重量級アスリートには”肝臓を守る”栄養戦略も必要 国内投擲・柔道選手の肝機能関連因子の検討
重量級アスリートの肝機能を、食事やトレーニングとの関連から考察した研究結果が報告された。国内の男子投擲選手および柔道選手を対象とした解析では、炭水化物のエネルギー比率はいずれの競技においても各種ガイドラインの推奨範囲内であったものの、体重、炭水化物摂取量、および炭水化物エネルギー比率は肝機能マーカーと正の相関が認められたという。日本大学文理学部体育学科の吉沢幸花氏、松本恵氏らによる研究であり、「Journal of Nutritional Science and Vitaminology」に論文が掲載された。著者らは、重量級アスリートの肝機能低下に対しては、トレーニング負荷の調整だけでなく、食事の調整も必要ではないかと述べている。

重量級アスリートの肝臓は大丈夫? 負荷をかけている因子はなに?
重量級のアスリートは、試合に勝つために食事量を増やして重い体重を維持する必要がある。一般集団において過食による体重増加は代謝性疾患のリスク増大と関連するが、アスリートの場合、高いトレーニング量により代謝バランスは保たれ、そのリスクは抑制されると考えられている。とはいえ、体重増加時に除脂肪体重のみを増加させることは困難で脂肪量も増加しやすく、とくに代謝障害との関連が強い内臓脂肪の蓄積が促進されて、メタボリックシンドローム(MetS)のリスクを高める可能性がある。
MetSによる臓器特異的な影響として近年、代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(metabolic dysfunction associated steatotic liver disease;MASLD)をはじめとする肝臓への影響が注目されている。肝臓は代謝やタンパク質合成、解毒、生体恒常性(ホメオスタシス)の維持に中心的な役割を果たしており、肝機能の低下により倦怠感や食欲不振などの自覚症状が生じることもある。肝機能低下の原因として、Mets以外にもアルコール多飲、炭水化物の過剰摂取など多々あり、これらはアスリートか非アスリートかにかかわらず肝機能に関与する。
先行研究のなかには、重量級の柔道選手は軽量級の柔道選手よりも、肝機能マーカーである逸脱酵素のアラニンアミノトランスフェラーゼ(alanine aminotransferase;ALT)やγ-グルタミルトランスペプチダーゼ(γ-glutamyl transpeptidase;γ-GTP)が高いことを示した報告がみられる。ただし、それを普段の食事やトレーニング量と関連付けて検討した研究はない。このギャップを埋めるため、吉沢氏、松本氏らは国内の重量級アスリートを対象として横断的な調査を行った。
投擲選手と柔道選手の体組成、食事、トレーニング、血液検査値の傾向
この研究には、大学の運動部に所属している男子学生38人が参加した。なお、代謝性疾患を有する者および医師により研究参加が不適当と判断された者は除外した。食事やトレーニング内容・量の調査、生体インピーダンス法による体組成測定、および血液検査を実施し、それらのデータに欠落のない29人(投擲選手20人、柔道〈90kg以上の階級〉選手9人)を最終的な解析対象とした。年齢は両群ともに平均19.9歳であり、全員が全国大会レベルのスキルを有していた。
本論文では、体組成、栄養素摂取量、および血液検査値について全体傾向を示すとともに、投擲群および柔道群における特徴を比較し、さらにこれらの指標間の関連性について相関分析を行い、その結果を報告している。
体組成
BMIは投擲群29.1±1.2、柔道群29.4±1.7、体脂肪率は同順に22.0±1.5%、21.8±1.1%であり有意差はなかった。また、ウエスト周囲長、ウエスト・ヒップ比、ウエスト・身長比も有意差はなかった。
この結果について論文中の考察では、解析対象選手の平均BMIのみをみると肥満に該当するが体脂肪率は高くないことから、BMI高値は筋肉量の多さを意味するものと解釈可能としている。ただし、ウエスト周囲長が高値(投擲群98.3±2.9cm、柔道群96.3±2.2cm)であることから、内臓脂肪の過剰蓄積も考えられるとしている。
