公認スポーツ栄養士の6週間の介入で国内女子長距離選手のエネルギーバランス・代謝・貧血が改善
エネルギーバランス(EB)が負に傾いていることの多い女子長距離選手に対して、公認スポーツ栄養士が栄養介入を行った結果、6週間でEBが有意に改善するとともに、低下していた安静時代謝が戻り、貧血が改善したとする論文が「Women's Health」に掲載された。早稲田大学スポーツ科学学術院の田口素子氏らが国内実業団選手を対象に行ったケースシリーズ研究の結果であり、同氏らは「EBの改善によりアスリートのコンディション維持に好ましい変化を期待できるのではないか」と述べている。

女子長距離選手に多い健康リスクをスポーツ栄養士の介入で抑制できるか?
一般人に比べてエネルギー消費量が大きいアスリートではエネルギーバランス(energy balance;EB)がマイナスになりやすく、そのことが貧血・骨代謝異常・感染症・月経異常等の健康リスクを高めたり、ジュニア期の成長を鈍化させたり、さらにはパフォーマンス向上の妨げとなり得ることが知られている。とくに女性アスリートや持久系・審美系アスリートでこのような栄養課題が多く報告されている。
しかし、負に傾いているEBの状態からエネルギー消費と釣り合ったエネルギーを摂取することによって、アスリート特有の健康リスクをどの程度改善できるのかという点のエビデンスは必ずしも十分とは言えない。また、アスリートに対する食事介入に関する先行研究の多くは、エネルギー消費量が正確に評価されていない。
これらを背景として田口氏らは、女子長距離選手を対象として、エネルギー消費量をゴールドスタンダードである二重標識水法を用いて正確に把握したうえで、公認スポーツ栄養士が個別化した食事介入を6週間にわたり行い、EBや健康状態がどのように変化するかを検討した。
介入前は研究参加者全員、エネルギーバランス(EB)がマイナス
研究参加者は、国内の企業に勤務している実業団選手から募集され、年齢が18~30歳で喫煙習慣および摂食障害がなく、妊娠していないことなどの選択基準を満たす女子長距離選手6人であった。全員が同じ寮で生活していて、日中は社員として勤務しその前後にトレーニングを行っていた。競技レベルは全員Tier3だった。
食事介入前に二重標識水法で測定したエネルギー消費量は2,299〜3,014kcal/日であり、エネルギー摂取量は1,794〜2,403kcal/日で、エネルギーバランス(EB)は-981〜-261kcal/日と、全員がマイナスだった。炭水化物摂取量は5.3~7.0g/kg 体重/日だった。
公認スポーツ栄養士による実践的なアドバイスが課題解決の一助に
介入期間中、チーム所属の管理栄養士は、参加者(選手)個々の栄養必要量の3分の2を満たす朝食と夕食を調理し提供した。選手の摂取後には残食がないかも確認した。
昼食や補食については選手自身が摂取したものをすべて写真撮影し記録した。それらの記録に基づき、毎週、公認スポーツ栄養士が個別面接を行い、食事がとれているかの確認とともに個別の課題の解決方法についてアドバイスを行った。その際、介入前の食事調査により炭水化物の摂取量が総じて少ないことが明らかとなっていたことから、炭水化物の必要量を摂取することに重点を置いた。
介入により炭水化物摂取量が増加してEBが改善し、貧血や代謝状態も好転
上記の介入期間中のエネルギー摂取量は2,216〜2,892kcal/日の範囲であり、介入前から有意に増加して(p=0.028)、EBは-231〜151kcal/日へと改善していた。また炭水化物摂取量も7.0~8.4g/kg 体重/日と、有意に増加していた(p=0.026)。一方、体重は介入前後で維持されていた(p=0.34)。
栄養状態の改善とともに、貧血や安静時代謝量の改善なども観察された。例えば貧血については、介入前に6人中5人がステージ1の鉄欠乏状態(ヘモグロビンが11.5g/mL超、トランスフェリン飽和度16%超であるものの、フェリチンが35ng/mL未満)であったが、介入後はこのうち4人が改善し、他の1人にも改善傾向がみられた。
安静時代謝量(resting metabolic rate: RMR)については、介入前には6人中2人が低値(93人の日本人女性アスリートを対象に行った著者らの先行研究におけるRMRの第1四分位数である24.5kcal/kg除脂肪量〈FFM〉/日未満)を示していたが、いずれも介入により改善した。とくに、このうち1人は介入前が21.8kcal/kg FFM/日から、介入後には24.6kcal/kg FFM/日と著明に上昇していた。
RMRが低値だった2人の選手に認められた代謝の改善
上記のように、6人中2人は介入前のRMRが低値を示しており、この2人は学生時代に無月経を経験していたことを報告していた。このことから、過去の一定期間、エネルギー不足の状態が続いていたと推測された。
この2人の介入前の呼吸商は0.76、0.74と低値だったが、介入後には0.87、0.83へと上昇し、エネルギー基質としての炭水化物の利用が増加していることが示唆された。
なお、2人のうち1人は、介入前のコルチゾールが22.4μg/Lと高値であり、低栄養に伴う生理的なストレス反応が生じていると考えられたが、介入後は11.7μg/Lと基準範囲内に低下(改善)していた。
著者らは、「本研究にはサンプルサイズが小さいことなどの限界点があり、より堅牢なデザインでの追試が必要」としたうえで、「アスリートのエネルギー消費量を満たすための食事介入は、貧血の改善、RMR低下からの回復、ストレス反応の抑制など、健康状態の向上と関連していた。公認スポーツ栄養士による実践的なアドバイスが、アスリートのエネルギー不足という課題解決のサポートとなり得る」と総括している。
文献情報
原題のタイトルは、「Energy intake to meet total energy expenditure improves iron deficiency and metabolic suppression in female long-distance runners: A case series study with dietary intervention」。〔Women’s Health (Lond). 2025 Jan-Dec:21:17455057251385372〕
原文はこちら(SAGE Publications)







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