意図しないドーピングの脅威 サプリに混入する禁止物質の研究報告に関する系統的レビュー
サプリメントに混入していることのあるドーピング規則違反に該当する物質の実態について、これまでの研究報告を対象とするシステマティックレビューにより検討した論文が発表された。カタールのアンチ・ドーピング機構などの研究者によるもの。製品ラベルと実際の製品の科学組成との間に重大なギャップがあることを浮き彫りにしており、著者らは「アスリートの誠実性や公衆衛生上の脅威だ」としている。

アンチ・ドーピング規則違反の責任はゼロ・トレランス
アスリートの間でサプリメントの利用が広がるとともに、サプリが禁止物質や未承認物質で汚染されていることによる、意図しないドーピングリスクの懸念が高まっている。意図しないドーピングであっても、アンチ・ドーピング施策の原則はゼロ・トレランス(zero-tolerance)であり、禁止物質が検出された事実については、故意・過失を問わず原則として違反とみなされる。「知らなかった」「誰かに飲まされた(勧められた)」「サプリメントに入っていた」などいかなる理由であったとしても、禁止薬物が検出された場合はアスリート本人が規則違反の責任を負う。このような問題は世界規模で発生しているにもかかわらず、いまだ抜本的な対策はなされていない。
今回紹介する論文の研究は以上を背景として、システマティックレビューとメタ解析の推奨報告項目(PRISMA)ガイドラインに準拠したシステマティックレビューを実施し、現時点の知見を総括したもの。
2010年から2025年に報告された44件の論文のレビューで明らかになったこと
文献検索には、Scopus、Web of Science、SPORTDiscusという3種類の文献データベースを用い、2010年から2025年3月に収載され、英語で執筆されている原著論文を検索した。レビュー記事、総説、書籍、学会報告などは除外した。1万2,031報がヒットし、2名の研究者が独立してレビューを実施して、44件の研究報告を適格と判断した。
44件の報告を国別にみると、米国が7件と最多であり、次いで韓国が6件、ドイツとイタリアが各5件、ポーランドが4件だった。日本は1件だった。
この研究では、検討すべき課題として、以下の3項目が設定されていた。
- スポーツで一般的に使用されるサプリメントから、世界アンチ・ドーピング機構(World Anti-Doping Agency;WADA)が禁止する物質やその他の薬理活性のある不純物の検出が報告されているか?
- それらの禁止物質や混入物は、どのカテゴリーのサプリで最も頻繁に報告されているか?
- サプリに含まれる未表示物質を検出するために最も一般的に用いられる分析手法は?
これらのうち、ここでは1と2の検討結果について紹介する。
サプリメントからのWADA禁止物質の検出の報告について
最も多く報告されていた禁止物質は興奮剤(stimulants)で、21件で言及されていた。興奮剤は主に中枢神経系に作用して覚醒度を高め、疲労を軽減し、身体能力を向上させる化合物群であり、アンフェタミンの合成誘導体などが含まれる。
次に多かったのはアナボリックアンドロゲンステロイド(11件)であり、そのほかに、β2アゴニスト、利尿薬とマスキング薬、ホルモン薬、選択的アンドロゲン受容体修飾薬(SARM)などが多く報告されていた。
作用機序で分類した場合、スポーツパフォーマンス向上を意図する物質の報告が14件と最多であり、次いでステロイドやホルモン系が11件、減量や脂肪燃焼系が10件と多くみられた。
禁止物質や混入物は、どのカテゴリーのサプリで最も頻繁に報告されているか
サプリへの禁止物質や未承認成分の混入は広範囲に及んでいたが、特定の製品カテゴリーがとくに影響を受けやすいことが示された。スポーツおよび一般的なパフォーマンスサプリのカテゴリーは、最も頻繁に混入が報告されていた(n=14)。このカテゴリーに該当する製品は、迅速な効果を発揮するために、刺激剤、アナボリック剤、またはその他のパフォーマンス向上化合物が添加されていることが多く、製品ラベルに示されていないこともあると報告されていた。
ステロイド系またはホルモン系のサプリ(n=11)は、筋肉増大、筋力増強、または回復の促進を明確にうたい販売されていることが多い。これらの製品には、アナボリックアンドロゲンステロイドまたはプロホルモンが混入されていることが多く、WADAによって禁止されている物質が含まれ、深刻な健康リスクをもたらし得る。
減量および脂肪燃焼サプリメント(n=10)には、ダイエットピル、ハーブティー、脂肪減少フォーミュラが含まれる。これらは代謝率を高め食欲を抑制するために、sibutramine(痩身薬)やその他のアンフェタミン類似体などの化合物が混入されていることが多く、ドーピング規則に違反するだけでなく、心血管の健康を危険にさらす。
ホエイプロテインパウダーやトレーニング前のフォーミュラなどのタンパク質および筋肉増強サプリメント(n=4)にも、表示されていない興奮剤、プロホルモン、アナボリック剤が含まれているケースが判明している。さらに、漢方薬、ハーブティー、植物由来の抽出物などのハーブおよび伝統薬(n=3)として販売されている製品の中に、有効性を高めるために合成ステロイドまたは興奮剤が混入されていることがある。
最後に、ドーピング検査で禁止されている化合物の存在を隠すために、一部のサプリにはマスキング剤が添加されている。これにより、アスリートに対してさらなる健康被害をもたらし得る。
著者らは、「これらの調査結果は、製品の表示と実際の化学組成との間に重大なギャップがあることを浮き彫りにし、アスリートの誠実性と公衆衛生に対する継続的な脅威となっている。意図しないドーピングのリスクを軽減するために、より厳格で国際的な製造基準、新たなアナログ成分(構造類似体)を考慮した分析スクリーニングプロトコルの拡充、およびアスリート教育の強化が必要であることを強調している」と総括している。
文献情報
原典論文のタイトルは、「Systematic review of undeclared prohibited substances and pharmacological adulterants in dietary supplements: prevalence, detection, and risks in sport」。〔Front Sports Act Living. 2026 Mar 13:8:1740663〕
原文はこちら(Frontiers Media)







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