トレーニング内容・量
投擲群ではテクニックと筋力を要するトレーニングを多く行い、一方、柔道群は持久力を要するトレーニングを多く行っており、それぞれ有意差が認められた。トレーニングによるエネルギー消費は、投擲群が884±71kcal、柔道群が1,593±153kcalだった(p<0.01)。
一般集団においては、肝機能低下の一因として身体活動不足が指摘されるが、本研究参加者の身体活動量は両群ともに十分に多く、不足しているとは考えられなかった。
栄養素摂取量
エネルギー摂取量は、投擲群3,018±149kcal、柔道群3,160±146kcalであり有意差はなかった。ただし、たんぱく質(摂取量、体重あたりの摂取量〈相対摂取量〉、総摂取エネルギーに占める割合〈%エネルギー〉)、炭水化物(相対摂取量、%エネルギー)、食物繊維、ビタミンB1、B3、亜鉛の摂取量は柔道群のほうが有意に多かった。反対に、脂質(%エネルギー)、カルシウム、鉄の摂取量は投擲群が多かった。
なお、主要栄養素摂取量の%エネルギーは以下のとおり。炭水化物(投擲群52.2±0.9、柔道群58.0±1.0)、たんぱく質(同順に15.4±0.6、19.3±1.2)、脂質(29.7±0.9、26.4±1.1)。
血液検査の結果
肝機能マーカーを含め、測定した検査項目の平均値はすべて基準範囲内であった。また投擲群と柔道群に有意差のある項目はなかった。ただし、個々の選手の検査値をみると、基準範囲からの逸脱が認められた。例えば、ALTが54U/L、中性脂肪が239mg/dLといった、肝機能異常やMetSの存在が示唆される選手が存在した。
体組成、食事、トレーニングが肝機能に及ぼす影響
続いて、上記の相関が解析された。その結果、両群において、体重、炭水化物摂取量とエネルギー摂取量、ALT、γ-GTPの間には正の相関が認められた。
例えば、投擲選手ではALTとγ-GTPが体重および体脂肪率と正相関しており、柔道選手ではASTが体重および体脂肪率と正相関していた。また、両群において、エネルギー摂取量とALTが正相関していた。柔道群では、炭水化物の相対摂取量が多いほどALTが高く、炭水化物の%エネルギーが高いほどγ-GTPが高いという関連もみられた。なお、γ-GTPは両群において、トレーニングによるエネルギー消費量とも正相関していた。
これらの結果について著者らは、一般集団対象の研究で、炭水化物の摂取が血糖値とインスリン負荷を上昇させ、肝臓への脂肪蓄積と肝細胞障害を引き起こしてMASLDの一因となり、さらに肝臓内異所性脂肪は酸化ストレスと炎症反応を誘発し、それが肝逸脱酵素の上昇につながる可能性が示唆されていることに言及。「日常的に高負荷のトレーニングを行っているアスリートであっても、過剰摂取を避けるためにエネルギー摂取量を適切に管理する必要があるのではないか」と述べている。
以上の結果と考察を総括し、著者らは結論を以下のようにまとめている。
「エネルギー摂取量が多く、かつ炭水化物摂取量とトレーニング量も多い場合、重量級アスリートの肝機能に悪影響が生じる可能性があるようだ。本研究の結果は、肝機能低下を防ぐためには、適切な食事バランスとトレーニング量の調整が必要であることを示唆している。しかしながら、肝機能を改善するために、どの程度の炭水化物およびその他の栄養素を摂取すべきなのかという点は、依然として不明であり、さらなる研究が必要とされる」。
文献情報
原題のタイトルは、「Correlation between Diet and Training: Impact on Blood ALT and γ-GTP Levels in Heavyweight Male Athletes」。〔J Nutr Sci Vitaminol (Tokyo). 2026;72(1):19-29〕
原文はこちら(J-STAGE)







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