スポーツ栄養士がプロサッカーの世界で活躍する条件 プレミアリーグの選手やスタッフ対象調査
イングランド・プレミアリーグの選手や関係者を対象に、スポーツ栄養士が成功を収めるために重要だと考えることを調査した結果が報告された。解析により、三つのテーマが特定されたという。

プロサッカーの文化の中で、スポーツ栄養士はどのように活動していくべきか?
プロのサッカー界においてスポーツ栄養の位置づけは既に確立されている。しかし、男子プロサッカー特有の文化の中で、スポーツ栄養士がどのように活動していくべきかということに関して、十分な知見は得られていない。この現状を背景として、今回取り上げる論文の著者らは、イングランド・プレミアリーグの選手とスタッフを対象とする半構造化インタビューを実施した。
なお、論文中では「スポーツ栄養士」ではなく「パフォーマンス栄養士(performance nutritionist)」という言葉が使われている。スポーツ栄養士が競技成績に加えてアスリートの健康も配慮するのに対して、パフォーマンス栄養士といった場合は競技成績に特化するというニュアンスの違いがあるようだが、ここでは国内で定着しているスポーツ栄養士という言葉に置き換えて紹介していく。
選手、スタッフ、計14名に対し半構造化インタビュー
半構造化インタビューは2024年8~12月に実施された。対象は、イングランド・プレミアリーグの単一のクラブと契約していた選手またはスタッフ、計14名。内訳は、選手とコーチが各4名、スポーツ科学者、理学療法士が各2名、医師、シェフが各1名。機密性確保のため、個人の詳細な情報は伏せられているが、インタビューにおいて、プレミアリーグのほかに、セリエA、ブンデスリーガ、リーグ・アン、トルコ・スュペル・リグ、オーストラリアAリーグ、スコティッシュ・プレミアシップ、リーガ・ポルトガルなど、さまざまなチームやリーグにわたるプロとしての経験が語られていた。
インタビュアーはスポーツ栄養士として5年の経験があり、プロサッカーに精通している1名が担当。質問内容は事前のパイロット研究を経て調整された。インタビューの時間は9~48分の範囲で平均23分だった。
浮かび上がった三つのトピック
インタビュー後の分析プロセスを通じて、以下三つのトピックが特定された。
(1) 成功するスポーツ栄養士は、ゲームのルールを理解していなければならない、(2) 優秀なスポーツ栄養士は十分な専門知識だけでなく、人間関係を構築する能力も備えていなければならない、(3) スポーツ栄養士の成功は資本を蓄積する能力に依存し、ハビトゥスによって形成される。
これらについて、論文内に記されているインタビュー回答者のコメントを中心に紹介する。
成功するスポーツ栄養士は、ゲームのルールを理解していなければならない
プロサッカーの環境は、コーチ、選手、スポーツ科学チームや医療チームなど、さまざまな経験をもつさまざまなメンバーから成り立っている。先行研究では、コーチが支配的な影響力を持つ立場にあり、コーチの決定が選手の食事習慣を大きく左右することが示されている。よってスポーツ栄養士がこの状況で効果を発揮するためには、まずマネージメントスタッフの栄養に関する視点を理解することが不可欠である。あるコーチは次のように説明した。「最初にアドバイスしたいのは、常にマネージャーの考え方を理解する必要があるということだ。例えば、栄養を重視しないマネージャーがいる場合、強くなるのは難しいだろう」。
また、ある選手の例が示すように、硬直的または権威的なコミュニケーションスタイルを採用することは逆効果となる可能性がある。「選手はだれでも非常に強い自尊心をもっていると思う。スポーツ選手はみなそうだろうが、サッカーではそれがより必要とされる。もし選手に対して『こうしなければダメ!』などと言ったりしたら逆効果になる。選手は『いや、自分のやり方でやる。あなたはサッカー選手ではない。あなたの言うことは聞けない』と言うのではないか」。
プロサッカー界特有の文化を理解することの重要性は、シェフや理学療法士も強調した。あるシェフは、「我々は地中海食を導入しようと取り組んだ。しかし当時、チーム中の選手の国籍は19カ国に及んでいた。結局その多くに受け入れられなかった」と述べた。ある選手は体組成モニタリングの根強い習慣について、「起源はよくわからないが、サッカー界には体重や体組成に対するある種の執着があるように思う」と語り、スポーツ科学者は「過去にゲーム中の集中力を低下させないためにカフェインを禁止した例があるが、それはおそらく良くないことだ。選手とスタッフとの間で口論になり、選手は結局カフェインを摂取するだろう」と述べた。
