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うっかりドーピングをしがちなアスリートの特徴は? スマホでドーピングに対する潜在的な思考を可視化

潜在的にドーピングに対する親和的な思考の強さが、意図せずにドーピング行為をしてしまうリスクの有意な予測因子だとする研究結果が報告された。潜在的ドーピング思考はスマートフォンによって判定可能であり、著者らは今後のアンチ・ドーピング教育プログラムに応用できるのではないかと述べている。

うっかりドーピングをしがちなアスリートの特徴は? スマホでドーピングに対する潜在的な思考を可視化

アスリート個人の意図しないドーピング“うっかりドーピング”リスクを予測できるか?

スポーツにおいてパフォーマンス向上薬の使用は硬く禁じられているが、食品やサプリメントに含まれていることのある禁止物質を、知らず知らずに摂取してしまい、結果としてアンチ・ドーピング規定違反と判定されることがある。いわゆる“うっかりドーピング”と呼ばれるこのような事象は、たとえ意図的でないとしても、アスリート本人が全責任を負うことになり、選手生命に極めて大きな負の影響を及ぼす。

対策としては、摂取しようとする食品やサプリメントに、含まれている成分の表示がなされているか、表示があればそのリストに禁止成分が含まれていないかを確認することが必要。もちろん、リストに書かれていない成分が含まれているケースもあるため、これだけで十分なわけではないが、対策の第一歩としてこのような行動は欠かせない。

これまでの研究では、性格検査の結果やアスリートの自己申告によるドーピングに対する姿勢・思考と、うっかりドーピングリスクとの関連性が検討されてきている。しかし、それら本人の明示的な回答に基づく解析では、期待される望ましい回答を答えようとするバイアスが発生するなどの点で、検討の正確性に限界があることが指摘されている。

それに対して近年、本人が意識していないドーピングに親和的な思考(implicit doping attitude.以下「潜在的ドーピング思考」と省略)を評価しようとする試みがなされ、そのためのツールも開発されている。今回紹介する論文の著者らは、そのようなツールで評価した潜在的ドーピング思考の強さが、うっかりドーピングのリスクを予測し得るかを検証した。

潜在的ドーピング思考をスマホで評価

本研究では、筆頭著者らが開発し既に報告しているスマートフォンを利用する手法を用いて、アスリートの潜在的ドーピング思考の強さを評価した。

この手法では、スマホ画面に表示されるドーピングに関連する単語(ステロイド、利尿薬など)や、「良い/好き」を連想させる単語、「悪い/嫌い」を連想させる単語を、熟考せずにできるだけ速く分類して回答する。心理学の分野では、このような手法が潜在的な思考を評価する方法として広く用いられている。本研究では、反応時間が3秒(3,000ミリ秒)を超える回答は除外され、また350ミリ秒未満の反応もエラーとして扱われた。

次に、各ブロックにおける正答の平均反応時間の差を求め、それを全体の反応時間の標準偏差で割ることで「Dスコア」と呼ばれる値を算出した。このDスコアが高いほど、ドーピングに対して肯定的(親和的)な潜在的思考が強いと評価した。

缶飲料の外装からドーピングリスクを評価するシミュレーション

うっかりドーピングのリスクの評価には、缶飲料の外装からドーピングリスクを評価するシミュレーションを用いた。32枚のさまざまな仮想の缶飲料の画像をランダムに表示し、成分表のないものや禁止物質(ステロイド、成長ホルモン、エリスロポエチン、覚醒剤)を含むものは除外するというタスクで、画像は必要に応じて拡大表示することができた。

32種類の缶飲料を正しく分類できるほど、うっかりドーピングのリスクが低いと評価した。

潜在的ドーピング思考の強さが、うっかりドーピングのリスクと逆相関

この研究の参加者は、16歳以上で地域レベル以上の競技会に2年以上参加しているという条件を満たすアスリート681人(英国340人、オーストラリア164人、香港177人)だった。平均年齢は28.21±8.43歳、女性47.1%であり、団体競技アスリートが54.2%、個人競技アスリートが43.2%で、競技レベルは地域レベルが79.8%、州レベルが10.0%、全国レベルが5.7%、世界レベルが3.4%。週あたりのトレーニング時間は8.22±6.46時間だった。

潜在的ドーピング思考はうっかりドーピングの独立した予測因子

各評価項目同士の相関を検討すると、潜在的ドーピング思考の強さとうっかりドーピングのリスクとの間に、有意な負の関連が認められた(r=−0.10、p<0.01)。他方、国、性別、年齢、教育歴、行っている競技、競技レベルについてはいずれも、うっかりドーピングのリスクとの有意な相関がみられなかった。

階層線形モデルでの解析では、潜在的ドーピング思考の強さはうっかりドーピングのリスクの独立した予測因子であることが明らかになった(β=-0.09〈95%CI;-1.64~-0.15〉)。その他の因子はいずれも独立した予測因子として特定されなかった。

今後のアンチ・ドーピング教育プログラムへの適用も考慮

以上の結果に基づき著者らは、「香港、オーストラリア、英国での調査結果は、アスリートの潜在的ドーピング思考が、意図しないドーピング回避行動の正確さと負の有意な相関関係にあり、この相関は国によらず社会全体で維持されているという仮説が裏付けられた」と結論づけている。また、「実際への応用可能性」として以下の3点を掲げている。

実際への応用可能性

  • スマホを利用した潜在的ドーピング思考の評価は、アスリートのドーピングに対する潜在的親和性の測定のための有用なツールと思われる。
  • 仮想の缶飲料を分類するというシミュレーションは、禁止物質を含むエナジードリンクを識別するアスリートの正確さを客観的に測定する手段にもなり得る。
  • 上記の評価ツールはどちらも堅牢で、さまざまなアスリートに適用できると思われ、アスリートの自己申告に大きく依存する現在の手法とは対照的な客観的な尺度として、将来のアンチ・ドーピング教育プログラムなどでの使用が検討可能ではないか。

文献情報

原題のタイトルは、「Implicit doping attitude and athletes' accuracy in avoiding unintentional doping when being offered beverages with banned performance-enhancing substances」。〔J Sci Med Sport. 2025 Apr 30:S1440-2440(25)00125-2〕
原文はこちら(Elsevier)

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