Chapter2. アンチ・ドーピング活動の基礎知識
アンチ・ドーピング活動に関する情報源をまとめました。
1. 世界アンチ・ドーピング機関(WADA)と日本アンチ・ドーピング機構(JADA)
1999年、世界アンチ・ドーピング機関(World Anti-Doping Agency:以下WADA)が設立し、それまで主に国際オリンピック委員会(IOC)が取り締まっていたドーピングがWADAに移管されました。2000年のシドニーオリンピックからは血液検査が導入され、 2001年には日本アンチ・ドーピング機構(Japan Anti-Doping Agency:以下JADA)が設立しました。
世界アンチ・ドーピング機関(WADA)
日本アンチ・ドーピング機構(JADA)
2. 世界アンチ・ドーピング規定
2003年にはドーピングを定義した世界基準の規程「世界ドーピング防止規程」(World Anti-Doping Code/「Code」と呼ばれます)が採択され、近代アンチ・ドーピング体制の基礎ができあがりました。Codeには、アンチ・ドーピングの基本原則や、ドーピングの定義、アンチ・ドーピング規則違反などのルール、Codeのもとでアンチ・ドーピングを推進する個人や組織の役割と責務などが記載されています。2021年1月1日から、アンチ・ドーピングの世界的なルールが変わりました。
世界アンチ・ドーピング規程 2021(日本語翻訳、PDF)
WORLD ANTI-DOPING CODE 2021(英語)
3. 日本アンチ・ドーピング規定
日本アンチ・ドーピング規程は、世界アンチ・ドーピング規程に規定されている各条項に基づいて作成された日本国内におけるアンチ・ドーピング規則です。日本オリンピック委員会、日本パラリンピック委員会、日本スポーツ協会、JADAに加盟する国内競技連盟、都道府県スポーツ協会に適用され、各組織の役割と責務を規定しています。
4.アンチ・ドーピング規則違反
世界アンチ・ドーピング規程では、アンチ・ドーピング規則違反として、以下の11個の項目が定義されています。また、この違反はアスリートだけが対象になるのではなく、違反の種類によっては、サポートスタッフ(指導者、コーチ、チームドクターなど)もその対象となります。
- 採取した尿や血液に禁止物質が存在すること
- 禁止物質・禁止方法の使用または使用を企てること
- ドーピング検査を拒否または避けること
- ドーピング・コントロールを妨害または妨害しようとすること
※ドーピング・コントロールとは、ドーピング検査の一連の流れのことを指します - 居場所情報関連の義務を果たさないこと ※あらかじめ指定されたアスリートは、自身の居場所情報を専用のシステムを通して提出、更新する必要があります
- 正当な理由なく禁止物質・禁止方法を持っていること
- 禁止物質・禁止方法を不正に取引し、入手しようとすること
- アスリートに対して禁止物質・禁止方法を使用または使用を企てること
- アンチ・ドーピング規則違反を手伝い、促し、共謀し、関与する、または関与を企てること
- アンチ・ドーピング規則違反に関与していた人とスポーツの場で関係を持つこと
- ドーピングに関する通報者を阻止したり、通報に対して報復すること
※「報復」とは通報する本人、その家族、友人の身体、精神、経済的利益を脅かす行為
*詳細はJADAホームページをご確認ください>>
5. 禁止物質について
禁止物質および禁止方法は、世界ドーピング防止規程に基づき、WADAが1年に1回以上改定して公表する「禁止表(THE PROHIBITED LIST)」に列挙されます。禁止表は基本的に毎年10月に公表され、3カ月後の翌年1月1日から有効となります。また、この「禁止表」の和訳はJADAから毎年出されています。
市販の一般医薬品やサプリメントを服用する際には成分表をよく確認し、十分に注意する必要があります。ドーピング防止規程に関する専門知識を持った専門家に相談するなど、自分で自分を守ることは必須なのです。
2023年禁止表国際基準(日本語翻訳)
2024禁止表(The 2024 Prohibited list)
2024禁止表 主要な変更の要約と注釈(The 2024 Summary of major modifications and explanatory notes)
2024監視プログラム(The 2024 Monitoring program)
6. ドーピング検査
JADAでは、競技会および競技会以外でのドーピング検査(自宅やトレーニング場所など)を行っています。ドーピング検査計画に沿って、JADAが認定したドーピング検査員(DCP)がアスリートから尿と血液(両方もしくはどちらか一方)の検体を採取し、WADA認定ラボで分析されます。「検査及びドーピング調査に関する国際基準 (ISTI) 」に則り、アスリートのプライバシー保護に配慮し、信頼性の高いドーピング検査が実施されています。
検査及びドーピング調査に関する国際基準2023(日本語翻訳)
