持久系アスリートのVO2max向上に地中海食が有効な可能性 腸内細菌と短鎖脂肪酸の変化が関与か
持久系アスリートを対象とする介入期間12週の無作為化比較試験の結果、地中海食により腸内細菌叢に多様性向上などの変化が生じ、VO2maxが対照群より有意に上昇したとする論文が発表された。媒介分析では、短鎖脂肪酸の産生増加がVO2maxの上昇に関与している可能性が示されたという。中国および韓国の研究者らによる報告。

アスリートの持久力を、地中海食による短鎖脂肪酸増加で向上させ得るか?
近年、腸内細菌叢が代謝の重要な調節因子であるとの理解が確立し、運動パフォーマンスとの関連についても多くの研究が行われている。アスリートは一般人口に比較し腸内細菌のα多様性が高いことが知られており、それにより短鎖脂肪酸(主として酢酸、酪酸、プロピオン酸)が多く産生され、その短鎖脂肪酸が代謝機能に影響を及ぼすという考え方が提唱されてきている。
植物性食品、オリーブオイル、食物繊維が豊富なことなどを特徴とする地中海食は、腸内細菌叢組成の好ましい変化と関連づけられており、短鎖脂肪酸の増加との関連も報告されている。基礎研究では短鎖脂肪酸が持久力の高さと関連することが示唆されている。これらの知見を統合すると、地中海食を中心とする食生活によって腸内細菌叢が変化し、短鎖脂肪酸の産生が増加して、持久力が向上するという仮説が成り立つ。ただし、この仮説をアスリートで検証した報告はない。
以上を背景として、今回紹介する論文の研究では、アスリートを対象とする無作為化比較試験(randomized controlled trial;RCT)を実施し、地中海食によって持久力が向上するか否か、向上する場合はそれに短鎖脂肪酸の増加が関与しているのかを検討している。
持久系アスリート60人に対する12週間のRCTで検証
この研究の参加者は2024年3~6月に、韓国(ソウル)の漢陽大学校の周辺に所在する持久系競技のスポーツクラブから募集された。適格基準は、年齢が18~35歳で、体系的な持久力トレーニングを週8時間以上、過去2年以上継続しており、VO2maxが男性は50mL/kg/分、女性は45mL/kg/分を超えていることとした。除外基準として、炎症性腸疾患や過敏性腸症候群を有すること、過去3カ月以内に抗菌薬またはプロバイオティクスを利用していること、ケトジェニック食やベジタリアン食などを実施していること、過去6カ月以内にトレーニングからの離脱に至った怪我の既往などが設定されていた。
127人が募集に応じ、適格基準と除外基準に則したスクリーニング、および同意の撤回により、最終的に60人が参加した。性別の分布およびVO2maxに差が生じないように配慮のうえ、各群30人の2群に無作為に分類。1群を地中海食群、他の1群を対照群とした。
地中海食群に対しては、管理栄養士が作成した伝統的な地中海食に準拠しつつ、短鎖脂肪酸酸性菌の増殖を確実にするために食物繊維を1日あたり30~35g含むメニューを作成。その食材などを写真とともに示した詳細なガイドを参加者に渡した。調理済みの食品を支給することはしなかった。
対照群に対しては通常の食習慣を維持するように指示し、かつベースライン時や6週経過時点などに栄養士が相談を受け付け、介入とは関係のない一般的な栄養上の懸念について対応した。
トレーニングについては両群ともに、プロのコーチが作成し標準化されたプログラムに則して実施された。なお、食事介入の手法上、研究参加者の盲検化はされていないが、アウトカム評価にあたった研究者は割り付けが盲検化されていた。
地中海食群のみで腸内細菌叢の多様性、短鎖脂肪酸産生量、VO2maxが有意に上昇
ベースラインにおいて、参加者の年齢(平均約26歳)、性別の分布(男性が約6割)、BMI(22強)、VO2max(約55mL/kg/分)に群間の有意差はなく、トレーニング量、安静時心拍数、乳酸閾値、摂取エネルギー量、主要栄養素摂取量などにも有意差はなかった。
12週間の介入期間中に、5名が脱落(地中海食群3名、対照群2名)。後述するVO2maxの変化は、脱落者も含めて当初の割り付けどおりに行うITT(intention-to-treat)解析と、脱落者等を除外しプロトコルが遵守された参加者のみで行うPP(per-protocol analysis)解析の両者で有意であったことに基づいて、その他の解析も基本的にPP解析により行われた。
腸内細菌叢の変化:地中海食群で多様性が上昇、対照群は変化なし
糞便検体の解析により、腸内細菌叢の多様性(シャノン多様性)は、地中海食群ではベースラインが4.12±0.45、12週間の介入後は4.58±0.52であり、11.2%有意に上昇していた(p=0.002)。対照群は同順に4.08±0.51、4.15±0.48であり、有意な変化がみられなかった(p=0.58)。
短鎖脂肪酸濃度の変化:地中海食群では上昇、対照群は変化なし
糞便中の短鎖脂肪酸濃度は、地中海食群ではベースラインが68.4±12.8μmol/g、12週間の介入後は82.6±15.2μmol/gであり、20.8%有意に上昇していた(p=0.004)。この増加は主としてプロピオン酸(p=0.002)と酪酸(p=0.008)の増加によるものであり、酢酸も増加傾向がみられたが変化は有意でなかった(p=0.062)。
対照群の短鎖脂肪酸濃度は、ベースラインが67.8±12.3μmol/g、12週間の介入後は69.1±13.5μmol/gであり、有意な変化がみられなかった(p=0.71)。
地中海食群では、血漿中の短鎖脂肪酸濃度の有意な上昇も観察され、プロピオン酸は42.1%(p=0.005)、酪酸は57.9%(p=0.002)上昇していた。酢酸に関しては12.4%上昇していたが有意でなかった(p=0.12)。
対照群の血漿中の短鎖脂肪酸濃度は有意な変化がなかった。
VO2maxの変化:地中海食群の上昇幅が有意に大きく、短鎖脂肪酸濃度の変化と相関
両群ともに12週間の介入後にVO2maxが有意に上昇していた。ただし、地中海食群の変化が2.4±1.6mL/kg/分で4.4%の向上であるのに対して、対照群は1.3±1.4mL/kg/分、2.4%の向上であった。年齢、性別、BMIおよびベースラインのVO2maxを考慮した介入前後の変化の調整平均差は1.1mL/kg/分(95%CI;0.3~0.9)であり、有意だった(p=0.006)。
このVO2maxの変化は、血漿中の短鎖脂肪酸濃度の変化と有意に相関していた。具体的には、プロピオン酸濃度の変化との相関はr=0.38(p=0.004)、酪酸についてはr=0.42(p=0.001)だった。
媒介分析からは、VO2maxに対する食事効果の23%は、血漿プロピオン酸濃度の変化で説明できることがわかった。
論文の結論は、「地中海食による介入は、腸内細菌叢の組成を変化させ、血漿中の短鎖脂肪酸濃度を上昇させて、持久力運動への適応を向上させる。これらの知見は、腸と筋肉の相互作用がスポーツパフォーマンスを最適化するための介入標的となり得ることを示唆するものである」と総括されている。
文献情報
原典論文のタイトルは、「Mediterranean diet enhances endurance training adaptation through gut microbiota-derived short-chain fatty acids」。〔Front Nutr. 2026 Mar 25:13:1795528〕
原文はこちら(Frontiers Media)







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