糖化ストレス指標のペントシジン濃度が高い高齢者ほど筋肉量が少なく身体機能も低下 東京都健康長寿医療センター研究所
高齢者では血漿ペントシジン濃度が高いほど、筋量が少なく身体機能が低下しているという関連が明らかになった。東京都健康長寿医療センター研究所の研究の結果であり、「Geriatrics & Gerontology International」に論文が掲載されるとともに、同研究所からプレスリリースが発行された。

研究のポイント
- 糖尿病を持たない地域在住高齢者424名を対象に、糖化ストレスの指標の一つである血漿ペントシジン濃度と骨格筋関連指標・身体機能との関連を検討した。
- 血漿ペントシジン濃度が高い高齢者ほど、骨格筋量指数(SMI)、位相角(PhA)、身体機能(SPPB)スコアが低いことが示された。
- 一方、握力、歩行速度、椅子立ち上がりテスト、サルコペニアの有病率とは有意な関連は認められなかった。
- 本研究は横断研究であり因果関係は明らかではないが、糖尿病を持たない高齢者においても、糖化ストレスが筋肉の健康状態と関わる可能性を示す知見。
研究内容の概要:非糖尿病高齢者でも糖化が健康リスクに関連
東京都健康長寿医療センター研究所の研究グループは、糖尿病を持たない地域在住高齢者を対象に、血漿中のペントシジン濃度と骨格筋関連指標および身体機能との関連を検討した。ペントシジンは、終末糖化産物(AGEs)※1の一種であり、糖化ストレスの指標として用いられる。
※1 終末糖化産物(AGEs:Advanced Glycation End-products)とペントシジン:AGEsは、タンパク質と糖が結びつくことで生成される物質で、炎症や酸化ストレスなどを介して、老化や慢性疾患の分子メカニズムに関与すると考えられている。ペントシジンは広く研究されている代表的なAGEsマーカーであり、体内の糖化ストレスやAGEs蓄積の状態を反映する指標の一つとして用いられている。
本研究では、血漿ペントシジン濃度が高い高齢者ほど、骨格筋量指数(SMI)、細胞の状態や筋肉の質を反映すると考えられる位相角(PhA)※2、および総合的な身体機能を示すSPPB※3スコアが低いことが示された。一方で、握力、歩行速度、椅子立ち上がりテスト、サルコペニア※4の有病率とは有意な関連を認めなかった。
※2 位相角(PhA:Phase Angle):位相角は、生体インピーダンス法(BIA法)により測定される指標で、細胞膜の状態や体細胞量を反映すると考えられている。筋肉の質や身体機能と関連する指標として用いられている。
※3 SPPB(Short Physical Performance Battery):歩行速度、椅子からの立ち上がり(5回)、立位バランスのテストを組み合わせて、高齢者の下肢機能や総合的な身体機能を評価する指標。
※4 サルコペニア:加齢に伴って筋肉量、筋力、または身体機能が減少・低下する状態を指す。転倒、フレイル、要介護状態、死亡などのリスク上昇と関連し、高齢者の健康寿命に関わる重要な状態。
本研究は横断研究であるため因果関係は明らかにできないが、糖尿病を持たない高齢者においても、ペントシジン高値が筋肉量や身体機能の低さと関連する可能性を示すもの。今後、縦断研究や生活習慣を含めた詳細な検討により、糖化ストレスと高齢期の筋肉の健康との関係をさらに明らかにすることが期待される。
研究の背景:AGEsマーカーのペントシジンと筋量や身体機能との関連を探る
近年、高齢者の筋肉量や筋力、身体機能が低下する「サルコペニア」は、転倒、フレイル、要介護状態、死亡などのリスク上昇と関連し、高齢者の健康寿命に関わる重要な課題である。地域在住高齢者におけるサルコペニアの有病率は、研究や診断基準によって異なるが、約1割前後と報告されており、医療・介護の観点からも重要な課題。
これまで、2型糖尿病がサルコペニアの重要な危険因子であることが知られており、その関連メカニズムの一つとして、慢性的な高血糖に伴う終末糖化産物(AGEs)の蓄積が注目されてきた。ペントシジンは代表的なAGEsマーカーとして知られており、糖尿病患者において筋肉量や機能の低下と関連することが報告されている。しかし、糖尿病を持たない高齢者において、AGEs蓄積の指標が骨格筋量、身体機能、サルコペニアとどのように関連するかについては、十分に明らかにされていなかった(図1)。
図1 近年の高齢化とサルコペニアに関する研究背景

