹筋トレーニング)の4種目としたが、運動量に差を設けて検討した。
研究1は標準的な運動量とし、トレーナーの監督下で1回に3セットずつ(所要時間は約30分)、週に2回実施した。この研究1は、LM群33人、プラセボ群32人で、介入中の脱落およびコンプライアンス違反など除外基準に該当する人を解析対象から外し、解析対象は同順に25人、22人となった。
一方、研究2では、筋トレのメニューや頻度は同じながら、1回に1セットのみとし(所要時間は約10分)、週に2回実施した。この研究2は、LM群31人、プラセボ群29人で、上記と同様に当該者を解析対象から外し、解析対象は22人、19人だった。
研究1、研究2ともに、ベースラインにおいて、LM群とプラセボ群の年齢、性別の分布、BMI、大腿前部筋厚、歩行速度、椅子立ち上がりテストの結果に有意差はなく、また、簡易型自記式食事歴質問票(brief-type self-administered diet history questionnaire;BDHQ)で把握したエネルギー摂取量、主要栄養素摂取量にも有意差はなかった。
12週間の低負荷筋トレの効果がレモンマートルで増強
12週間の介入で、主要評価項目である大腿前部筋厚は、レモンマートル(LM)群においてより大きく肥大した。
具体的には、標準的な運動量とした研究1では、介入中間時点(6週後)および介入終了時点(12週後)の双方で、LM群の大腿前部筋厚のほうが高値の傾向にあった(p<0.10)。また、ベースラインからの変化率で比較すると、LM群は14.9%増大(95%CI;11.1~18.6%)、プラセボ群は9.7%増大(95%CI;6.3~13.0%)であり、有意差が認められた(p<0.05)。
一方、運動量を低用量とした研究2では、介入終了時点(12週後)のLM群の大腿前部筋厚がプラセボ群より1.59mm(95%CI;0.19~2.98mm)有意に高値であった(p<0.05)。また、ベースラインからの変化率の比較でも、LM群は11.5%増大(95%CI;7.7~15.3%)、プラセボ群は5.4%増大(95%CI;1.5~9.3%)であり、有意差が認められた(p<0.05)。
なお、副次評価項目(歩行速度や椅子立ち上がりテスト)については、研究1、研究2ともに、介入後の有意差は見られなかった。
至適用量の探索と臨床的な意義の確立を目指した研究が必要
上記の結果に基づき、著者らは、「筋力低下を自覚している高齢者において、器具を使わずに行える1回10分程度の低負荷筋力トレーニングとレモンマートル摂取を組み合わせることで、筋肥大が促進される可能性がある」と結論づけている。ただし、副次評価項目(歩行速度や椅子立ち上がりテスト)には有意な影響が認められなかったことや、レモンマートルの至適用量が未確立であることから、臨床的な意義を明確にするためにさらなる研究の必要性を指摘している。
文献情報
原題のタイトルは、「Lemon myrtle extract enhances muscle hypertrophy induced by low-load bodyweight resistance training in older adults: Findings from two independent randomized controlled trials」。〔J Nutr Health Aging. 2025 Oct 11;29(12):100706〕
原文はこちら(Elsevier)







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