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アイススラリーが暑熱環境で持久運動中の過換気や脳血流低下を軽減しパフォーマンス向上の可能性 筑波大学

シャーベット状の氷飲料(アイススラリー)を暑熱下運動前に摂取すると、運動中の過換気や脳血流量の減少などの生理的ストレスを軽減し、持久性パフォーマンスの向上に寄与することを示唆する研究結果が発表された。ただし、腹痛や下痢感などの副反応が生じた場合には、同様の効果が得られない可能性があるという。筑波大学の研究グループの研究によるもので、「Medicine & Science in Sports & Exercise」に論文が掲載されるとともに、プレスリリースが発行された。

アイススラリーが暑熱環境で持久運動中の過換気や脳血流低下を軽減しパフォーマンス向上の可能性 筑波大学

研究の概要:アイススラリーの有効性と、パフォーマンスに有利に働く条件

暑熱下持久的運動時において、運動時間の経過とともに深部体温は上昇する。このとき、必要以上に呼吸も増加し(換気亢進反応)、脳血流量の減少を招く。このことは、暑熱下における運動パフォーマンス低下や熱中症発症の一要因である可能性が提唱されている。

本研究では、若年男性を対象とした実験により、シャーベット状の氷飲料である「アイススラリー」を暑熱下持久的運動前に摂取することで、常温の同飲料を摂取した場合と比較して、運動中の深部体温が低下すること、換気量(肺が1分間に換気する空気量)が減少すること、脳血流量指標が増加することが明らかとなった。一方で、一部の研究対象者では、アイススラリーの摂取によって極度な胃腸障害(主観的な腹痛や下痢感)が生じ、換気量の減少や脳血流量指標の増加はみられなかった。興味深いことに、このような症状が現れた研究対象者を除いた場合、アイススラリーの摂取によって運動終盤の持久性パフォーマンスが有意に向上した。

以上のことから、運動前のアイススラリーの摂取は、暑熱下運動中の換気亢進反応および脳血流量の減少を軽減し、持久性パフォーマンスの向上に有効であることが示唆されるが、その効果は、胃腸障害が生じた場合には得られない可能性がある。

本研究の知見は、暑熱下における運動中の換気亢進反応および脳血流量の減少を軽減し、運動パフォーマンス低下や熱中症の発生を防ぐ具体的方策の提案に貢献すると期待される。

研究の背景:アイススラリーはどのように作用し、どのくらい有効なのか?

夏季の学校体育やスポーツ、労働現場における暑熱対策の確立は重要な課題となっており、さまざまな身体冷却方法が提案されている。例えば、暑熱下での運動前にシャーベット状飲料(アイススラリー)を摂取すると、運動時の深部体温※1上昇や知覚的ストレス※2が抑制され、持久的運動パフォーマンスが向上する可能性がある。しかし、運動前のアイススラリー摂取が、暑熱下運動時の生理的負担をどのように調節するかについては十分に解明されていない。このような情報は、より効果的なアイススラリーの摂取方法を確立する上で重要であるといえる。

※1 深部体温(core temperature):ヒトの体温は身体の深部に近いほど高く、体表に近いほど低くなる温度勾配が存在する。各部位の温度を正確に表すため、核心部とよばれる身体中心部の温度を深部体温といい、食道温、直腸温、鼓膜温等や内臓温度がその指標として用いられる。
※2 知覚的ストレス(perceptual stress):運動強度や呼吸努力度、温度に対する感覚や快適度などを主観的に数値で評価したもの。例えば、主観的運動強度は6-20の範囲で設定されており、20に近づくほど運動がきつく感じることを表す。

暑熱下での持久的運動時には、時間経過とともに深部体温が上昇し、特に脳温の過度な上昇は、運動パフォーマンス低下や熱中症発生につながる。近年、深部体温上昇に伴って生じる過度な換気量※3の増加反応(換気亢進反応)が、脳温上昇を促進する可能性が提唱されている。その理由として、換気亢進に付随する血中二酸化炭素分圧の低下によって脳血管収縮を介した脳血流量の減少が起こり、脳での熱除去量が低下することが挙げられる。従って、暑熱対策を確立する上で、深部体温上昇だけでなく、換気亢進や脳血流低下反応を抑制する方策を考える必要がある。

