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短期間の暑熱順化は有効か? 腎機能低下リスクは抑制しないが急性腎障害は減る可能性

暑熱環境、脱水、運動の重複により、腎機能が急速に低下し急性腎障害(Acute Kidney Injury;AKI)の発症リスクが上昇することが知られている。熱中症対策の一つの方法として、身体を徐々に暑熱環境に慣れさせる暑熱順化がとられるが、この暑熱順化が急性腎障害のリスクを低下させるか否かは明らかでない。この点に焦点をあて、6日間の暑熱順化が腎機能に対して保護的に作用するとの仮説のもと検討した研究論文が報告された。

短期間の暑熱順化は有効か? 腎機能低下リスクは抑制しないが急性腎障害は減る可能性

研究の背景

身体活動や脱水はいずれも腎血流量を減少させる。暑熱環境はそれに拍車をかけ、熱中症に腎機能低下を伴うことがある。このときに生じる腎機能低下は一過性であり、急性腎障害(AKI)を呈したとしても、一般的に腎機能はいったんは正常レベルに回復する。しかし、疫学的には軽度AKIで入院した患者の3人に1人は1年以内に慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease;CKD)に移行し、その頻度はAKIに至らずに入院した熱中症患者よりはるかに高い。

これに対して暑熱順化は、暑熱環境で腎機能を維持し循環血漿量増加、ナトリウム再吸収増加により、脱水症状や高体温の緩和に働く可能性がある。ただしこの領域の研究は少なく、既報は3件のみであり、結論は一致をみていない。

研究の対象とデザイン

研究対象として健康で服薬治療を受けていない男性20人が募集された。研究期間は暑熱順化以前も含めて10月から2月で、米国北東部で実施された。環境温度は10±2℃で相対湿度は70±6%。対象者の背景は、年齢23±4歳、身長179.3±6.3cm、体75.7±7.3kg、体脂肪率11.2±5.0%、VO2max53.0±5.7mL/kg/分。

全体を無作為に2群に分け、1群は高温(40℃、湿度40%)、もう1群は適度な環境(24℃、湿度21%)で、6日間にわたって毎日連続し研究室にて運動を負荷した。研究室での実験開始は、体温調節に関する概日リズムの影響を除去するため、被験者ごとに毎日同時刻とした。2群間の対象者の背景因子に有意差はなかった。

被験者には実験開始前から禁酒、24時間前からは激しい運動と8時間前からカフェインの摂取が禁止された。また前夜に500mL、毎朝の実験室訪問前の朝に250mLの水を摂取することとした。研究室到着時に尿比重を測定し1.020超の場合、水和が満たされていないと判定し500mLの水を摂取させた。また被験者は直腸温度計を挿入し、心拍数モニターを装着した。

運動プロトコル

被験者は、高温または適度な環境下で6日間、運動プロトコルを完了した。各日の運動プトコルは、2時間間隔の有酸素トレッドミルで4.83km/でのウォーキング、60%VO2maxでのジョギング、80%VO2maxでのジョギングなどで構成されていた。被験者は、すべてのテストセッションを通じて自由に飲水可能で、摂取した水の量が記録された。

次のいずれかの基準に達した場合、運動は早期終了した。(1)直腸温40.0℃以上、(2)不安定な歩行、(3)熱中症の兆候、(4)被験者の訴え。自覚的運動強度は、0~10点のスケールで評価された(0点は非常に簡単、10点は非常に厳しい)。

3~5日目に90分のサイクリングとトレッドミル運動を行った。その際、高温環境に割り当てられた被験者は、自己判断の強度運動により、最初の30分間で直腸温は38.5℃に上昇し、その後60分間はトレッドミルのウォーキングまたはサイクリングを通じて直腸温38.5~39.9℃で維持された。一方、適度な環境に割り当てられた被験者は、50%VO2maxでトレッドミル運動を行った。

結果の概要

暑熱順化の条件による相違

高温での暑熱順化と適度な環境による6日間のプロトコル完了後、以下のような変化が認められた。

運動時直腸温度への影響は、高温環境での暑熱順化で有意に近い効果がみられたが、統計的には、いずれの条件も有意に至らなかった(高温環境:-0.41±0.68℃,効果量0.77,p=0.059.適度な環境:-0.17±0.30℃,効果量0.43,p=0.152)。ピーク心拍数は、高温環境での暑熱順化で有意な影響が認められた(高温環境:-11±7bpm,効果量1.36,p<0.001.適度な環境:-6±11bpm,効果量0.51,p=0.197)。

AKIマーカーに対する暑熱順化の影響

血清クレアチニンは、高温環境ではベースライン時0.94±0.09mg/dL、暑熱順化後0.96±0.11mg/dL(効果量0.18,p=0.723)で有意な変化はなく、適度な環境でもベースライン時1.02±0.10mg/dL、暑熱順化後0.99±0.08mg/dL(効果量0.28,p=0.428)で有意でなく、バイオマーカーの上昇に対していずれの条件でも保護的効果は認められなかった。

ただし、高温環境での血清クレアチニンは個人差が大きく、ベースライン時は0.39±0.20mg/dL、暑熱順化後は0.35±0.23mg/dLの差があった。一方、適度な環境ではベースライン時0.11±0.07mg/dL、暑熱順化後0.08±0.06mg/dLの範囲内に収まっていた。

血清クレアチニン0.3mg/dL以上の増加、または推算糸球体濾過量(eGFR)25%以上の低下をAKIと定義すると、高温環境の暑熱順化前は12名9中名(75%)に認められたのに対し、暑熱順化は7名(58%)だった。適度な環境では該当者がいなかった。

これらの結果から著者らは「血清クレアチニンの上昇は、運動負荷に加えて暑熱環境の負荷によって生じることを意味するとともに、暑熱順化に臨床的なAKI発症率を低下させる効果がある可能性を示唆するものと考えられる」と述べている。

なお、血清クレアチニンの増加と水分摂取量の関連がみられた(効果量0.74)。この点については「AKIの予防介入戦略の確立に対する、新たな研究の視座が示された」としている。

文献情報

原題のタイトルは、「Acute Kidney Injury Biomarker Responses to Short-Term Heat Acclimation」。〔Int J Environ Res Public Health. 2020 Feb 19;17(4):1325〕
原文はこちら(MDPI)

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