シリーズ「熱中症を防ぐ」
3. 学校や日常生活での注意点、子ども・高齢者について
学校での熱中症対策、子どもを守る
前回、スポーツ活動中の熱中症についてまとめたが、その観点からは学校における対策も重要となる。
学校では中学から高校1・2年生のクラブ活動での発生が多い。種目別では野球やサッカー、ラグビーなどの屋外で走行する競技で発生しやすい。また、意外なところでプールでも熱中症になり得ることは、前回述べたとおりだ。
なお、子どもは体重当たりの体表面積が大きいために、日光の照射など環境の影響により体温が大人より上昇しやすく、また、体温調節機能がまだ十分発達していない。さらに、大人よりも身長が低いということは、それだけ温度が高い地表近くにからだがあるということで、それもまた熱中症のリスクを高める。
これらの理由から、子どもは成人以上に熱中症になりやすく、子どものスポーツを指導する立場にある人には十分な注意が求められる。
- 直射日光の下で、長時間にわたる運動やスポーツ、作業をさせることは避けましょう。
- 屋外で運動やスポーツ、作業を行うときは、帽子をかぶらせ、できるだけ薄着をさせましょう。
- 屋内外にかかわらず、長時間の練習や作業は、こまめに水分(0.1〜0.2%食塩水あるいはスポーツドリンク等)を補給し適宜休憩を入れましょう。また、終了後の水分補給も忘れないようにしましょう。
- 常に健康観察を行い、児童生徒等の健康管理に注意しましょう。
- 児童生徒等の運動技能や体力の実態、疲労の状態等を把握することに努め、異常が見られたら、速やかに必要な措置をとりましょう。
- 児童生徒等が心身に不調を感じたら申し出て休むよう習慣づけ、無理をさせないようにしましょう。
※また、日頃から、緊急時の対応のために構内対策チームを組織し、熱中症対策について教職員の共通理解を図り、応急手当の研修を実施したり、学校医、消防署、教育委員会、家庭等への連絡方法等を明確にしたりして、救急体制を確立しておきましょう。
暑い中で無理に運動しても、トレーニングの質が低下する上、消耗が激しく、効果は上がりません。熱中症予防は、安全面だけでなく効果的トレーニングを行う上でも、たいへん重要です。
熱中症事故の実態からは、予防のポイントとして、以下のことが挙げられます。
- 熱中症事故は、夏のごく普通の環境条件下で発生しています。夏は、個人の条件や運動の方法によっては、いつでも熱中症は起こり得ることを認識しましょう。また、マラソンなどの学校行事では夏以外でも熱中症事故が発生しています。
- 運動種目は多岐にわたりますが、野球、ラグビー、サッカー、柔道、剣道で多く発生しており、これらの種目では、特に注意しましょう。また、運動種目にかかわらず、ランニングやダッシュの繰り返しによって多く発生しています。
- 暑さへの耐性は、個人差が大きく影響します。特に肥満傾向の人は熱中症事故の7割以上を占めており、注意が必要です。
関連情報・資料ダウンロード
熱中症予防のための啓発資料「熱中症を予防しよう -知って防ごう熱中症-」(学校安全Web)
日常生活での熱中症対策、特に高齢者について
これまでこのシリーズでは、熱中症予防対策について主にスポーツとの関連から話を進めてきたが、既にシリーズ第1回目で述べたように、熱中症患者を年齢別にみた時に最も多いのは高齢者であり、しかも発生現場として最も多いのは住居である。つまり、自宅で過ごしている高齢者の熱中症リスクが高いということであり、その対策が重視されなければならない。
高齢者が熱中症になりやすい原因として、加齢により発汗などの体温調節機能が低下すること、喉の渇きを感じにくく、体内の水分量が加齢によって減少していることと相まって脱水になりやすいこと、暑さそのものを感じにくくなっていること、暑くても冷房の使用を控えがちであること、などが挙げられる。
- 「暑い」と感じにくくなる
- 行動性体温調節が鈍る
- 発汗量・皮膚血流量の増加が遅れる
- 発汗量・皮膚血流量が減少する
- 体内の水分量が減少する
- のどの渇きを感じにくくなる
対策としては、喉の渇きを感じなくてもこまめに水分を補給すること、冷房を適切に使用することが推奨される。また、ふだんから軽く汗をかく運動を習慣にすることで、体温調節機能の維持・改善が期待できる。
- 【体調】 元気か、食欲はあるか、熱はないか、脇の下・口腔の乾燥具合
- 【具合】 体重、血圧の変化、心拍数、体温
- 【環境】 世話をする人がいない間の過ごし方、部屋の温度や湿度、風通し、換気、日当たり
関連情報・資料ダウンロード
「熱中症環境保健マニュアル 2018」(環境省)
