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WBGT上昇でサッカー選手の総走行距離もスピードも低下 猛暑のFIFAクラブW杯で判明した暑熱ストレスの影響

2025年の夏季に米国で行われたFIFAクラブワールドカップ出場選手のデータを解析し、暑熱環境が試合パフォーマンスをどの程度低下させたかを明らかにした結果が報告された。気温と湿球黒球温度(WBGT〈暑さ指数〉)は試合中の総走行距離とすべての速度での走行距離に影響し、湿度は高速走行での距離に影響を及ぼしていたという。

WBGT上昇でサッカー選手の総走行距離もスピードも低下 猛暑のFIFAクラブW杯で判明した暑熱ストレスの影響

エリートサッカー選手は暑熱環境での試合中、どの程度パフォーマンスが下がるのか

近年の加速度的な地球温暖化は、人類の健康や社会活動の至る面に影響を及ぼしており、アスリートの活動にも負の影響を及ぼしている。2021年の東京五輪、2024年のパリ五輪でも、参加選手の熱中症対策が大きな課題とされていた。

世界クラスの男子サッカー選手は、試合中に約11.5km走行し、一部の選手は13km以上走行することがあり、総走行距離の約10%は高強度運動に相当する速度20km/時以上となる。このような激しい身体活動のため、試合中には相当量の代謝熱が発生し、その放散が妨げられる状況ではパフォーマンスに負の影響が生じる。

暑熱環境がエリートレベルのサッカー選手のパフォーマンスを制限することに関して、既にいくつかの研究報告がある。ただしそれらの研究では交絡因子が十分考慮されておらず、気温や湿球黒球温度(wet bulb globe temperature;WBGT〈暑さ指数〉)または湿度などの因子について、パフォーマンスとの独立した関連が検討されていない。また、近年では大規模スポーツイベントの試合開始時間が米国や欧州のテレビ放映時間によって決められるようになり、開催地で日中だけでなく夜間に実施されるケースが増えているが、そのような試合時間帯の影響も十分検討されていない。さらに、イベントに参加するチーム(国)が、もともと気温の高い地域のチームか低い地域のチームかの違いによって、イベント開催地での暑熱負荷に対する反応が異なる可能性もあり、その視点もこれまで考察されてきていない。

これらを背景として、今回紹介する論文の研究では、2025年FIFAクラブワールドカップ参加選手のデータを解析し、詳細な検討が行われている。

57試合に参加した442選手の走行距離との関連因子を検討

2025年FIFAクラブワールドカップは、6~7月に米国内各地で行われた。特筆すべきこととして、この年の6月下旬に米国の中部から東部の広範囲に記録的な熱波が襲来し、726の群で過去最高気温が更新された。

32チームのグループステージとプレーオフで計63試合実施された。そのうちアトランタでの試合は開閉式屋根のスタジアムで施設内が22°Cに管理されていたため除外し、57試合のデータを解析に用いた。ピッチ上で60分以上プレーした計442人の男性プロサッカー選手(27.4±4.6歳〈範囲18.0~42.5〉)を解析対象とした。ポジションは、ディフェンダー175人、ミッドフィルダー159人、フォワード108人だった。

合計1,070件のデータセットが入手された。ポジション別では前記と同順に、436件、391件、243件であり、トーナメントステージ別ではグループステージが833件、プレーオフが237件だった。

57試合の平均気温は27.0±5.1°C、湿球黒球温度(WBGT)は26.8±4.2°C、相対湿度は61.9%だった。選手の1分あたりの走行距離は、平均104.0±10.8m/分であり、そのうち高速走行(20km/時以上)で7.3±2.7m、中速走行(15~20km/時)で13.7±4.15m、低速走行(15km/時未満)で83.0±6.92m移動していた。

解析に際しては、共変量を調整する4種類のモデルが検討され、そのうちの2種類は多重共線性(調整する共変量同士が強く関連しあうこと)が認められたため、以後の解析に用いず、以下に示すモデル1とモデル2の2種類が採用された。モデル1とモデル2ともに、トーナメントステージ(グループステージ/プレーオフ)、試合の時間帯、チームの地理的条件(寒冷地/温暖な土地)、選手の年齢とポジションを調整したうえで、モデル1ではWBGT、モデル2では気温、相対湿度、日射量を調整した。

WBGTと気温は総走行距離とすべての速度での走行距離に影響

論文では、走行距離と、選手の年齢、ポジション、チームの成績(最終順位)、チームの地理的条件、試合時間帯との関連の解析結果も示されているが、ここでは気候条件との解析結果のみを紹介する。

湿球黒球温度(WBGT〈暑さ指数〉)の影響

WBGTは、すべての走行速度での走行距離に有意な負の影響を与えていた。

総走行距離はWBGTが1°C上昇するごとに、1分あたり-1.153m(95%CI;-1.284~-1.022)の減少が観察された。走行速度別にみると、高速走行では-0.182m(-0.222~-0.142)、中速走行では-0.336m(-0.387~-0.285)、低速走行では-0.631m(-0.731~-0.532)の減少が観察された。

気温の影響

気温も同様に、すべての走行速度での走行距離に有意な負の影響を与えていた。

総走行距離は気温が1°C上昇するごとに、1分あたり-0.984m(-1.118~-0.850)の減少が観察された。走行速度別にみると、高速走行では-0.182m(95%CI;-0.222~-0.141)、中速走行では-0.296m(-0.348~-0.243)、低速走行では-0.505m(-0.605~-0.406)の減少が観察された。

相対湿度の影響

相対湿度は高速走行の走行距離に負の影響を与えており、1パーセントポイント上昇するごとに1分あたり-0.039m(-0.054~-0.025)の減少が観察された。総走行距離や低速または中速での走行距離には、有意な影響を及ぼしていなかった。

日射量の影響

日射量(surface shortwave radiation flux)は、総走行距離と低速での走行距離に、正の影響を与え、高速や中速での距離には、有意な影響を及ぼしていなかった。

具体的には1W/m2上昇するごとに、1分あたりの総走行距離が0.004m(0.001~0.007)増加し、低速での走行距離は0.003m(0.001~0.005)増加していた。つまり、WBGTや気温、相対湿度がパフォーマンスを低下させるのに対して、日射はパフォーマンスを部分的に高めるという関連が示された。

ただしこれは先行研究の結果と矛盾するものであり、論文では、ワールドカップの試合が行われる会場は客席スタンドなどの構造物のために、ピッチ上が日陰になる部分が多いという点を指摘。この結果の解釈には注意を要し、日射の影響は周辺に高層の構造物がない環境で検証する必要があると述べられている。

暑熱ストレスが予測される試合での試合運びとは

著者らは、「結論として、暑熱ストレスはサッカー選手の身体能力に大きな影響を与えることが明らかになった」と総括するとともに、エリートサッカー選手のパフォーマンスと健康を守るために、暑熱対策を行うことの重要性を強調している。

その具体的な施策として、試合時間帯、異常気象の影響を受けにくい開催都市の選択、サッカー特有の暑熱馴化プロトコルの開発、身体冷却のための休憩プロトコルの改良、などを挙げている。さらに、暑熱ストレスが予想される試合では、監督はポジション重視のプレースタイルを選択し、ボール奪取のためのハイプレッシャー戦略の頻度を減らし、試合中の早い段階で選手交代を行うことを提案している。

文献情報

原典論文のタイトルは、「Physical performance in elite male soccer under extreme heat: A case study of the 2025 FIFA Club World Cup」。〔Temperature (Austin). 2026 Feb 8;13(1):71-87〕
原文はこちら(Informa UK)

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