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地域住民の遺伝子型を考慮した保健指導で健康改善&医療費抑制を証明 さかど葉酸プロジェクト

地域住民全体への積極的なポピュレーションアプローチと、栄養や疾患感受性にかかわる遺伝子型情報に基づくハイリスクアプローチの組み合わせによって、他地域に比べて住民の疾患有病率が有意に低下し、かつ医療費も抑制されることを示唆する研究結果が「Nutrients」に掲載された。埼玉県坂戸市で行われている「さかど葉酸プロジェクト」の成果であり、日本栄養大学栄養学部の香川靖雄氏らが報告した。同氏らは、「栄養ゲノミクスを公衆衛生戦略に統合することで、高齢社会における持続可能な医療システム構築につながるのではないか」と述べている。

地域住民の遺伝子型を考慮した保健指導で健康改善&医療費抑制を証明 さかど葉酸プロジェクト

精密栄養学に基づく公衆衛生戦略を推進する坂戸市

国民の健康維持・増進を目的として多くの国が食事摂取基準(dietary reference intakes;DRI)を定めており、日本でも「日本人の食事摂取基準」が栄養指導のバイブルのように使われている。一方で近年の精密栄養学の進歩により、代謝関連疾患の管理やリスク抑制において、個人の遺伝子多型にあわせた指導の重要性が強調されるようになった。例えば、葉酸代謝に関与する一塩基多型(single nucleotide polymorphism;SNP)は血清葉酸値だけでなく、動脈硬化や認知機能への関与が示唆されている血清ホモシステイン値にも関連し得ることが報告されている。そのため、当該アレル保有者は、DRIの示す葉酸摂取量では十分でない可能性がある。

このような新しい知見のもと坂戸市は、遺伝子情報に基づく栄養指導プログラムとして「さかど葉酸プロジェクト」を2006年に開始した。

坂戸市はポピュレーションアプローチにも注力

同市では、このようなハイリスクアプローチとともに、全市民約10万人を対象とするポピュレーションアプローチも推進しており、健診受診率は全国平均より高値で推移している。また、市民自らが健康増進に積極的に取り組むことを奨励する「坂戸市健康なまちづくり推進条例」を制定し、公開講座の頻繁な開催や地元放送局のテレビ番組放映などにも力を入れている。

今回発表された論文では、これらの活動内容の紹介と、同市市民約10万人の生活習慣病の有病率や医療費を、同規模の他の都市や埼玉県の平均、日本全体の平均などと比較した解析結果が示されている。

さかど葉酸プロジェクトの概要

2006~2019年の住民健診受診者から募集された888人(男性144名〈66.2±9.1歳〉、女性744名〈63.5±9.1歳〉)が、「さかど葉酸プロジェクト」の対象となり、健診結果に加えて食事評価と遺伝子情報に基づく個別指導を含む、約6カ月間の個別介入を受けた。

このプログラムでは、日本人での突然変異頻度が高く、食事と心血管代謝リスクの関連のエビデンスのある五つのSNPを考慮し、該当する対象者にそれぞれ、1日400μgの葉酸摂取、塩分摂取量6g未満、エネルギー制限と身体活動の増加、1日100g以上の魚の摂取といったアドバイスを行った。

管理目標は、血清葉酸値9.5ng/mL以上、血清ホモシステイン値7μmol/L以下とした。食事指導は「四群点数表」を用いて行われた。

坂戸の健康施策の疾患有病率や医療費へのインパクト

では、上記のような坂戸市の健康施策推進への影響をみていこう。

坂戸市民は生活習慣改善の意思が強い

人口規模と年齢分布が坂戸市に類似している3都市と比較すると、坂戸市民は健康のための生活習慣改善の意思が強いことが明らかになった。2024年において「改善の意思がない」との回答割合は、坂戸以外の3都市が26.3~28.0%を占めていたのに対して、坂戸市では23.8%だった。また、「改善の意思がある」との回答割合は、坂戸市は31%だったが、他の3都市は23.5~28%の範囲だった。

国民健康栄養調査との比較でも、朝食欠食の少なさ、バランスの取れた食事の頻度、習慣的な運動など、いずれも坂戸市のほうが良好であった。

遺伝子情報に基づく介入で葉酸とホモシステインのコントロールが有意に改善

プロジェクトで評価したSNPの保有者率は、日本全体の平均と同等だった。

遺伝子情報に基づく栄養・保健指導介入を受けた888人において、血清葉酸値の目標を満たしていた割合は、介入前が63.4%、介入後が76.1%であり有意に上昇し、血清ホモシステイン値の目標を満たしていた割合も同順に33.1%、55.3%と有意に上昇していた(ともにp<0.001)。

坂戸市民はCVDリスク因子が少なく、ADや要介護者も少ない

心血管疾患(CVD)のリスク因子であるBMI、血圧、空腹時血糖値(FBG)、HbA1c、LDL-Cを、日本の平均、埼玉県の平均と比較すると、坂戸市民はいずれも良好であり(女性のBMIは坂戸が高値)、男性のFBGとHbA1c、および女性のHbA1cとLDL-Cには有意差が認められた。

また、肥満、高血圧、糖尿病、脂質異常症は人口規模と年齢分布が類似している3都市よりも低く、アルツハイマー病(AD)の有病率は類似都市および埼玉県や日本の平均より低く、要介護者の割合は日本の平均より低かった。

坂戸市の医療費は低値で推移している

埼玉県の住民1人あたりの医療費は、過去8年間、日本の都道府県の中で最低水準にある。その中で坂戸市はさらに、2016~21年にかけて埼玉県の平均よりも低値で推移していた。

具体的には、2011年の坂戸市の住民1人あたり医療費は19万2,598円で、埼玉県の平均である20万104円よりわずかに低い程度であったが、種々のプロジェクトの進行に伴いその差が拡大し、2021年には前記と同順に、23万9,055円、25万4,626円となっていた。とくに、脳卒中や糖尿病関連の医療費が少なかった。

公衆衛生戦略における精密栄養学の可能性

これらの結果に基づき著者らは、「遺伝子情報に基づく栄養プログラムと、地域全体での継続的な健康教育によって、住民の健康状態が改善され医療費が削減される可能性を示唆するエビデンスが得られた。栄養ゲノミクスに基づいた食事指導をより広範な地域保健推進活動と統合し、住民レベルでの葉酸状態、生化学的マーカー、健康的なライフスタイル行動、および心血管代謝疾患の有病率の低下につながったと考えられる」と総括。

また、「今回の研究結果は、慢性疾患の予防および高齢社会における持続可能な医療制度を維持するための公衆衛生戦略として、精密栄養学の可能性を強調するものだ」と述べている。

文献情報

原典論文のタイトルは、「Long-Term Health and Economic Impact of a Community-Based, Gene-Guided, Nutrition Program: The Sakado Folate Project in Japan」。〔Nutrients. 2026 May 21;18(10):1630〕
原文はこちら(MDPI)

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