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足裏を-50°Cのアイスパックで冷やすことで、暑熱下の疲労が軽減されパフォーマンスが向上する

高温環境でのスポーツパフォーマンス低下に対する、新たな戦略の有効性が報告された。休憩時間に-50°Cのアイスパックを短時間、足底にあてがうことで、その後のパフォーマンスが向上する可能性があるという。環太平洋大学体育学部体育学科の河端隆志氏らの研究によるもので、「Journal of Exercise Science & Fitness」に論文が掲載された。

足裏を-50°Cのアイスパックで冷やすことで、暑熱下の疲労が軽減されパフォーマンスが向上する

パフォーマンス発揮を妨げる地球温暖化への対策

地球の温暖化が人々の生理反応や運動能力に影響を及ぼしており、アスリートにとってもパフォーマンスを十分に発揮するための暑熱対策が必須となってきた。これまでの研究で、暑熱環境下での運動パフォーマン低下抑制戦略として、冷水に全身を浸す全身浸漬の有効性が多く報告されてきている。しかし、全身浸漬は実験環境では行えるものの、競技会での実施は現実的でない。

そこで代替手段として、冷却ベストの着用、アイスタオルの使用などが試みられている。また近年、全身ではなく体の末梢、特に手や足を冷却するという手法が提案されている。体の末梢は体幹に比べ、体積に対する表面積が大きいために熱放散効果が高い。さらに手掌(手の平)や足底(足の裏)には、動静脈吻合(arteriovenous anastomosis;AVA)と呼ばれ、毛細血管網を介さずに動脈と静脈が直接つながっている特殊な血管走行が存在する。このAVAは循環や体温の調節に重要な役割を果たしており、全身ではなく手や足のみの冷却でも、効果を得られる可能性がある。

河端氏らの研究は、このような理論的な背景のもとで、足底に対する短時間の冷却刺激の有効性を検証するために実施された。

アスリート8人を対象とする無作為化クロスオーバー法で足底冷却の効果を検討

事前の統計学的検討から、この介入の有意性の検討に必要なサンプルサイズは8人以上と予測され、9名のアスリートが研究に参加した。適格条件は、高強度運動を習慣的(週に4日以上)行っていて、呼吸器や循環器系の疾患の既往がなく、暑熱馴化を受けていない、18~30歳の非喫煙者とされた。1名は試験データの取得が十分でないことから解析から除外され、解析対象は男性6名、女性2名で、平均年齢は24.89±3.10歳だった。

研究デザインはクロスオーバー法で、研究参加者を無作為に2群に分け、1群は足底冷却を行う「介入条件」、他の1群は足底冷却をしない「対照条件」の下でパフォーマンスを評価。72時間以上おいて条件を切り替え、パフォーマンスを再度評価した。

パフォーマンスの評価方法について

パフォーマンスの評価は以下の手順で行った。

まず、暑熱環境(35°C、相対湿度60%)のチャンバー内で、自転車エルゴメーターを用いて70%VO2maxで15分間の運動を負荷し、15分経過後からは最大強度の負荷をかけ、疲労困憊に至るまで続けられた。なお、VO2maxは試験の72時間以上前に、中和(性)温域の環境(25°C、相対湿度40%)で測定されていた。

疲労困憊に至った時点から10分間の座位での休憩時間が設けられた。その間、介入条件では、-50°Cに冷却されたアイスパックを厚さ2mmのタオルに包んで、足底に2分間あてがった。対照条件は単に座位での休憩とした。

休憩時間終了後に再度、自転車エルゴメーターを用い、暑熱環境下で最高強度の一定負荷によるパフォーマンステストを疲労困憊に至るまで続け、その継続時間を計測した。

一連の試験中、食道・皮膚・大腿筋の温度、前腕皮膚血流量、心拍数、心拍出量などをモニタリングし、2分ごとに自覚的運動強度と体感温度をレポートしてもらった。

足底冷却で疲労困憊に至るまでの時間が有意に延長

10分間の休憩時間中、皮膚温(対照条件37.25±0.36 vs 介入条件36.60±0.42°C)、前腕皮膚血流量(同順に12.57±2.71 vs 10.89±2.25mL/分/100mL)はともに、介入条件のほうが有意に低値だった(いずれもp<0.05)。なお、介入条件における2分間の足底冷却の前後で、アイスパック表面とタオルを介して接している足底温は36.2±1.0°Cから19.2±2.7°Cに低下していた。

そして、本研究の主題である休憩後の暑熱環境下でのパフォーマンステストで疲労困憊に至るまでの時間は、対照条件が3.23±1.07分であるのに対して、介入条件は3.92±1.10分と有意に延長していた(p<0.01)。また、運動負荷開始2分経過後の自覚的運動強度に有意差が認められ、介入条件の方が低値だった(19.37±0.74 vs 16.88±1.26点、p<0.05)。さらに体感温度に関しては、介入条件で足底冷却を行った直後から2回目の運動負荷が終了するまで有意差が観察された(3.75±0.46 vs 2.75±0.46点、p<0.05)。

その他の評価項目である、食道や大腿筋の温度、心拍数、心拍出量などについては、両条件間で有意差のあるポイントはなかった。

パフォーマンスへの効果を最大化する冷却方法の探索が必要

まとめると、暑熱環境下での足底の局所冷却は、深部体温を低下させることはないものの、局所の皮膚温を低下させ体感温度の改善に寄与する。さらに、このような影響を介して、パフォーマンスの維持・向上につながる可能性が示された。

著者らは、「今後の研究では、局所冷却がパフォーマンスに及ぼす影響の根底にある生理学的または心理学的メカニズムの解明が必要とされる。また、効果を最大化し得る冷却部位・温度・時間の探索も求められる」と述べている。

文献情報

原題のタイトルは、「Enhancing intermittent exercise performance through brief sole cryostimulation during breaks in a hot environment」。〔J Exerc Sci Fit. 2025 Jul;23(3):230-239〕
原文はこちら(Elsevier)

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