スポーツ栄養WEB 栄養で元気になる!

SNDJ志保子塾2024 ビジネスパーソンのためのスポーツ栄養セミナー
一般社団法人日本スポーツ栄養協会 SNDJ公式情報サイト
ニュース・トピックス

メタボに対する植物性食品中心の食事介入を総括 抗炎症・抗血栓の観点からのナラティブレビュー

メタボリックシンドロームに対する食事・栄養介入を、抗炎症・抗血栓という観点で総括したナラティブレビュー論文を紹介する。イラン、イタリア、ポーランドの研究者らによるものであり、ビーガン食および植物性食品中心の食事との関連について総括されている。

メタボに対する植物性食品中心の食事介入を総括 抗炎症・抗血栓の観点からのナラティブレビュー

イントロダクション

メタボリックシンドロームは、2型糖尿病や心血管疾患のハイリスク状態であり、また、慢性炎症や易血栓性とも密接に関連している。メタボリックシンドロームの改善には運動とともに食習慣の改善が重要であり、肥満(特に腹部肥満)の改善のための栄養介入については既に多くの研究報告がある。しかし、慢性炎症や易血栓性に対する食事介入という視点での研究となると数は限られてきて、とくにレビュー論文は少ない。このような背景のもと、ベジタリアン食やビーガン食などの食事スタイルが、慢性炎症や易血栓性のプロセスに及ぼす影響について、包括的なレビューが行われた。

この論文の構成は、メタボリックシンドロームの病態の解説に続き、メタボリックシンドロームのコンポーネントである、2型糖尿病および高血糖が炎症と血栓症に及ぼす影響、肥満が炎症と血栓症に及ぼす影響、高血圧が炎症と血栓症に及ぼす影響について解説。そのうえで、食事介入の影響について解説されている。本稿では、その食事介入に関する解説部分の要旨を紹介する。

メタボリックシンドローム管理における植物性食品とビーガン食

イランの20〜50歳の肥満成人347名を対象に、植物性食品中心の食事スタイルとメタボリックシンドロームとの関連を調査した研究の報告がある。その研究では、全体としては食事スタイルとメタボリックシンドロームとの間に関連性が見つからなかった。ただし非健康的とされる植物性食品ベースの食事をしている人は、高血糖や高インスリン血症になる可能性が高いことが示された

計84万4,175人が参加した13件の前向きコホート研究の系統的レビューとメタ解析の報告では、菜食主義の食事は非菜食主義の食事と比較して心血管疾患(CVD)リスクが15%低く、虚血性心疾患のリスクが21%低いことが明らかにされている。またビーガン食もCVDリスクが低いことが示されている。

別の研究では、厳格な菜食主義者(動物性食品を食べない)、半菜食主義者(卵と乳製品は食べるが肉は食べない)、非菜食主義者(肉、乳製品、植物性食品を食べる)という3群での比較がなされた。その結果、厳格な菜食主義者は、タンパク質、飽和脂肪、コレステロールの摂取量が少なく、食物繊維と多価不飽和脂肪の摂取量が多かった。そして、彼らは血栓形成に関連する血液プロファイルが良好であった。

普通食(雑食)とビーガン食でのメタボリックシンドローム関連マーカーへの影響

● 血糖値

雑食
精製炭水化物と飽和脂肪酸による空腹時血糖の上昇
ビーガン食
空腹時血糖の低下、高繊維摂取によるインスリン感受性の改善

● LDLコレステロール

雑食
動物性食品に含まれる飽和脂肪とコレステロールによるLDL-Cレベルの上昇
ビーガン食
動物性脂肪が含まれず、植物ステロールが含まれているため、LDL-Cレベルが低下

● HDLコレステロール

雑食
食事中の脂肪の影響を受ける中程度のHDL-Cレベル
ビーガン食
HDL-Cはわずかに低下するが、全体的な脂質プロファイルの改善によりバランスがとれた変化となる