※3 換気量(minute ventilation):空気を肺へ出し入れする機械的な過程を換気(一般的には呼吸)といい、1分間の総量を換気量(L/分)という。

本研究では、暑熱下の持久的運動前にアイススラリーを摂取することで、運動中の深部体温上昇を抑制するだけでなく、換気亢進や脳血流低下反応を軽減し、持久性パフォーマンスを向上させる、という仮説について検討した。

研究内容と成果:胃腸障害が現れなければ、アイススラリーがパフォーマンスにも有効

本研究では、12人の健常な若年男性を対象とし、体重1kgあたり7.5gのアイススラリー、または37°Cに温めた同飲料(コントロール)を30分間かけて摂取した後に、気温35°C、湿度50%の暑熱下において、中強度の自転車運動を実施した。参加者のうち10人は、中強度運動に続いて高強度の自転車運動を疲労困憊まで行った(図1)。また、飲料摂取前後の安静時および運動時に、食道温および直腸温(深部体温の指標)、ピル温(胃腸温の指標)、呼吸代謝パラメーター(換気量など)、中大脳動脈平均血流速度(脳血流量の指標)、胃腸障害(主観的な胃の痛み、下痢感および膨満感)などを測定した。

図1 本研究の概要

アイススラリーが暑熱環境で持久運動中の過換気や脳血流低下を軽減しパフォーマンス向上の可能性 筑波大学

参加者は、体重1kgあたり7.5gのアイススラリーまたは37°Cに温めた同飲料(コントロール)を30分間かけて摂取した。その後、気温35°C、湿度50%の暑熱下において、中強度の自転車運動を実施した。また、中強度運動に続いて高強度運動を疲労困憊まで行い、持久性パフォーマンスを評価した。その結果、アイススラリー条件でコントロール条件より、(1)中強度運動中の深部体温が低下すること、(2)換気量が減少すること、(3)脳血流量指標が増加すること、(4)極度の胃腸障害を伴わない場合に持久性パフォーマンスが向上することが示された。
(出典:筑波大学)

その結果、中強度運動時において、深部体温の指標である食道温および直腸温は、アイススラリー条件でコントロール条件よりも低値を示した。これに伴い、換気量はアイススラリー条件で低値を、脳血流量指標はアイススラリー条件で高値を示した。一方で、主観的な腹痛や下痢感は、アイススラリー条件でコントロール条件よりも高値を示した。

高強度運動を実施した10人中8人で、運動の継続時間はアイススラリー条件でコントロール条件よりも延長したものの、統計学的な有意差はみられなかった。しかし、アイススラリー摂取によって換気量や胃腸障害が極端に増加した参加者を除くと、高強度運動継続時間はアイススラリー条件でコントロール条件よりも有意に延長した。

以上のことから、暑熱下の持久的運動前にアイススラリーを摂取することは、運動中の換気亢進や脳血流低下反応を軽減し、持久性パフォーマンスを向上させることが期待されるが、その効果は、極度の胃腸障害が生じた場合には得られないことが推察される(図1)。

今後の展開:暑熱下でのパフォーマンス最適化のための摂取方法確立に向けて

本研究により、アイススラリーは正と負の両方の効果を発揮する可能性が示された。研究グループでは、「今後、アイススラリーの有害な影響を最小限に抑える方策の検討を進めることにより、暑熱下での運動パフォーマンスを最適化するための摂取方法が確立されると期待される」としている。

プレスリリース

アイススラリー摂取は暑熱下運動中の過換気や脳血流量の減少を軽減する(筑波大学)

文献情報

原題のタイトルは、「Ice slurry mitigates hyperventilation and cerebral hypoperfusion, and may enhance endurance performance in the heat」。〔Med Sci Sports Exerc. 2025 Feb 3〕
原文はこちら(American College of Sports Medicine)

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