優秀なパフォーマンス栄養士は、十分な専門知識と人間関係構築能力が必要
あるコーチは、「それぞれの状況で何が必要なのかを正確に理解しておくことが重要だ。全員がプレー経験を持つ必要はないが、ストレスや肉体的な負荷がかかった状況下で、体に必要な栄養補給が実際にどのようなものかを理解しておくことが大切であり、それがすべてとは言わないが、自分のやり方を後輩に伝えるうえで役立つだろう」と回答した。また、スポーツ科学者は、「クラブ内のあらゆる取り組みについて概略を理解しておくことは、栄養サポートをすすめる上で重要だと思う。例えば、選手にサプリメントを支給したり食事量を調整したりする場合、GPSデータやジムでの筋力測定データなどの文脈で説明することで、なぜそのプランを提案しているのかを具体的に示すことができる」とした。
学際的な認識の欠如、とくに選手に課せられる身体的および戦術的な要求に関する認識の欠如は、潜在的に有害であると認識されていた。理学療法士も、「スポーツ栄養士はリハビリテーションの状況を常に把握しておく必要がある」と述べている。
このほか、医師からは「過去には選手を喜ばせようとして、医療チームとしての倫理観を損なう同僚がいた。選手にこっそり甘い食べ物を渡すような行為は、その人物の評判を著しく損ない、チーム全体の倫理観を揺るがすものだ。それは本当にチームを弱体化させる行為であり、プロ意識に欠けるものだ」というコメントがあった。
スポーツ栄養士の成功は資本を蓄積する能力に依存し、ハビトゥスによって形成される
ハビトゥス(habitus)とは、個人が社会生活の中で無意識に形成された行動様式である。スポーツ栄養士にとって、プロサッカーの規範と期待に沿ったハビトゥスをもつことが、信頼を得て複雑な環境を効果的に乗り切るために必要とされる資質を獲得するために、不可欠であると考えられていた。例えばあるコーチは、「私がこれまで一緒に仕事をしてきた最高の栄養士は、選手が適切なコンディションを保ち、適切な栄養素と食事を摂ることに本当に情熱を注いでいる」と語り、ある選手は「誰かが自分の仕事に情熱を持っていると感じたら、一緒に仕事をしたくなるものだ。なぜなら、そのような人は最高の自分になるために、あらゆる努力を惜しまないことを知っているからだ」と語った。
別のコーチは、主体性の欠如をマイナス特性として挙げ、選手とのかかわりが欠けている栄養士を批判した。「積極性がなく、情報を提供したり必要なものを支給したりしない。なぜなら、選手にやらせようとしても、やってくれないからだ。選手にしっかり指示を出さなければならない」と述べた。
エリートサッカー環境で主要な関係者と協力する際には、適応力と柔軟性が不可欠な資質であることが明らかになった。他者の好み、性格、ニーズに合わせてアプローチを調整する能力は、スタッフと選手双方との生産的な関係を構築し維持するうえで中心的な役割を果たすと一貫して強調された。
理学療法士は、とくに強い個性を持つ人々が集まるハイパフォーマンス環境においては、頑固で妥協を許さない姿勢を避けることの重要性を強調した。「柔軟性に欠ける人、非常に頑固で融通の利かない考えをもつ人は、最終的に問題を抱えることになると思う」。同様にある選手は、選手のフィードバックに基づいて栄養プランを調整することの重要性を強調した。食事プランは各選手の独自の好みや耐性に合わせて調整する必要があるという指摘だ。別の選手は「万人向け」のアプローチに注意を促し、「そのようなアプローチは一部の選手にとっては全く達成不可能になる可能性がある」と述べた。
文献情報
原典論文のタイトルは、「The Rules of the Game: Towards a Theory of Practice for Performance Nutritionists in Professional Soccer Using Bourdieu’s Concepts of Habitus, Capital and Field」。〔Sports Med. 2026 Mar 8〕
原文はこちら(Springer Nature)







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