● 中性脂肪

雑食
加工食品や単糖類に関連する上昇
ビーガン食
食物繊維と不飽和脂肪酸を多く含むため低下

● 炎症マーカー

雑食
炎症誘発性の動物性脂肪によるCRPおよびIL-6レベルの上昇
ビーガン食
抗炎症性植物栄養素とω3脂肪酸によるCRPとIL-6レベルの低下

ビーガン食が腸内細菌叢とメタボリックシンドロームに与える影響

ヒトの腸内細菌叢は、良好な代謝の維持において中心的な役割を果たしている。その組成と機能性は、食生活に強く影響される。動物性食品を一切排除し、食物繊維を豊富に含む植物性食品を重視するビーガン食は、腸内細菌叢組成の有益な変化と、メタボリックシンドロームに関連する代謝パラメータの改善に関連していることが知られている。

またメタボリックシンドロームは全身性炎症や腸内細菌叢の異常と密接に関連しているが、ビーガン食は腸内微生物生態系の調節を介して、それらの危険因子を軽減する可能性がある。しかし、適切性が不十分なビーガン食を長期にわたって継続すると、ビタミンB12、鉄、ω3脂肪酸の欠乏リスクがあり、宿主-微生物相互作用や代謝に影響を及ぼす可能性がある。ビーガン食における栄養の適切さと多様性は、その保護効果を最大限に高めるために不可欠と言える。

ビーガン食と普通食(雑食)での栄養素含有量の差異と、ビーガンへの推奨

● 血糖値

雑食
精製炭水化物と飽和脂肪酸による空腹時血糖の上昇
ビーガン食
空腹時血糖の低下、高繊維摂取によるインスリン感受性の改善

● ビタミンB12

ビーガン食での含有量
主に動物由来の製品に含まれるため低い
雑食での含有量
肉、卵、乳製品などの供給源により十分である
ビーガンへの推奨
強化食品(シリアル、植物性ミルクなど)、およびビタミンB12サプリメント

● 鉄

ビーガン食での含有量
非ヘム鉄であり、生体利用性が低い
雑食での含有量
ヘム鉄が多い(赤身の肉のほうが生体利用性が高い)
ビーガンへの推奨
鉄分を豊富に含む植物性食品(レンズ豆、豆腐、ほうれん草など)をビタミンCとともに摂取すると吸収力が向上する

● ω3

ビーガン食での含有量
長鎖ω3脂肪酸(EPAとDHA)が低レベル
雑食での含有量
魚介類からの高レベルに摂取
ビーガンへの推奨
植物由来の食品(亜麻仁、クルミなど)や藻類由来のω3サプリメントを摂取

● 亜鉛

ビーガン食での含有量
植物由来食品からの摂取は中程度だが、生物学的利用能は低い
雑食での含有量
動物性食品には生体利用可能な亜鉛が豊富に含まれているため十分
ビーガンへの推奨
亜鉛を豊富に含む食品(豆、ナッツ、種子など)を摂取し、必要に応じて亜鉛サプリメントを検討

文献情報

原題のタイトルは、「Vegan and Plant-Based Diets in the Management of Metabolic Syndrome: A Narrative Review from Anti-Inflammatory and Antithrombotic Perspectives」。〔Nutrients. 2025 Aug 15;17(16):2656〕
原文はこちら(MDPI)

この記事のURLとタイトルをコピーする
志保子塾2025後期「ビジネスパーソンのためのスポーツ栄養セミナー」

関連記事

スポーツ栄養Web編集部
facebook
Twitter
LINE
ニュース・トピックス
SNDJクラブ会員登録
SNDJクラブ会員登録

スポーツ栄養の情報を得たい方、関心のある方はどなたでも無料でご登録いただけます。下記よりご登録ください!

SNDJメンバー登録
SNDJメンバー登録

公認スポーツ栄養士・管理栄養士・栄養士向けのスキルアップセミナーや交流会の開催、専門情報の共有、お仕事相談などを行います。下記よりご登録ください!

元気”いなり”プロジェクト
元気”いなり”プロジェクト
おすすめ記事
スポーツ栄養・栄養サポート関連書籍のデータベース
セミナー・イベント情報
このページのトップへ