5カ月間の運動・栄養介入で高齢者の認知機能が改善 国内の地域住民対象縦断的介入研究
高齢者に対する5カ月間の運動指導と栄養指導によって、1年後の認知機能低下が抑制されるとする研究結果が報告された。とくに介入前に軽度認知障害(MCI)を有していた群で、より効果が大きいという。金沢大学大学院医学系研究科脳神経内科の小野賢二郎氏、篠原もえ子氏、公立松任石川中央病院の横山邦彦氏らの研究であり、論文が「Frontiers in Aging Neuroscience」に掲載された。
加齢に伴う認知機能低下を運動・栄養指導で抑止できるか?
人口の高齢化に伴う認知症の増加が世界的な課題となっており、とくに急速に高齢化が進む日本では喫緊の対策を必要としている。これまでに、習慣的な運動が認知機能に対して保護的に働くことが示唆されているが、現実的には多くの高齢者は身体活動が少ないことが問題であった。また、どのような運動指導が、認知機能低下抑止効果があるか不明だった。一方、血管障害のリスクとなる高血圧や糖・脂質代謝異常およびフレイル抑止のための栄養指導も、間接的に認知機能低下を抑制するように働くことが期待される。
これらを背景として小野氏らは、石川県白山市の高齢者を対象とする縦断的介入研究により、運動・栄養指導の有効性を検討した。
週1回の運動指導と月1回の栄養指導を5カ月のみ行い12カ月後に変化を評価
研究参加者は白山市在住の65歳以上の高齢者。除外基準として、認知症の診断、要介護認定(要支援は組入れ)、および医師による運動制限のある場合が設定されていた。288人がスクリーニングを受け274人が登録された。参加者は個人の意思により、運動・栄養指導を受ける群(介入群130人)、指導を受けない群(非介入群144人)に分けられ、ベースラインの認知機能を評価した後、12カ月後に再度、認知機能を評価し変化が検討された。
介入群に対しては最初の5カ月間のみ運動・栄養指導を実施
介入群の参加者に対しては、最初の5カ月間、1回65分の個別化された運動トレーニングの指導が週1回行われ、また月に1回の栄養指導が行われた。栄養指導では、減塩、糖・脂質代謝に配慮した食事の摂り方、フレイル予防のためのタンパク質摂取などが講義形式で伝えられた。
5カ月間の介入期間終了後、介入効果を評価するまでの残りの7カ月間は、指導した内容の遵守を求めたのみで、その他の指導は行わなかった。
介入から1年間での記憶機能指数(MPI)の変化を非介入群と比較
主要評価項目は軽度認知障害(mild cognitive impairment;MCI)のスクリーニングに用いられる記憶機能指数(memory performance index;MPI)の変化とした。MPIは10分ほどで評価可能であり、結果は0~100点の範囲にスコア化され、スコアが高いほど認知機能が保たれていることを意味する。スクリーニングのカットオフ値として50.2点が多用されており、本研究でも50.2点未満をMCIと定義した。
このMPIのほかに副次的に、習慣的な運動の遵守率、体組成、MCI該当者率などの変化を検討した。
介入群では認知機能スコアがプラスに変化
ベースラインから12カ月後の再評価を受けたのは、介入群が58.4%にあたる76人、非介入群は25.0%にあたる36人だった。この2群のベースラインデータを比較すると、年齢や性別の分布には有意差はなかったが、介入群はMPIスコアが低く(51.2±12.7 vs 57.1±8.2点、p=0.002)、MCI該当者の割合が高く(38.1 vs 16.7%、p=0.029)、また要支援認定を受けている割合が高かった(25.0 vs 0%、p<0.001)。
80歳未満やMCI該当者で、MPIスコアがより大きくプラスに変化
主要評価項目として設定されていた12カ月間でのMPIスコアの変化は、介入群が1.8±1.0とプラスの変化だったのに対して、非介入群では-1.2±1.1とマイナスの変化だった。平均差は4.42(95%CI;0.02~8.83)であり、有意差が認められた(p=0.049)。
この結果を、年齢層(80歳未満/以上)で層別化して検討すると、80歳未満の群で介入効果がより高い傾向がみられた。また、ベースラインでのMCIの有無で層別化した場合、MCI該当者のほうが介入効果が大きかった。
介入群では体組成が良好に変化し、MCI該当者ではその変化がMPIスコアの変化と相関
副次評価項目のうち、介入群では習慣的に運動をする人の割合が23.6%から42.1%へと有意に増加していた(p=0.004)。また、体脂肪量の減少、筋肉量の増加、体水分量の増加など、体組成の有意な変化が認められ、開眼片足立ち保持時間は38.2秒から49.7秒へと有意に延長していた(p=0.01)。MCI該当者の割合は、介入群が38.1%から34.2%に減少、非介入群は16.7%から22.2%に増加し、両群間に有意差が認められた(p=0.012)。
このほかに、ベースラインでMCIであった介入群(29人)では、筋肉量(rs=0.489)、体水分量(rs=0.507)、体タンパク質量(rs=0.485)の増加が、MPIスコアの変化と有意に正相関していた。つまり、認知機能に対する保護的作用は、運動・栄養介入による体組成の改善を介したものである可能性が考えられた。
著者らは本研究について、割付けが無作為化されていないこと、追跡率が低いこと、認知機能をMPIスコアのみで評価していることなどの限界点を挙げたうえで、わずか5カ月間の介入にもかかわらず12カ月後の認知機能低下が抑制されたことを強調。「運動指導と栄養の講義による介入は、MCIを含む高齢者の認知機能低下予防に有効と考えられる」と総括している。
文献情報
原題のタイトルは、「Effectiveness of an exercise and nutrition intervention for older adults with mild cognitive impairment: an open-label double-arm clinical trial」。〔Front Aging Neurosci. 2025 May 7:17:1581400〕
原文はこちら(Frontiers Media)