女子大学生アスリートの7割が鉄不足、鉄配慮の食事実践者はわずか2割 栄養指導の必要性が明るみに
国内の女子大学生アスリートの鉄欠乏の実態を調査した結果、鉄およびフェリチンが基準値内のアスリートは3割に満たないこと、鉄摂取に配慮した食事を摂っている割合は2割強にとどまること、配慮していると回答したアスリートでも栄養素摂取量が不足していることなどが明らかになった。新潟医療福祉大学医療福祉学研究科健康栄養学の稲葉洋美氏らの研究によるもので、論文が「Sports」に掲載された。
女性アスリートのパフォーマンスに重要な「鉄」
鉄はヘモグロビンの成分として酸素の運搬を行うほか、アデノシン三リン酸(ATP)産生やDNA合成、電子伝達などの化学反応に関与している。アスリートは、トレーニングに伴う鉄需要の増大、および、発汗による喪失や下肢の接地による溶血などのために貧血リスクが高く、とくに閉経前の女性アスリートはさらにハイリスクであることが知られている。
アスリートの鉄欠乏性貧血は、VO2maxの低下などのパフォーマンスの制限につながる。また、貧血ではないものの鉄貯蔵が少ない状態(フェリチン低値)もパフォーマンス低下と関連していることを示唆する報告がある。このような鉄の不足に対しては、鉄サプリメント等の摂取に加えて、ふだんの食習慣を工夫することが重要である。具体的には、鉄や鉄の吸収を促進するビタミンCを含む食品の摂取を心がけ、鉄の吸収を阻害するタンニン等の摂取を控えることが有用とされる。
ただ、鉄欠乏リスクのある女性アスリートがどの程度、これらの食事上の配慮を行っているのかは、これまでほとんど調査されていない。以上を背景として稲葉氏らは、女子大学生アスリートを対象とする横断的研究を実施し、実態の把握を試みた。
研究の手法について
2022年12月~2023年2月に、同大学の運動部に所属する71人(20.2±1.0歳)が研究に参加した。バスケットボール部が最多で(21人)、次いでバレーボール部(16人)、水泳部(13人)、サッカー部(12人)、陸上部(9人)であり、これらの運動部はすべて国内大会出場レベル(Tier3)だった。
食習慣は、簡易型自記式食事歴質問票(brief-type self-administered diet history questionnaire;BDHQ)、および、12項目からなる食行動の質問票で把握した。また、「鉄欠乏性貧血や鉄欠乏の予防・改善のために食事上の配慮をしているか」と質問したほか、サプリメントの摂取状況も調査した。
貧血の有無や状態はスイススポーツ医学会の報告に基づき以下のように分類した。
- ヘモグロビン12g/dL以上かつフェリチン30μg/L以上→正常
- ヘモグロビン12g/dL以上かつフェリチン30μg/L未満→非貧血性鉄欠乏
- ヘモグロビン12g/dL未満かつフェリチン30μg/L未満→鉄欠乏性貧血
- ヘモグロビン12g/dL未満かつフェリチン30μg/L以上→非鉄欠乏性貧血
(このほかに小球性低色素性貧血の判定も行ったが該当者なし)
鉄の状態が正常は3割未満、1割は鉄欠乏性貧血、鉄に配慮した食事の実践は2割強
結果について、まず貧血の有無と状態をみると、正常は21人(29.5%)と3割足らずであり、ほかの約7割には鉄の不足等が認められた。その内訳は、非貧血性鉄欠乏が42人(59.1%)、鉄欠乏性貧血が7人(9.9%)、非鉄欠乏性貧血が1人だった。
次に、「鉄に配慮した食事を摂っている」か否かの回答をみると、「はい」と回答したアスリートは16人(22.5%)にすぎなかった。さらに、鉄欠乏や鉄欠乏性貧血に該当するアスリートの過半数にあたる52.1%が、鉄に配慮した食事を摂っていなかった。
鉄に配慮した食事を摂っている割合を運動部別にみると、サッカー部が最も高く(43.8%)、水泳部は最も低かった(6.3%)。
鉄に配慮して食べているアスリートのほうがHbやHtが有意に低い
鉄に配慮した食事を摂っていると回答したアスリートとそうでないアスリートを比べると、BMIや体脂肪率に有意差はなく、また貧血(上記の各状態)を有する割合も有意差がなかった。一方、血液検査データに関しては、ヘモグロビン(13.1±0.92 vs 12.6±0.89g/dL、p=0.034)とヘマトクリット(39.7±2.6 vs 38.1±2.32%、p=0.028)に有意差が認められ、いずれも鉄に配慮した食事を摂っている群が低値だった。
鉄に配慮している群のほうがヘモグロビン(Hb)やヘマトクリット(Ht)が低いという、一見矛盾するようなこの結果について著者らは、「鉄欠乏の指摘を受けたことのあるアスリートが鉄に配慮して食事を摂取していることを現していると考えられる」と述べている。血清鉄、フェリチンなど、その他の検査値は有意差がなかった。
鉄に配慮して食べているアスリートは、甘いものを控え淡色野菜を頻繁に摂っている
食行動質問票の12項目の中で、鉄に配慮した食事を摂っているか否かで有意差が認められたのは2項目であり、「甘いものや加糖飲料を避ける」(週7日のうち2.73±2.18 vs 4.13±2.34日、p=0.049)や「淡色野菜(きゅうり、キャベツ、レタスなど)を食べる」(同4.67±1.54 vs 5.38±1.05、p=0.048)が、鉄に配慮して食べている群で多かった。
朝食の摂取頻度、および、鉄を多く含んでいる肉や魚、緑黄色野菜、大豆製品などの摂取頻度には有意差がなかった。
摂取栄養素量は有意差がなく、全体的に摂取量が不足している
体重あたりの栄養素摂取量を比較すると、主要・微量栄養素のすべてに有意差がなく、エネルギー摂取量も有意差がなかった。鉄摂取量は全体平均が6.1±2.5mg/日、ビタミンCは77.3±50.5mg/日だった。鉄の摂取のためにサプリメントを使用しているのは、全体で2人のみだった。
女性アスリートに対する鉄に配慮した栄養指導の必要性が浮き彫りに
まとめると、女子大学生アスリートの約1割(9.9%)に鉄欠乏性貧血が認められ、鉄に配慮した食事を摂っているのはわずか22.5%であり、鉄状態が正常と言えないアスリートの過半数(52.1%)が配慮していなかった。さらに、鉄に配慮した食事を摂っていると回答したアスリートの食事スタイルは必ずしも適切とは言えず、鉄やビタミンCの摂取量が不十分であった。
著者らは本研究が単一大学の学生を対象とした調査の結果であること、鉄吸収を阻害する栄養素の摂取量を調査していないことなどを限界点として挙げたうえで、「国内の女性アスリートの多くが鉄欠乏のリスクが高い状態にあり、それにもかかわらず鉄に配慮した食事を摂取していない。管理栄養士による栄養指導と定期的なスクリーニングの実施が必要ではないか」と総括している。
文献情報
原題のタイトルは、「Iron Deficiency Prevention and Dietary Habits Among Elite Female University Athletes in Japan」。〔Sports (Basel). 2025 Jul 7;13(7):220〕
原文はこちら(MDPI)