主要栄養素の摂取バランスは不安や自殺念慮に関連するか? 高タンパク食で不安のオッズ比低下
韓国の国民健康栄養調査のデータを用いて、主要栄養素の摂取バランスと、不安および自殺念慮との関連を検討した研究結果が報告された。自殺念慮に関しては主要栄養素摂取バランスの有意な関連は認められないが、不安については高タンパク食でオッズ比が低下し、交絡因子調整後も有意だという。

不安や自殺念慮は食事と関連するのか?
非感染性疾患の修正可能なリスク因子として、食事は最も重要なものの一つとして挙げられる。また、メンタルヘルスと食習慣の関連についても、これまでに多くの研究が行われてきているが、主要栄養素の摂取バランスと不安との関連は十分検討されていない。
一方、多くの国で、10代の未成年から若年成人における死因の上位に自殺が挙げられ、自殺の最大のリスク因子は精神疾患であり、主要な精神疾患として不安症が挙げられる。これらを背景として今回取り上げる論文の研究では、不安および自殺念慮と、主要栄養素の摂取バランスとの間になんらかの関連性があるか否かが検討された。
韓国国民健康栄養調査のデータを解析
この研究には、2021~23年の韓国国民健康栄養調査(Korea National Health and Nutrition Examination Survey;KNHANES)のデータが使われた。同調査の対象は2万284人で、そのうち19歳以上の成人が1万7,181人であり、解析に必要なデータの欠落、および摂取栄養素量が極端な人を除外して、9,002人を解析の対象とした。
KNHANESでは、メンタルヘルス状態について、不安と自殺念慮が調査されている。このうち不安レベルの評価には、全般不安症評価尺度(Generalized Anxiety Disorder-7;GAD-7)を使用。自殺念慮については、「過去1年間に自殺について考えたことがあるか?」、「過去1年間に自殺を計画したことがあるか?」、「過去1年間に自殺未遂をしたことがあるか?」という三つの質問のいずれかに「はい」と回答した場合に、自殺念慮ありと判定した。
主要栄養素の摂取バランスの4パターン
栄養素摂取量は24時間思い出し法により把握され、本研究では主要栄養素の摂取バランス(%エネルギー)により以下の4パターンに分類された。
通常食群
炭水化物55~65%、脂質15~30%、タンパク質7~20%。解析対象の3割弱にあたる28.9%を占め、2番目に大きい集団だった。
高炭水化物(HCHO)群
炭水化物65%以上、脂質30%以下、タンパク質20%以下。解析対象の半数近くにあたる45.2%を占め、最多の集団だった。
高脂肪食(HF)群
炭水化物65%以下、脂質30%以上、タンパク質20%以下。解析対象の17.4%を占め、比較的少数の集団だった。
高タンパク食(HP)群:炭水化物65%以下、脂質30%以下、タンパク質20%以上。解析対象の8.5%のみであり、最小の集団だった。
高タンパク食は男性の不安に対して保護的に関連
不安レベルが高いほど自殺念慮が強い
主要栄養素の摂取バランスに基づく前記の4パターンで、全般不安症評価尺度(GAD-7)のスコアおよび自殺念慮に関する3項目の質問に対して「はい」と回答した割合は、いずれも有意差がなかった。不安レベル(GADスコア)の高さは、自殺念慮に関する3項目の質問に対して「はい」と回答する割合の高さと有意に関連していた(p<0.001)。
参考までに、通常食群に関するデータを示すと、GADスコアは2.0±0.1、過去1年間に自殺について考えたことがある割合は4.0±0.4%、過去1年間に自殺を計画したことがある割合は1.1±0.2%、過去1年間に自殺未遂をしたことがある割合は0.6±0.2%だった。また、GADスコアが5点未満の場合、過去1年間に自殺未遂をしたことがある割合は0.1%だったが、同スコアが10点以上の場合、その割合は10.2%に上った。
中等度以上の不安(GADスコア10点以上)と主要栄養素摂取パターンの関連
解析対象のうち381人(4.2%)がGADスコア10点以上であり、中等度から重度の不安レベルが認められた。
前記の主要栄養素摂取パターンのうち通常食群を基準として、GADスコア10点以上の割合がどう異なるかを検討。この解析には、交絡因子未調整モデル(モデル1)、年齢、性別、喫煙・飲酒・運動習慣、自覚しているストレスで調整したモデル(モデル2)、モデル2の調整因子に加えて、婚姻状況、世帯収入、エネルギー摂取量、グルコース摂取量、食物繊維摂取量を調整したモデル(モデル3)という3種類のモデルを用いた。
その結果、すべてのモデルにおいて、高タンパク食(HP)群はGADスコア10点以上のオッズ比(OR)が有意に低いことが示された。例えばモデル3において、OR0.492(95%CI;0.298~0.810)だった。高炭水化物(HCHO)群や高脂肪食(HF)群は通常食群と有意差がなかった。
性別に解析すると、男性のHP群はOR0.230(0.089~0.599)と、より顕著なオッズ比低下が認められた一方で、女性のHP群はOR0.767(0.418~1.405)で非有意となった。なお、女性ではモデル1とモデル2で、HCHO群において有意なオッズ比の上昇が認められた。ただし、モデル3では非有意となった。
自殺念慮と主要栄養素摂取パターンの関連
解析対象のうち361人(4.0%)が自殺念慮に関する3種類の質問のいずれかに「はい」と回答していた。
上記同様の解析の結果、自殺念慮に関しては、全体解析、性別の解析のいずれについても、すべてのモデルで有意な関連は認められなかった。
主要栄養素摂取量は自殺念慮と直接関連しないが、不安を介してリスクに影響し得る
以上一連の結果を、「タンパク質摂取量が多いほど不安レベルが低いことが示され、その関連は女性よりも男性でより顕著だった。ただし、自殺念慮に関しては主要栄養素の摂取量との間に有意な関連が認められなかった。これらの結果は、食事要因が不安と関連している可能性はあるものの、自殺傾向との直接的な関係はないことを示唆している」と総括している。
一方で本研究では、不安レベルが高いほど自殺リスクが高いという有意な関連も認められた。このことから、「食事パターンがメンタルヘルスに及ぼす潜在的な影響の解釈には、依然として注意を要する。主要栄養素の摂取量と不安との因果関係を明らかにし、その根底にある神経生物学的メカニズムを解明するために、さらなる研究が必要とされる」と付け加えられている。
文献情報
原典論文のタイトルは、「Association Between Anxiety and Suicidal Ideation, and Dietary Patterns」。〔Nutrients. 2026 May 14;18(10):1568〕
原文はこちら(MDPI)







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