本研究の目的と方法:地域在住高齢者対象の横断研究
このような背景を踏まえ研究チームは、糖尿病を持たない地域在住高齢者を対象に、血漿ペントシジン濃度と骨格筋量、身体機能、およびサルコペニアとの関連を検討した。
2023年に東京都板橋区で実施された包括的老年医学健診「板橋健康長寿縦断研究」のデータを横断的に解析。AGEsや筋肉機能に影響し得る要因を考慮し、喫煙習慣、糖尿病、腎疾患、アルツハイマー病を有する人を除外したうえで、70歳以上の高齢者424名(平均年齢75.7歳)の血液サンプルと身体データを分析した。
研究結果:ペントシジンはSMIやSPPBスコアと有意に関連
対象者の血漿ペントシジン濃度の平均値は5.59μg×10-2/mLであり、男女差は認められなかった。年齢、性別、腎機能(eGFR)を調整して多変量解析を行った結果、血漿ペントシジン濃度の高さは、以下の指標の低さと有意に関連していた。
- 骨格筋量指数(SMI)
- 全身および四肢の位相角(細胞膜の状態や体細胞量を反映し、筋肉の質とも関連すると考えられる指標)
- SPPBスコア(歩行速度、椅子立ち上がり、立位バランスを総合した身体機能指標)
一方で、握力、椅子立ち上がりテスト、単独の歩行速度、およびサルコペニア自体の有病率とは有意な関連はみられなかった。
これらの結果は、サルコペニアと診断されるほど明確な状態ではない場合でも、糖化ストレスの指標が筋肉量や身体機能の低さと関わる可能性を示唆している。また、女性では、ペントシジン濃度とSMIや歩行速度の低さの関連が強くみられる傾向があったが、統計学的な男女差(交互作用)は確認されなかった。
研究成果の意義:非糖尿病者でも透過ストレスが筋肉に負の影響を及ぼし得る
本研究は、糖尿病を持たない高齢者においても、AGEsの一種であるペントシジンの高値が、骨格筋量、位相角、総合的な身体機能の低さと関連することを示した。これまでAGEsと筋肉の健康との関連は、主に糖尿病や慢性高血糖の文脈で注目されてきたが、本研究は、糖尿病を持たない高齢者においても糖化ストレスが筋肉の健康状態と関わる可能性を示した点に意義がある。
AGEsは体内で産生されるほか、高温調理された食品などから摂取されることも知られている。ただし、本研究では食事由来AGEsの摂取量や調理法を直接評価していないため、生活習慣の改善によって筋肉量や身体機能の低下を予防できるかどうかは、今後の縦断研究や介入研究で検証する必要がある。
プレスリリース
糖化ストレスの指標「ペントシジン」と高齢者の筋肉量・身体機能の低さの関連を明らかに −調理法を含む生活習慣と筋肉の健康に関する研究の進展に期待−(東京都健康長寿医療センター研究所)
文献情報
原典論文のタイトルは、「Association Between Plasma Pentosidine and Skeletal Muscle-Related Indices in Older Adults Without Diabetes」。〔Geriatr Gerontol Int. 2026 May;26(5):e70515〕
原文はこちら(John Wiley & Sons)







熱中症予防情報
SNDJユニフォーム注文受付中!

