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女性持久系アスリートはナトリウム摂取で暑熱下のパフォーマンスが向上 とくに黄体期で顕著な影響

女性持久系アスリートの暑熱環境での運動の際に、ナトリウム(Na)を積極的に摂取することが、パフォーマンス上有利に働くことを示唆する研究報告を紹介する。タイムトライアルが有意に向上し、直腸温や心拍数などへの負の影響は生じないという。また、月経周期との関連を考慮すると、とくに黄体期においてこの効果が大きく現れるとのことだ。オーストラリアの研究。

女性持久系アスリートはナトリウム摂取で暑熱下のパフォーマンスが向上 とくに黄体期で顕著な影響

女性アスリートの月経周期を考慮した暑熱対策戦略を探る研究

高温多湿の環境での長時間の運動は、体温や心血管系へのストレスを増大させてパフォーマンスを低下させる。とくに水分摂取量が少ない場合や発汗により体内水分が喪失した場合、脱水によりそのリスクがさらに上昇する。それに対して運動前に、例えばナトリウムを摂取して血漿浸透圧を高めておくと、体内の水分量が定常状態(平衡状態)を超えて増加し、脱水症状の発現を遅らせることができる。実際、このような戦略により、陸上長距離種目や自転車競技において疲労困憊に至る時間が延長するといったエビデンスがある。

しかし、これらのエビデンスの大半は、男性アスリートで検討された研究の結果である。女性は男性に比較し最大発汗量が少なく熱放散が低い可能性があり、さらに、月経周期によって体内水分量や熱産生・放散が異なるという点で、男性でのエビデンスの適用が制限される。今回紹介する研究は、このような背景の下で実施された。

Tier 2~3の持久系アスリート対象のプラセボ対照無作為化クロスオーバー研究

この研究は、メルボルンの涼しい時期(4~10月、気温は6~16°C)に実施された。これにより、自然環境による暑熱馴化が生じることを回避した。

研究参加者は、オーストラリア国内のスポーツ団体またはソーシャルメディアを通じて募集された、持久系競技(自転車またはトライアスロン)の女性アスリート13人。研究参加のための要件として、競技歴2年以上、週3回以上かつ5時間以上のトレーニング、疾患を有していない、月経異常がないこと、除外条件として、妊娠・授乳中、過去6カ月以内の避妊薬使用の変更、過去2カ月以内の暑熱環境(気温25°C超)曝露が、それぞれ設定されていた。1人が脱落し解析対象は12人だった。競技レベルは、Tier 2が9人、Tier 3が3人だった。

研究デザインは、プラセボ対照無作為化クロスオーバー法で、月経周期のフェーズ1(月経開始後3~6日〈以下、月経期〉)とフェーズ4(尿中黄体化ホルモン陽性後7~9日〈以下、黄体期〉)に、ナトリウム摂取条件、またはプラセボ摂取条件を試行。つまり、被験者1人につき4回の試行を行った。

試験の試行手順について

各試験の試行の手順は以下のとおり。

24時間前から、高ナトリウムの飲食物とアルコールの摂取、および激しい運動を禁止。前日の夕食は標準化された冷凍食品(平均2,236kJ〈534kcal〉、ナトリウム883mg)を摂取。またスマートフォンアプリを用いて、初回試験の24時間前からの食事・水分摂取量、運動量を記録し、2~4回目の試行前に再現することとした。なお、事後解析の結果、栄養素・水分摂取量はすべて、試験条件間で有意差がないことが確認された(p値が0.700~0.965)。

体温および内分泌状態の日内変動を抑制するため、起床時刻を一定とし一晩絶食(約10時間)後に研究室に来訪。標準化された朝食(平均1,857kJ〈444kcal〉、ナトリウム306mg)と250mLの水を摂取。カフェイン摂取習慣のある人は標準化されたコーヒー(カフェイン約50mg)を摂取した。

運動負荷の開始2時間前から4回に分けて、7.5g/Lの塩化ナトリウムを含む水、またはプラセボを含む30mL/kgの水を摂取。ともにスクロースで味付けされ、区別がつかないようにされていた。

運動負荷は、60%VO2peakで75分間の定常走行を課したあと、34°C、相対湿度60%のチャンバー内で200kJのタイムトライアル(TT)を実施。直腸温と心拍数は、ベースラインと定常走行中に5分ごと、TTの50kJごと、およびTT完了時に測定した。また、体重の変化により脱水レベルを評価した。

これらを、月経期と黄体期に行った。

ナトリウム摂取条件で水分の喪失が抑制されタイムトライアル記録が向上

プラセボ条件とナトリウム条件を-かした結果、直腸温や心拍数は有意差がなかった。その一方、体重やパフォーマンスには、以下のような有意な影響が観察された。

定常走行試験での体重変化

体重は、定常走行のベースライン値は有意差がなかったにもかかわらず、定常走行の後は黄体期のナトリウム条件で有意に高値となっていた(月経周期を考慮しない全体解析〈p=0.040〉と黄体期〈p=0.009〉で有意、月経期は非有意)。つまり、運動開始前にナトリウムを摂取したことによって運動中の体内の水分の喪失が抑制されること、とくに黄体期でその作用が大きいことが示唆された。

タイムトライアルのパフォーマンス

タイムトライアル(TT)の記録は、ナトリウム摂取条件で有意に向上していた(月経周期を考慮しない全体解析〈p=0.01〉と黄体期〈p=0.005〉で有意、月経期は非有意)。つまり、運動開始前にナトリウムを摂取したことによって、持久力パフォーマンスが向上し、とくに黄体期でその作用が大きいことが示唆された。

ナトリウムの積極的な摂取は、とくに黄体期の女性の有効な暑熱緩和戦略となり得る

著者らは本研究を「ナトリウム摂取が女性サイクリストの運動パフォーマンスに及ぼす影響を調査し、その影響を月経フェーズ間で比較した初の研究」と位置づけている。得られた結果は、ナトリウム摂取により暑熱環境下でのTTパフォーマンスが約5%有意に向上し、とくに黄体期でより有効だった。また、体温や心拍数への負荷はプラセボと変わらなかった。このことから、心血管系に負の影響を及ぼすことなく体液保持効果が発揮されると考えられた。

論文の結論には、「水分補給が不十分な状態で長時間、暑熱環境下での運動・競技を行う女性持久力アスリートにとって、ナトリウムの積極的な摂取は有用な暑熱対策となり得る。黄体期にはより高い効果がもたらされる可能性がある」と述べられている。

文献情報

原題のタイトルは、「Sodium Hyperhydration Improves Performance With No Change in Thermal and Cardiovascular Strain in Female Cyclists Exercising in the Heat Across the Menstrual Cycle」。〔Int J Sport Nutr Exerc Metab. 2025 Jan 23;35(2):99-111〕
原文はこちら(Human Kinetics)

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