体の声を聞く「直感的摂食」で運動パフォーマンスが向上、ボディイメージや摂食態度にも好影響
身体が発する内的なサインに基づく食事スタイル「直感的摂食(intuitive eating)」によって、筋力や持久力、敏捷性などのパフォーマンス指標が向上し、ボディイメージや摂食態度にも好ましい変化が生じるという研究結果が報告された。トルコで実施された研究の結果であり、著者らは「体重管理に重点を置かない直感的摂食は、幸福感とパフォーマンスを改善する有望な戦略となり得る」としている。

直感的摂食は、身体活動に取り組む意思のある人にも有効か
直感的摂食(intuitive eating;IE)は、空腹感や満腹感などのサインに基づいて食べることを重視し、カロリー制限や摂取を避ける食品群の設定などは行わない食事スタイル。体重管理に重点を置いてきた従来の栄養介入が、継続可能性が低く、ボディイメージの低下や摂食障害のリスクを高める可能性がある一方で、直感的摂食はそれらの点において優れているとされている。
直感的摂食には、四つの中核的要素が存在するとされる。その要素とは、(1) 無条件の食事許可、(2) 感情的理由ではなく身体的理由による食事、(3) 空腹感と満腹感のシグナルの重視、(4) 身体と食品の選択の一致――であり、これらを評価する指標のスコアが高いほど、摂食障害が少なく、幸福度と身体満足度が向上することが示されている。また近年、直感的摂食によって、エネルギー出納とは独立して体組成や代謝が改善し、メンタルヘルス面にも好ましい変化が生じるとする研究報告が増えてきている。さらに、体重管理を主目的としていないにもかかわらず、それが達成されることも示唆されている。
ただし、これらの研究報告の多くは、一般集団または何らかの疾患を有する患者を対象とした研究の結果として示されたものであり、身体活動量が多い集団でのエビデンスは少ない。身体活動量を増やした場合、エネルギー出納が負に傾きやすくなり、回復へ配慮した摂取行動も求められる。これまでのところ、身体活動量を増やしながら直感的摂食による介入を行った研究は少ない。
今回取り上げる論文は、このギャップを埋めるために行われた。
栄養と運動に関するカウンセリング参加者を対象として、介入群と非介入群で前後比較
この研究の参加者は、イスタンブールのスポーツ施設で実施された、栄養と運動に関するカウンセリングへの参加を申し込んだ18~65歳の成人から募集された57人。適格条件は、慢性疾患および摂食障害に罹患しておらず、代謝や食欲、身体能力に影響を及ぼし得る薬剤を服用してなく、過去1カ月以内に習慣的な運動を行っていないこととされ、また、妊婦や授乳婦は除外されていた。平均年齢は35±7歳で、女性が51%だった。
参加者全員に対して、週4回(60分の高強度インターバルトレーニングを2回と、60分のレジスタンストレーニングを2回)の運動介入を12週間にわたり実施。また、参加者の意思に基づき(無作為ではない)、直感的摂食による介入を受ける群(29人)と受けない群(28人)に分けられた。ベースラインにおいて、介入群と対照群の間に、年齢、性別の分布に差はなかった。
介入群に対する直感的摂食の指導は、1回45分、隔週で計6回、オンラインによる個別セッションとして実施された。内容は、直感的摂食の原則、空腹感と満腹感の認識、感情的な食欲の判別、身体と食品選択の整合性などだった。
直感的摂食で身体パフォーマンスが向上しメンタルヘルス上のメリットも期待できる
統計解析は、運動介入+直感的摂食介入を行った「介入群」と、運動介入のみを行った「対照群」で、介入前後での変化を比較するという手法がとられた。
体重や摂取エネルギー量は減少するが非有意。コレステロール摂取量は有意に減少
介入群では、体重が介入前80±15kgから介入後77±13kg、BMIは同順に26±5から25±4、体脂肪量は21±11kgから19±10kg、ウエスト周囲長は79±15cmから75±13cmへと減少していたが、いずれも有意水準未満の変化だった。同様に対照群においても有意な変化はみられなかった。
