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GLP-1RA肥満症治療をサポートするための栄養上の優先事項 米国栄養学会など4学会の共同勧告

米国栄養学会など4学会はこのほど、GLP-1RAによる肥満症治療の際に留意すべき栄養上の優先事項をまとめ、共同勧告として発表した。多領域の専門家が専門知識と臨床経験に基づき科学文献を評価し、関連するトピックを取り上げ推奨を掲げ、今後の方向性を示している。著者らは、「おもに米国の医療環境に焦点を当てているが、ほかの国でのGLP-1RA肥満治療にも影響を与え得るもの」としている。栄養面以外の情報も盛り込んだ大部な勧告から、おもに栄養指導に関する部分を中心にピックアップし、要旨を紹介する。

GLP-1RA肥満症治療をサポートするための栄養上の優先事項 米国栄養学会など4学会の共同勧告

GLP-1RA登場以前は減量に必須だった栄養療法

GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)受容体作動薬(GLP-1RA)は、治験段階では5~18%の体重減少を示し、臨床ではそれよりやや効果が低いものの、明確な減量効果が認められている。一方でGLP-1RAの課題として、副作用(とくに消化器症状)、摂取エネルギー減少による栄養不良、筋肉量や骨量の減少、使用中止後のリバウンド、コストの高さなどが挙げられる。

また、GLP-1RAが減量目的で使われるようになる以前は栄養指導がほぼ必須であったが、GLP-1RA登場以降、栄養介入に重きを置かれなくなってきている。これらの課題に対応するため、米国のライフスタイル医学会、栄養学会、肥満医学協会、肥満学会という4団体による共同勧告がまとめられた。

副作用

栄養不良

GLP-1RA使用により食欲が低下し摂取エネルギー量は16~39%減少する。これに伴い、必須ビタミンやミネラルの不足につながる可能性がある。その兆候として、倦怠感、脱毛、皮膚症状、筋力低下、傷の治りの悪さ、異常なあざなどが挙げられる。

筋肉量・骨量減少

GLP-1RAによる減量は、62%が脂肪の減少、38%は筋肉などの除脂肪量の減少だとする報告がある。除脂肪体重の約半分が筋肉であることから、GLP-1RAによる減量の約20%は筋肉量の減少によるものと考えられる。これに食事摂取量の減少に伴うタンパク質摂取量の低下も加わり、とくに高齢者や運動不足の個人において、サルコペニアのリスク増大につながる可能性がある。

ベースラインでの栄養評価

GLP-1RA使用に関連するスクリーニング項目

胃腸の症状または障害。気分・情動障害、自殺念慮。摂食障害。サルコペニア、骨粗鬆症。腎結石または腎機能障害。

身体検査

筋力と機能(例えば、立ち上がる、階段を上るなど。必要に応じて運動生理学の専門家または筋力トレーナーにコンサルテーションを検討)。必用に応じて筋肉量を測定(生体電気インピーダンス法、二重エネルギーX線吸収測定法など)。

消化器症状の管理

吐き気、下痢、便秘などの消化器症状はGLP-1RA治療開始時や増量時に発現しやすいことから、これらに該当する数日間は少量の食事を頻回に摂取し、脂肪分や食物繊維の多い食品を避けることが役立つ可能性がある。

吐き気の症状は朝や長時間食事をとっていない時に生じやすいことから、吐き気のために食事をとらないことが悪循環を招くこともある。ショウガやミントの利用、指圧バンドなどは有益。

便秘は減量効果の発現に従い現れやすくなり。これに対しては水分と食物繊維の摂取が推奨される。

栄養不良の予防、筋肉量・骨量の維持

食事記録や写真を用いて摂取量を定期的にモニタリングし、治療中の栄養不良の発生リスクを検出し早期に対処する。食事への興味が低下している場合、少量の食事を頻回に摂取することが有効な可能性がある。果物、野菜、牛乳、ヨーグルトを使った料理は、赤身肉などの重たい料理よりも食欲をそそることがある。

GLP-1RAによる減量が筋肉や骨に及ぼす影響は、身体活動量やたんぱく質摂取量が少ない個人や高齢者で顕著であり、対策が重要となる。食事においては最初にタンパク質食品を摂取することが役立ち、より重要な点として、筋力トレーニングを並行して行わずタンパク質摂取のみでは、筋肉量の維持に不十分と考えられることが指摘される。筋肉量と骨量の維持のために、GLP-1RAによる肥満症治療中には週3回以上の筋トレ、および150分以上の有酸素運動を目標とした運動介入を行うべきであろう。

管理栄養士による行動変容のサポート

管理栄養士は、ライフスタイルや薬物療法、場合によっては外科的治療のサポートにおいて重要な役割を果たす。GLP-1RAの使用と管理栄養士による食事指導を組み合わせることで、アドヒアランスの向上、消化器系の副作用の予防や管理(とくに治療開始時と増量時)、適切な栄養摂取、長期的な体重管理と健康全般を向上させる他の行動(身体活動、睡眠、目標設定など)の促進が期待される。

しかし、肥満症治療における管理栄養士による介入は、依然として保険適用範囲が限定的であり、臨床での広範な利用を妨げている。

将来の方向性

長期遵守の改善

肥満症治療のためにGLP-1RAが処方された患者の多くが1年以内にドロップアウトする。この理由は十分検討されていないが、筆者らの臨床経験に基づけば、副作用、コストの課題が挙げられる。重要なことは、食事や生活習慣の改善を維持することも、多くの人にとって困難であり、GLP-1RA中止とともに生活習慣が元に戻ってしまい、体重がリバウンドするということが少なくない。長期的な治療遵守をいかにサポートするかは、今後の研究の大きなテーマである。

特定の食事パターンとの併用

GLP-1RAによる減量は、しばしば社会的関心の高い他の食事パターン、例えばケトジェニックダイエットや断続的断食などとともに語られる。

ケトジェニックダイエットや超低炭水化物ダイエットは、一部の人にとっては減量や血糖管理の実用的なアプローチとなり得るが、一方で長期の継続が難しい人もいる。また糖尿病患者の場合、ケトジェニックダイエットとGLP-1RA療法の併用は、糖尿病性ケトアシドーシスや低血糖のリスクを高める可能性があり、医療提供者による注意深いモニタリングの下で行われるべきである。

断続的断食も、血糖降下薬を使用している糖尿病患者の低血糖リスクを高める可能性がある。GLP-1療法中には、空腹感が抑制される結果として、意図せず断続的な断食状態になってしまうことがあり得る。十分なタンパク質摂取や食事の多様性が不足した長期間の断続的断食は、栄養不良、臨床的栄養欠乏、除脂肪体重の減少、安静時エネルギー代謝の低下につながる可能性がある。

文献情報

原題のタイトルは、「Nutritional priorities to support GLP-1 therapy for obesity: a joint Advisory from the American College of Lifestyle Medicine, the American Society for Nutrition, the Obesity Medicine Association, and The Obesity Society」。
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