夏季は野球選手の靴・靴下・ストッキングを白にすべき理由 黒だと下肢温度が50°Cを超えることも
野球選手のシューズやソックスなどの色の違いが、暑熱環境では下肢温度の有意な差となって現れることを示すデータが報告された。白に比べて黒では温度の上昇がより顕著になるという。中部大学大学院生命健康科学研究科 伊藤守弘研究室(予防医学)の瀬口愛斗氏(博士後期課程2年)らの研究によるもので、「Sports」に論文が掲載された。同氏らは、夏季の炎天下で行われる高校野球の選手などは、すべて白色の下肢着用品を用いることで、熱中症予防やパフォーマンス低下抑制を期待できるのではないかとしている。

アスリートの中でもとくに、夏季甲子園大会の高校球児の暑熱対策は待ったなし
20世紀以降に地球の平均気温が約1°C上昇したとされ、また近年は各地で過去最高気温が記録されることが増えている。このような地球温暖化は多くの人々の健康リスクを高める世界的な問題だが、さらにアスリートの場合はパフォーマンスの低下、および、トレーニングや競技中の熱中症リスクの増大への対策が必要となる。とくに夏季の屋外での長時間競技への影響は深刻であり、我が国の夏の風物詩でもある夏季甲子園大会に参加する高校野球では、最も暑い時期に開催されることや競技時間の長さから、選手への負担増大が懸念されている。
近年、衣服の色が体温の変化に及ぼす影響が報告されてきているが、野球選手のユニフォームの色の違いに関する知見は限られている。これを背景として瀬口氏らは、野球選手のシューズ、ソックス、ストッキングの色が異なることで、暑熱環境における下肢の温度の差が生じるのかを検討した。
黒または白の靴・靴下・ストッキングの組み合わせが異なる8パターンを比較
この研究は、8体のマネキンの下肢部分に色の組み合わせの異なる野球用シューズ、ソックス、ストッキングを履かせたうえで、夏季の日中の屋外グランド上に立たせ、足底(足の裏)と下腿前面(すねの前面)に温度センサーを留置し、温度変化を比較するという手法で行われた。2024年の8月に愛知県春日井市にある土のグランドと人工芝のグランドで、直射日光が当たり湿球黒球温度(暑さ指数)が30°C以上の日に実施され、平均気温は37.8±1.42°C、平均湿度は43.8±1.91%だった。
早速、結果をみていこう。
下腿前面温度はシューズ等の色の組み合わせ次第で50°Cを超える
足底温度の時間経過
まず、足底表面温度の経時的変化をみると、すべてのシューズ等の色の組み合わせで、グランドが土か人工芝かにかかわらず、測定開始から終了まで温度が上昇し続けた。
土のグランドで、シューズ、ソックスともに黒の場合、足底表面温度は最高46.7±5.73°Cに達した。同じく土のグランドでもシューズ、ソックスともに白の場合、足底表面温度の最高値は45.4±4.55°Cだった。
人工芝のグランドでは、シューズ、ソックスともに黒の場合、足底表面温度は最高47.7±3.29°Cに達し、シューズ、ソックスともに白の場合、43.9±2.43°Cだった。
下腿前面温度の時間経過
次に、下腿前面温度の経時的変化をみると、足底温度が経時的に上昇していたのとは異なり、測定開始後約30分でピークに到達し、その後は変化がないか条件によってはやや低下する傾向にあった。
土のグランドで、シューズ、ソックス、ストッキングという3点すべて白の場合、下腿前面温度は最高43.8±1.81°Cであり、シューズ以外の2点を黒とした場合は51.9±3.27°Cと50°C以上に達した。同じく土のグランドで、シューズ、ソックス、ストッキングという3点すべて黒の場合、下腿前面温度は最高50.4±1.81°Cと50°Cを超え、シューズ以外の2点を白とした場合は45.9±0.97°Cだった。
人工芝のグランドでは、シューズ、ソックス、ストッキングという3点すべて白の場合、下腿前面温度は最高43.2±1.85°Cであり、シューズ以外の2点を黒とした場合は49.2±6.22°Cだった。同じく人工芝のグランドで、シューズ、ソックス、ストッキングという3点すべて黒の場合、下腿前面温度は最高48.4±2.11°Cであり、シューズ以外の2点を白とした場合は43.4±1.87°Cだった。
下腿前面温度の上昇幅はシューズ等の色によって有意に異なる
続いて、各条件で観察された測定中の温度変化を、最も変化の少ない3点すべて白とする条件を基準として比較した。すると、足底温度の上昇幅については、グランドが土や人工芝かにかかわらず、有意差が観察された条件はなかった。一方、下腿前面温度の上昇幅については、土のグランドではいくつかの条件で、すべて白で統一した場合よりも有意に高温になることが示された。
具体的には、土のグランドで3点すべてが白の場合の下腿前面温度の上昇幅が13.9±1.46°Cであるのに対して、3点すべてが黒の場合の上昇幅は19.2±0.82°C(p=0.019、効果量〈d〉=3.654)、シューズとストッキングが黒、ソックスが白での上昇幅は18.9±0.83°C(p=0.023、d=3.394)、シューズとソックスが黒、ストッキングが白での上昇幅は17.6±1.07°C(p=0.049、d=2.362)であった。なお、人工芝グランドでは有意差の認められた条件はなかった。
酷暑の屋外で黒系統のウェアを用いた野球は、熱中症や低温やけどのリスクがある
著者らは本研究がマネキンを用いたものであるため、ヒトの皮膚温に同じように変化が生じるとは言えないことなどを結果解釈の限界点として挙げている。
そのうえで、酷暑での野球のプレーは着用するシューズやウェアの色次第で、熱中症リスクの上昇にとどまらず低温やけどのリスクさえ生じ得ることを強調し、白系統のシューズとウェアを併用して用いることでそのリスクを抑制し得るのではないかと結論づけている。また、この知見は野球だけでなく他の屋外競技にも応用が可能と考えられ、スポーツパフォーマンスの低下抑止、さらには一般人口における熱ストレス関連健康問題の予防対策立案にも役立てられるとしている。
文献情報
原題のタイトルは、「Influence of Foot and Legwear Color on Lower-Limb Temperature in Baseball Players Under Heat Stress」。〔Sports. 2025 Oct 21;13(10):369〕
原文はこちら(MDPI)
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