Interanational Standard for Testing and Investigations 2023(英語原本)
7. 治療使用特例
治療使用特例(Therapeutic Use Exemptions:TUE)は、禁止物質・禁止方法を治療目的で使用したい競技者が、申請して認められれば、その禁止物質・禁止方法が使用できる手続きです。TUEが認められなかった場合、その禁止物質・禁止方法の使用を続けることは、アンチ・ドーピング規則違反となります。
TUEは、世界アンチ・ドーピングプログラムの中の世界アンチ・ドーピング規程(World Anti-Doping Code:Code)とその TUE 国際基準(ISTUE)で手続きが定められています。
治療使用特例に関する国際基準2023(日本語翻訳)
(参考) 2023年からの『治療使用特例(TUE)に関する国際基準』の変更点
【医療従事者向け】アスリートへ薬を処方する際の確認方法とTUE申請手順(JADA医療従事者向けサイト)
服薬中の薬に禁止薬物が含まれているか検索するページ(Global DRO)
医師向けTUE申請ガイドブック「アンチドーピングと医療 -2023年版-」
国内のTUE事前申請が必要な競技大会一覧(JADA)
資料一覧(JADA)
8. 関連する国際基準
結果管理に関する国際基準(2021年より新規制定)
アンチ・ドーピング規則違反の事案が発生した時の結果管理手続きに関する国際基準です。結果管理に関する国際基準 2023(日本語翻訳)
教育に関する国際基準(2021年より新規制定)
アンチ・ドーピングの教育、情報提供などに関する国際基準です。教育に関する国際基準 2021(日本語翻訳)
署名当事者の規程遵守(コンプライアンス)に関する国際基準(ISCCS)
世界アンチ・ドーピング規程(Code)の署名当事者であるアンチ・ドーピング機関や、国際競技連盟に対する規程遵守についての国際基準です。署名当事者の規程遵守に関する国際基準2021(日本語翻訳)
プライバシー及び個人情報の保護に関する国際基準(ISPPPI)
アンチ・ドーピング活動に関連して処理される個人情報のデータ保護や、プライバシー保護に関する国際基準です。プライバシー及び個人情報の保護に関する国際基準2021(日本語翻訳)
分析機関に関する国際基準(ISL)
WADAが認定する分析機関、その他WADAが承認する分析機関において、検体の分析および管理の手続きに関する国際基準です。International Standard for Laboratories November 2021(英語原本)
9. 日本でもアンチ・ドーピング法が施行
2018年10月1日、「スポーツにおけるドーピングの防止活動の推進に関する法律」(通称:アンチ・ドーピング法)が、スポーツ庁の創設3周年と併せて施行されました。
ドーピングは選手の健康を害し、公正・公平の原則を損なうという点で、ある意味「スポーツの犯罪」といえるという面から、法制化の意義は小さくありません。しかし、罰則規定はなし。これは、ドーピング違反が一般国民の権利を侵害するわけではなく、違反した選手にはスポーツ界の国際ルールで、選手生命をも絶たれる可能性がある、「資格剥奪」や「資格停止」という制裁が科せられるからです。
ドーピング防止活動推進法条文(PDF)
オリパラ関連四法の公布について(スポーツ庁通知)
10. 2019年3月JADA認証が終了、4月より新ガイドラインが施行
JADAは、WADAの定める禁止リストに抵触しないサプリメントの認定商品を「JADA認証」として定め、JADAマークの普及を進めていましたが、様々な事情により2019年3月で廃止することになりました(猶予期間は2020年3月末まで)。
今後は、2019年4月3日に公表した「スポーツにおけるサプリメントの製品情報公開の枠組みに関するガイドライン」(サプリメント認証枠組み検証有識者会議/東京大学 境田正樹委員長)に沿った形で、アスリートやサプリメント企業がそれぞれの立場において、自己責任のもとアンチ・ドーピングに取り組んでいくこととなります。
関連情報
JADA「スポーツにおけるサプリメントの製品情報公開の枠組みに関するガイドライン」を策定(スポーツ栄養Web 2019年4月4日)
目 次
1.1 背景と目的
1.2 適用対象
2.1 生産施設審査の実施
2.2 生産施設審査における審査項目、審査内容
3.1 製品分析の対象範囲
3.2 製品分析において対象とする項目(物質)の範囲
3.3 製品分析の実施頻度
3.4 製品分析にあたる分析機関に求められる能力要件
3.5 追加分析の実施
3.6 製品分析機関の第三者認証の取得について
4.1 情報公開の目的
4.2 情報公開の体制
4.3 情報公開の内容
4.4 情報の更新
4.5 認証マーク
5.1 生産施設審査に係る認証機関の妥当性
5.2 製品分析における分析対象とする項目及び範囲について