「どう防ぐ 高齢者の熱中症」(NHK)
「室温28度」の意味を再確認
国内ではかなり以前から省エネの観点より「室温は28度に」と言われてきた。なぜ28度と言われるようになったのか、その根拠は定かではないようである。それはさておき、勘違いされやすいこととして、「室温28度」であって「空調の設定温度28度」ではないということに注意したい。空調を28度に設定していても、常時28度に保たれているわけではなく、空調機から離れている場所や窓際の日当たりの良い場所などは28度より高いこともある。
なお、日本生気象学会「日常生活における熱中症予防指針 Ver.3」によると、日常生活において、WBGT(湿度や風の影響を反映した"暑さ指数")が31度以上の場合を「危険」とし、「高齢者においては安静状態でも熱中症が発生する危険性が大きい。外出はなるべく避け、涼しい室内に移動する」としている。またWBGT28~31度未満は「厳重警戒」で「外出時は炎天下を避け、室内では室温の上昇に注意する」とし、続いて25~28度未満を「警戒」、25度未満を「注意」と分類している。
日常生活における熱中症予防指針
関連情報
「熱中症環境保健マニュアル 2018」(環境省)
「日常生活における熱中症予防」(日本生気象学会)
熱中症に関する記事
- 脱水レベルは体重変化と尿の色の組み合わせで判断すべき 女性アメフト選手での検討結果から
- 熱中症による死亡ゼロを目指して 環境省「暑さ指数・熱中症アラート」情報発信がスタート
- 運動後には経口補水液の塩味がおいしく感じる スポーツドリンクおよび水との二重盲検試験
- なぜ自宅で熱中症に? 脱水の影響は数日単位で蓄積されることが判明 名古屋工大・同市消防局・横浜国立大学の共同研究
- 【熱中症】職業上の「熱ストレス」の影響と緩和戦略 数カ国での観察・介入研究の結果
- 文科省・環境省が「学校における熱中症対策ガイドライン作成の手引き」を公開
- 暑熱順化は、生理的順化+人工環境下でのトレーニングでパフォーマンスが向上する可能性
- 7月の熱中症による救急搬送人員は全国で8,388人 昨年から半減も、8月以降は急増
- メンソールは暑熱下の東京2020でエルゴジェニックエイドになり得るか? 専門家のコンセンサス
- 短期間の暑熱順化は有効か? 腎機能低下リスクは抑制しないが急性腎障害は減る可能性
- 7月から関東甲信地方で「熱中症警戒アラート」試験的運用開始 環境省と気象庁
- 暑さ+睡眠不足+体力消耗で間食摂取が増える? 消防士の山火事消火シミュレーションで検討
- スポーツ中の暑さ対策に関する考察・見解のまとめ オーストラリアからの報告
- 環境省が2020年の熱中症予防情報サイトを公開、「熱中症対策ガイドライン」も改訂
- 暑さの中での運動のための栄養戦略 オーストラリアのスポーツ栄養士の見解
- ヤングアスリートの熱中症予防システム 長崎大などが開発 部活動の自己管理を支援
- 2019年8月の熱中症による救急搬送 月別では近年で最多の3万6,755人
- シリーズ「熱中症を防ぐ」4. 熱中症予防お役立ち情報
- シリーズ「熱中症を防ぐ」2. 運動・スポーツ実施時、夏季イベントでの注意点
- シリーズ「熱中症を防ぐ」1. 熱中症の症状と応急処置
- 2018年は熱中症による救急搬送・死亡数が大幅に増加 夏を前に防止と処置の確認を
シリーズ「熱中症を防ぐ」
熱中症・水分補給に関する記事
- 日本の蒸し暑さは死亡リスク 世界739都市を対象に湿度・気温と死亡の関連を調査 東京大学
- 重要性を増すアスリートの暑熱対策 チームスタッフ、イベント主催者はアスリート優先の対策を
- 子どもの体水分状態は不足しがち 暑くない季節でも習慣的な水分補給が必要
- すぐに視聴できる見逃し配信がスタート! リポビタンSports Webセミナー「誰もが知っておきたいアイススラリーの基礎知識」
- 微量の汗を正確に連続測定可能、発汗量や速度を視覚化できるウェアラブルパッチを開発 筑波大学
- 【参加者募集】7/23開催リポビタンSports×SNDJセミナー「誰もが知っておきたいアイススラリーの基礎知識」アンバサダー募集も!
- 暑熱環境で長時間にわたる運動時の水分補給戦略 アイソトニック飲料は水よりも有効か?
- 子どもたちが自ら考えて熱中症を予防するためのアニメを制作・公開 早稲田大学・新潟大学
- 真夏の試合期の脱水による認知機能への影響は、夜間安静時には認められず U-18女子サッカー選手での検討
- 2040年には都市圏の熱中症救急搬送社数は今の約2倍になる? 医療体制の整備・熱中症予防の啓発が必要