牛乳に含まれる乳脂肪球膜の摂取と筋トレで、50歳未満の成人の体力が向上する可能性
牛乳中の脂肪を包んでいる膜構造「乳脂肪球膜」の摂取が、比較的若年の成人において瞬発力を含む体力指標にプラスの影響を及ぼすことを示唆するデータが報告された。筋力トレーニングを併用した4週間の介入試験で、プラセボ摂取と比較し下肢筋力や30秒間の腹筋運動の回数に有意差が認められたという。(株)明治 研究本部の中山恭佑氏らの研究によるもので、国際スポーツ栄養学会(ISSN)の学術誌「Journal of the International Society of Sports Nutrition」に論文が掲載された。
筋トレに乳脂肪球膜(MFGM)摂取を加えると、若年者の筋力もさらに向上する?
筋力トレーニングに特定の栄養成分の摂取を加えると、筋力をより高められることが示唆されている。例えば、クレアチン、ビタミンD、一部のプレバイオティクスなどでそのようなデータが報告されている。
乳脂肪球膜(milk fat globule membrane;MFGM)は、牛乳に含まれているトリグリセライドを包んでいる膜状の構造で、リン脂質やスフィンゴミエリンなどで構成されている。このMFGMに関しても近年、軽強度有酸素運動との並行介入によって、高齢者の敏捷性や中年者の筋力が向上することが報告されてきている。
ただ、MFGMの摂取と筋力トレーニングを並行して行った場合の影響については、まだ検討されていない。中山氏らはこのギャップを埋めるため、プラセボ対照二重盲検比較試験を行った。
50歳未満の健康な成人を対象に4週間介入
事前のパイロット研究により、このトピックの有意差の検証には約100人(各群50人)が必要と考えられ、160人が募集された。非高齢者での効果を検討するという目的から、年齢を50歳未満とし、その他の除外基準(習慣的に高強度トレーニングを行っている、ホエイプロテインまたはスフィンゴミエリンを習慣的に摂取している、BMI30以上、喫煙者、大量飲酒者、重大な疾患の既往、医学的な理由による運動制限など)の該当者を除外し、研究参加者は102人となった。
性別の分布に偏りが生じないように調整のうえ無作為に2群に分け、1群を乳脂肪球膜(MFGM)摂取群、他の1群をプラセボ群とした。介入期間は4週間だった。
介入方法について
MFGMまたはプラセボを1日1回、後述の筋力トレーニング実施日は筋トレ開始の60分前までに、その他の日は任意の時刻に摂取してもらった。MFGMはホエイプロテインから作られたもので、1回分は炭水化物0.2g、タンパク質7.6g、脂質1.7g、スフィンゴミエリン160mgであり、エネルギー量は46kcal、プラセボはホエイプロテインとマルトデキストリンから作られ、炭水化物3.8g、タンパク質7.6g、脂質0.0g、スフィンゴミエリン5mg(検出限界)未満で46kcalだった。
筋トレは週3回、スポーツクラブ内で研究者の監督のもと、レッグプレス、チェストプレス、カウンタームーブメントジャンプ、腹筋運動などが行われた。
乳脂肪球膜(MFGM)群で、筋力関連指標がより大きく上昇
介入期間中に数名が脱落し、解析対象はMFGM群48人、プラセボ群50人となった。ベースラインにおいて、性別の分布(女性がMFGM群23人、プラセボ群26人)、年齢(両群とも平均約34歳)、BMI(同22)に有意差がなく、除脂肪量や乳製品からのスフィンゴミエリンの摂取量(MFGMそのものの定量は困難であるためスフィンゴミエリン摂取量を評価)も有意差がなかった。
介入効果は、等速性膝伸展・屈曲筋力、レッグプレスおよびチェストプレスの1RM(1回だけ施行可能な最大負荷量〈one repetition maximum〉)、反復横跳び、垂直跳び、腹筋運動、体組成などで評価された。ベースラインではいずれも群間差が非有意だったが、介入後には複数の指標で有意な群間差が認められた。詳細は以下のとおり。
等速性膝伸展・屈曲のピークトルクと平均パワー
MFGM群では4週間の介入の前後で、等速性膝伸展動作のピークトルクと平均パワー、および、膝屈曲のピークトルクと平均パワーがいずれも有意に向上していた。一方、プラセボ群では膝屈曲のピークトルクと平均パワーのみが有意に向上し、膝伸展のピークトルクと平均パワーは有意な変化がみられなかった。
介入後の等速性膝伸展のピークトルク(p=0.003)と平均パワー(p=0.019)に有意差が認められ、介入前後の変化量もMFGM群のほうが有意に大きかった。
レッグプレス・チェストプレスの1RM
レッグプレスとチェストプレスの1RMは、MFGM群とプラセボ群の双方で、介入により有意に向上していた。ただし、レッグプレスの1RMについては、介入前後の変化量がMFGM群のほうが有意に大きく、介入後の値に有意差が認められた(p=0.004)。
30秒間の腹筋運動の回数
腹筋運動の施行可能回数は、MFGM群とプラセボ群の双方で、介入により有意に向上していた。ただし、介入前後の変化量はMFGM群のほうが有意に大きく、介入後の値に有意差が認められた(p=0.030)。
その他の指標
その他に評価された、敏捷性の指標である反復横跳びや、垂直跳び、体重、除脂肪体重などに関しては、介入前後での変化量や介入後の値に有意差は認められなかった。
加齢に伴う体力低下をMFGM摂取で部分的に抑制できる可能性
まとめると、若年成人を対象として4週間の筋トレに並行しMFGMを連日摂取することにより、筋力やパワーがより大きく向上することが示された。ただし、敏捷性についてはプラセボと有意差がなかった。
著者らは、研究期間中の食事・栄養素摂取状況や監督下以外の運動量が把握されていないこと、筋トレを行わずにMFGM摂取のみの介入群や非介入群が設定されていないことなどを研究の限界点として挙げ、「認められた効果がMFGM単独によるものなのか筋トレとの相乗効果なのかは明らかでない」としている。そのうえで、「健康寿命の延伸と生活の質の向上は、世界的に重要な課題であり、体力の維持・向上が重要とされる。本研究で示されたMFGM摂取による効果が、成人期以降の加齢に伴う体力低下の抑止に役立てられるのではないか」と結論づけている。
文献情報
原題のタイトルは、「Effects of milk fat globule membrane ingestion with exercise on physical strength in healthy young adults: a randomized double-blind, placebo-controlled trial」。〔J Int Soc Sports Nutr. 2025 Dec;22(1):2535372〕
原文はこちら(Informa UK)