炎症を促進する食事を控えることで高齢女性の慢性疼痛を予防できる可能性 東京都健康長寿医療センター研究所
炎症を促進する食事摂取パターンを有する高齢女性は、慢性疼痛を抱えている割合が高いことが明らかになった。東京都健康長寿医療センター研究所の研究グループによる論文が「Archives of Gerontology and Geriatrics」に論文が掲載されるとともに、プレスリリースが発行された。著者らは、とくに女性においては炎症を促進する可能性のある食品摂取を管理することが、慢性疼痛の予防に有効である可能性があるとしている。

研究背景:長引く痛みの一因として、炎症を促す食事バターンは関連があるのか?
近年、食生活と慢性疼痛※1の関連性に注目が集まっている。最近の報告では、不健全な食事摂取パターンと慢性疼痛の発症リスクは関連している可能性が示されている。また、慢性疼痛の背景には慢性炎症(軽度な炎症反応が長期間続く状態)が関与していると考えられている。炎症が持続すると炎症性の物質が神経を刺激して、痛みの感じ方を強めたり痛みを長引かせたりする可能性がある。
※1 慢性疼痛:けがや病気が治ったあとも長く続く痛みのことを指す。3カ月以上続く痛みを「慢性疼痛」と呼び、日常生活や仕事に支障を来すことがある。
こうした知見から、体に炎症を起こしにくい抗炎症性の食事摂取パターンが慢性疼痛の予防に重要ではないかと考えられている。例えば炎症を促進する食事には、糖分や飽和脂肪酸を多く含むもの・炭水化物・加工肉などが挙げられる。一方、野菜や果物、食物繊維などは炎症を抑制する食材とされ、こうした食品を多く摂ることは炎症リスクが低い「抗炎症性の食事」といわれている。
食生活が身体の炎症に与える影響を客観的に評価する指標として、食事性炎症指数(Dietary Inflammatory Index;DII)※2が開発されている。DIIは各食品や栄養素の炎症への影響度を点数化したもので、食事全体が炎症をどの程度促すか(あるいは抑えるか)を示す尺度。DIIスコアの値が高いほどその食事は炎症を促す傾向が強く、逆に低い値ほど炎症を抑える傾向が強いことを意味する。
※2 食事性炎症指数(Dietary Inflammatory Index;DII):食事の内容が体の「炎症」をどの程度強めるか、あるいは抑えるかを数値で示す指標。DIIは、-8.87〜7.98の値をとる。特定の栄養素や食品の摂取量をもとに計算され、値が高いほど炎症を促す食事、低いほど炎症を抑える食事をしていることを意味する。
これまで、DIIスコアと各種疾患との関連が数多く研究されているが、高齢者において「炎症誘発性の食事パターン」と「慢性疼痛」の関連を調べた研究は限られていた。
本研究の目的と方法:DIIスコアと慢性疼痛、抑うつ傾向との関連を横断的に検討
本研究では、上述の背景を踏まえ、高齢者における炎症誘発性の食事と慢性疼痛の関連を明らかにすることを目的とした。とくに、性別や年齢層の違い、および抑うつ傾向の有無によって、その関連に違いがあるかを検討している。
研究方法は、地域在住高齢者を対象とした横断研究。対象となった高齢者に普段の食事内容をアンケートで回答してもらい、摂取している食品群や栄養素の情報から一人ひとりのDIIスコアを算出した。DIIスコアが高いほど炎症誘発性の食事パターン、低いほど抗炎症性の食事パターンとなる。併せて、各参加者の慢性疼痛の有無も調査した。慢性疼痛は肩、腰、膝のいずれかの部位に3カ月以上続く疼痛がある場合を「慢性疼痛がある」と定義した。また、対象者の性別、年齢のほか、抑うつ傾向について評価する質問紙(Geriatric Depression Scale;GDS)を用い、抑うつ傾向の有無も聴取した。
これらのデータの統計解析を行い、DIIスコアと慢性疼痛に関連がみられるかどうか、さらにその関連が性別や年齢層の違い、抑うつの有無によってどのように異なるかを検討した。
研究結果:DIIスコアの高い高齢女性は慢性疼痛が多く、うつ傾向との関連も
炎症誘発性の食事パターン(高いDIIスコア)である女性は男性よりも慢性疼痛を有する割合が高いことがわかった。また、80歳以上の女性グループでは、炎症誘発性の食事摂取パターンとなることで慢性疼痛を持つ割合が高くなることが明らかになった(図1)。
図1 女性の慢性疼痛の該当リスク

さらに、抑うつ傾向のある高齢女性においても炎症誘発性の食事摂取パターンであることで、慢性疼痛の保有割合が高くなることが明らかになった(図2)。
図2 サブグループ解析

研究成果の意義:栄養介入が長引く痛みの改善につながる可能性
本研究の成果は、高齢者の慢性疼痛に対する新たな予防策として「食事」に注目すべきことを示唆している。これまで、慢性疼痛へのアプローチとして、薬物療法、心理的介入、リハビリテーション、運動療法などが挙げられていた。しかし、本研究によって、日々の食生活が慢性疼痛に関連し得ることが示され、栄養・食事面からの新たな介入が慢性疼痛の予防や軽減に有効となる可能性がある。
プレスリリース
炎症を促す食事を多く摂る高齢女性は、慢性的な痛みを抱えている割合が高いことが明らかに(東京都健康長寿医療センター研究所)
文献情報
原題のタイトルは、「Association between pro-inflammatory dietary patterns and chronic pain in community-dwelling older」。〔Arch Gerontol Geriatr. 2026 Jan:140:106035〕
原文はこちら(Elsevier)







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