摂取エネルギー量は、介入群では1,948.1±282.06kcalから1,768.2±237.80kcal、炭水化物摂取量は238.0±38.03gから206.4±44.73g、脂質摂取量は84.2±17.80 g/日から74.5±9.75gに減少し、タンパク質摂取量は60.7±11.24gから68.1±6.71g/日に増加していたが、やはり有意水準未満の変化だった。唯一、コレステロールの摂取量が288.9±121.05mgから238.9±78.37mgへと有意に減少していた(p=0.042)。対照群では、すべての栄養素の摂取量の変化が非有意だった。
介入後の身体パフォーマンスの指標に有意差
上半身の敏捷性の指標として評価したデイビステストが、介入群では28.5±3.2から30.9±2.9、対照群は27.3±3.8から28.3±3.6に上昇していたが、いずれも非有意だった。ただし、介入後のスコアの群間比較では、介入群のほうが有意に高値であり(p=0.009)、効果量も大きかった(d=0.80)。
12分間クーパーテストでの走行距離は、介入群が1,502±285mから1,808±303m、対照群は1,387±223mから1,476±227mに増加していたが、いずれも非有意だった。ただし、介入後の走行距離の群間比較では、介入群のほうが有意に高値であり(p=0.000)、効果量もより大きかった(d=1.24)。
ベンチプレスでの1RM(1回だけ施行可能な最大負荷量〈one repetition maximum〉)は、介入群が41±15kgから47±15kg、対照群は35±12kgから38±13kgに増加していたが、いずれも非有意だった。ただし、介入後のスコアの群間比較では、介入群のほうが有意に高値であり(p=0.021)、中程度の効果量が示された(d=0.8640)。
まとめると、各群間の前後の変化は統計的に有意ではなかったものの、介入後の値は群間の効果サイズが大~非常に大であり、12週間の直感的摂食介入が、持久力、敏捷性、筋力などの身体パフォーマンスに有意なプラスの影響を与えたと考えられた。
直感的摂食は摂食障害リスクの低下やボディイメージの改善と関連
上記のほか、摂食態度テスト(Eating Attitudes Test-26;EAT-26)、体型質問票(Body Shape Questionnaire;BSQ)、および、直感的摂食(IE)の傾向の指標であるIE Scale-2(IES-2)が評価され、それぞれの相関を検討されている。
その結果、IES-2の「感情的理由ではなく身体的理由による摂食」が、EAT-26の総合スコアと弱い負の相関(r=-0.378)、EAT-26のダイエットサブスケールと弱い負の相関(r=-0.381)、過食や食物への執着のサブスケールと中程度の負の相関(r=-0.444)を示した。これらの結果は、IE行動が進むにつれて、摂食障害のリスクに関連のある摂食態度が減ることを示している。
また、IES-2の「無条件の食事許可」はBCSの総合スコアと強い正相関が認められた(r=0.598)。さらに、「空腹感と満腹感のシグナルの重視」はBCSと中程度の正相関を示した(r=0.472)。これらの結果は、内的身体的手がかりに沿って食行動をとることが、より肯定的なボディイメージと関連していることを意味する。
加えて、IES-2の総合スコアはEAT-26の総合スコアと中程度の負の相関(r=-0.449)を示し、BCSの総合スコアとは中程度の正の相関(r=0.455)を示した。これらの結果は、直感的摂食が摂食障害のリスク低下やボディイメージの改善と関連していることを示している。
これら一連の結果を基に、論文の結論は「直感的摂食の長期的な介入が有益である可能性を示唆する結果が示され、さらなる研究が求められる。直感的摂食は体重管理に重点を置くことなく、幸福感とパフォーマンスを向上させる有望な戦略となるのではないか」とまとめられている。
文献情報
原題のタイトルは、「Intuitive Eating Intervention in Physically Active Adults: Effects on Anthropometry, Athletic Performance, Eating Attitudes, and Body Image」。〔Nutrients. 2025 Aug 29;17(17):2824〕
原文はこちら(MDPI)







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