アルコール1日1~2杯の少量飲酒習慣でも血圧に影響 禁酒で男女とも血圧が有意に低下
約5万9千人の健診データを解析し、少量飲酒(1日1~2杯以下)でも禁酒により血圧が有意に低下することが、世界で初めて実証された。飲酒量の変化に応じて血圧が上下する「用量依存的な関係」が男女ともに存在し、アルコールの種別を問わず同様の関連性がみられるという。東京科学大学などの研究チームの研究によるもので、米国心臓病学会発行の「Journal of the American College of Cardiology(JACC)」に論文が掲載されるとともに、プレスリリースが発行された。

概要:飲酒習慣の変化と血圧の関連を縦断的に解析
東京科学大学、聖路加国際病院、米ブリガムアンドウィメンズ病院/ハーバード大学/杏林大学、国立感染症研究所の研究者からなる研究チームは、健康診断データを用いて、飲酒習慣の変化が血圧に与える影響について大規模な縦断的解析※1を行った。その結果、女性・男性ともに、少量飲酒であっても禁酒により血圧が低下し、逆に飲酒を開始すると血圧が上昇することを明らかにした。
アルコール摂取は血圧上昇の要因として知られているが、少量から中等量の飲酒(女性で1日1杯以下、男性で1日2杯以下)※2の変化が血圧に与える影響、とくに禁酒による効果については明確でなかった。これまでの研究では女性のデータが著しく不足しており、また飲酒習慣の変化を追跡した研究も限られていた。
※1 縦断的解析:同一の対象者を長期間追跡し、時間の経過による変化を観察する研究手法である。本研究では中央値1年間の間隔で繰り返し測定を行った。
※2 飲酒1杯(1スタンダードドリンク):純アルコール10gを含む飲酒量の単位。ビール250mL、ワイン104mL(グラス約0.9杯)、日本酒84L、焼酎50mL、ウイスキー31mL(ショット1杯)に相当する。
本研究では、2012年10月~2024年3月の聖路加国際病院附属クリニック予防医療センターの健康診断データベースを用い、5万8,943人の参加者から得られた35万9,717回の健診データを解析した。習慣的飲酒者では、禁酒により用量依存的※3に血圧が低下することが示された。女性では1日0.5~1.0杯の禁酒で拡張期血圧が0.41mmHg低下し、1日1.0~2.0杯の禁酒で収縮期血圧が0.78mmHg、拡張期血圧が1.14mmHg低下した。男性でも同様の傾向が認められ、1日1.0~2.0杯の禁酒で収縮期血圧が1.03mmHg、拡張期血圧が1.62mmHg低下した。
※3 用量依存的(ドーズレスポンス)関係:摂取量が増えるほど効果も比例して大きくなる関係である。本研究では飲酒量の減少が多いほど血圧低下も大きいことを示した。
一方、非飲酒者が新たに飲酒を開始した場合には、用量依存的に血圧が上昇することが示された。ビール、ワイン、ウイスキー、日本酒、焼酎などアルコール飲料の種類にかかわらず、同様の血圧変化が観察された。
本研究は、少量飲酒であっても禁酒により血圧低下効果が得られることを示した初めての大規模研究。とくに、これまで研究が不足していた女性において、男性と同様の効果が確認されたことは重要な発見。2025年米国心臓協会(AHA)/米国心臓病学会(ACC)の高血圧ガイドラインでは、女性における少量のアルコールの血圧への影響は未解決の課題とされており、女性は1日1杯以下、男性は2杯以下の飲酒が許容されていた。しかし本研究結果は、これらの少量の飲酒量でも血圧に影響を及ぼす可能性を示唆している。
本研究により、飲酒量にかかわらず禁酒が血圧管理における有効な非薬物療法となることが示された。今後は、禁酒を支援する効果的な介入プログラムの開発や、長期的な心血管疾患予防効果の検証が期待される。
図1 アルコール摂取の中止または開始後における血圧の用量依存的変化

背景:多量飲酒者ではない、通常の飲酒量の人の節酒効果は不明だった
高血圧は、心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患の主要な危険因子であり、アルコール(飲酒)による血圧上昇作用は広く知られている。米国の最新ガイドライン(2025年ACC/AHA高血圧ガイドライン)でも、高血圧の非薬物療法として、アルコール摂取を中止する、あるいは女性は1日1杯、男性は2杯以下に制限することが推奨されている。
しかし、これらの推奨は主に多量飲酒者を対象とした研究に基づいており、「少量から中等量(1日あたり純アルコール10~20g程度以下)の飲酒」の変化、とくに断酒が血圧にどのような影響を与えるかについては、十分に解明されていない。またこれまでの研究では女性の参加者が極端に少なく、女性における飲酒と血圧の関連に関する科学的根拠が不足していた。
研究成果:少量飲酒者でも禁酒により血圧が低下する
聖路加国際病院附属クリニック予防医療センターにおける約5万9千人の健診データを縦断的に分析し、飲酒量の変化が血圧に与える影響を男女別に調査した結果、以下の点が明らかになった。
1. 断酒および飲酒開始と血圧変化の関連性
日常的に飲酒していた人が飲酒量を減らすと、用量依存性に血圧が有意に低下した。具体的には、1日あたり1~2単位(純アルコール10~20g)の飲酒をしていた女性が完全に断酒した場合、収縮期血圧は0.78mmHg、拡張期血圧は1.14mmHg低下した。同様に、男性では収縮期血圧が1.03mmHg、拡張期血圧が1.62mmHg低下し、男女ともに断酒による明確な血圧降下作用が確認された。
一方、それまで飲酒習慣がなかった人が新たに飲酒を開始すると、飲酒量に比例して血圧が有意に上昇する傾向が認められた。この傾向は男女ともに一貫していた。
2. アルコールの種類による差は認めなかった
ビール、ワイン、日本酒、焼酎、ウイスキーなど、アルコールの種類にかかわらず、摂取した純アルコール量に応じて血圧の変動が確認された。このことから、エタノールそのものが血圧を変動させる要因である可能性が示唆された。
社会的インパクト:「“少酒”はからだに良い」を見直す契機に
本研究は、少量のアルコール摂取であっても、飲酒を中止することで血圧が低下しうることを示唆している。今回の成果は、高血圧の予防・管理において、性別や酒類の種類を問わず断酒が極めて有効な手段であることを裏付ける、強力な科学的根拠となる。
現行の飲酒ガイドラインの多くでは、男女で推奨量が異なり、少量の飲酒が許容されている。しかし本研究は、性別を問わず少量の飲酒でも血圧に影響を及ぼす可能性を示しており、今後のガイドライン策定に関する議論に重要な示唆を与えると考えられる。
今後の展開:少量飲酒者の節酒が脳卒中などの減少につながるか?
本研究は、飲酒習慣と血圧の関連を明らかにする重要な知見を提供する一方で、観察研究であるため、直接的な因果関係を断定するにはさらなる検証が必要。著者らは、「今後は飲酒量の変化、特に少量の変化が心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患の長期的な発症リスクに与える影響について、研究を進めていく必要があねねそれにより、より包括的で実効性のある健康管理戦略の構築に貢献することを目指す」としている。
プレスリリース
少量の飲酒でも禁酒で血圧が低下することを実証(東京科学大学)
文献情報
原題のタイトルは、「Blood Pressure After Changes in Light-to-Moderate Alcohol Consumption in Women and Men: Longitudinal Japanese Annual Checkup Analysis」。〔J Am Coll Cardiol. 2025 Oct 15:S0735-1097(25)07781-2〕
原文はこちら(American College of Cardiology Foundation)







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