ゴルフ場従業員の熱中症リスク抑制に定時休憩やアイスベスト等が有効な可能性 国内研究
ゴルフ場で働く人たちの熱中症リスクを抑制するための具体的な方策が明らかになった。武蔵丘短期大学健康生活学科の長島洋介氏らが、関東地方にある500近くのゴルフ場の従業員を対象に行った研究の結果であり、「Temperature」に論文が掲載された。エアコンの効いたスペースでの休憩を計画的にとることや、冷却機能を備えたウエア(冷却ベストなど)を着用するといったことが、労作性熱中症(EHI)のリスクを有意に抑制する可能性があるといい、従来の一般的な熱中症対策から一歩踏み込んだ対策立案につながる知見が示されている。

ゴルフ場ではプレーヤーだけでなく、従業員も熱中症リスクに曝される
地球温暖化とともに、屋外スポーツアスリートの熱中症対策が強化されるようになってきた。熱中症のリスクは一般に、高温・高湿度の環境で高強度の運動を長時間続けるほど高くなると考えられており、夏季のゴルフはそれらのすべてが当てはまるといえ、国際ゴルフ連盟などによる注意喚起がされてきている。長島氏らも以前に、国内のアマチュアゴルファーの43.5%がプレー中に「労作性熱疲労(exertional heat exhaustion;EHE)」を経験していることを報告している。なお、EHEでは倦怠感や吐き気、めまい、局所の痙攣などを呈し、その一部は全身性の痙攣や虚脱などを来して時に昏睡等の致死的な状態になる「労作性熱射病(exertional heat stroke;EHS)」へと進行する。EHEとEHSをあわせて「労作性熱中症(exertional heat illness;EHI)」と呼ばれる。
このように、ゴルファーのEHEリスクについては、長島氏らの研究も含め徐々に知見が蓄積されてきている。しかし、ゴルフ場の広大なフィル―ドで日光曝露を受け、長時間にわたる身体活動を行っているのはプレーヤーのみでない。キャディーやコースメンテナンススタッフなどの従業員も同じような負荷を受ける。それにもかかわらず、ゴルフ場従業員の熱中症リスクはほとんど調査されていない。この研究ギャップを埋めるため、同氏らは今回、関東地方のゴルフ場の屋外労働者を対象とする横断的な検討を行った。
関東ゴルフ協会加盟ゴルフクラブ491施設の従業員を対象に調査
この研究のための調査は2025年9月20日~10月31日に、関東ゴルフ協会に加盟しているゴルフクラブ491カ所で実施した。Webベースのアンケートを作成し、そのQRコードを印刷したチラシを配布し回答者を募集。回答が不十分なものなどを除外し388人を解析対象とした。なお、事前の統計学的検討では、必要なサンプルサイズは384人以上と計算されており、これを上回る回答を得られた。
アンケートの質問内容は、人口統計学的要因、EHE関連症状の有無(2025年の夏季の勤務中に、めまい、頭痛、嘔気、倦怠感などを経験したか否か)、EHEの組織的要因(職種、勤務歴、労働時間、作業強度、熱中症対策教育の有無など)、生活習慣(睡眠時間、食習慣〈朝食欠食の頻度、バランスの良い食事の頻度、飲酒習慣〉、主観的な体力や熱中症に関する知識)、勤務中の食行動(飲水、塩分摂取、サプリメント摂取、冷菓の摂取など)、職場環境(エアコンや遮光のための設備の有無など)、休憩(勤務中の休憩時間とその柔軟性など)、ウエア(通気性や吸湿性、速乾性、遮光性の有無、および冷却ベスト等の着用など)で構成されていた。
ゴルフ場従業員の63.7%が、2025年の夏に労作性熱疲労(EHE)を経験
解析対象者388人のおもな特徴は、男性が58.8%、年齢は約半数(49.7%)が40~50代、BMIは約7割(70.4%)が18.5~24.9であり、4人に1人(25.0%)は何らかの慢性疾患を有していた。職種はキャディーが37.4%で最も多く、次いでコースメンテナンススタッフが35.0%を占め、その他が27.6%だった。全体として半数強(54.9%)が、職場内での熱中症対策教育を受けていた。
2025年の夏季に労作性熱疲労(EHE)の症状を経験していた従業員は、247人(63.7%)だった。EHE症状の経験の有無で二分したうえで単変量解析を行った結果、以下のような有意差が認められた
人口統計学的要因と組織的要因
性別では女性にEHE症状を経験した人が多く、年齢層では40歳未満で多くて60歳以上は少なかった。また、慢性疾患を有する人はEHEを経験した割合が高かった。BMIの分布は、EHE経験の有無による有意差がなかった。
職種ではキャディーにEHE症状の経験が多く、また、作業強度が高いと回答した人、および、職場内での熱中症対策教育を受けていない人に多かった。職歴や勤務頻度は有意な差がなかった。
生活習慣と食行動
睡眠時間が6時間未満の人は6時間以上の人よりもEHE症状の経験が多く、熱中症に関する知識があると回答した人はEHE症状の経験が少なかった。
朝食欠食やバランスのとれた食事の頻度、睡眠中のエアコン使用、主観的な体力、および、勤務中の食行動(飲水、塩分摂取、サプリメント摂取、冷菓の摂取など)は、有意な差がなかった。
職場環境、休憩、ウエア
職場環境に関する因子(高温、高湿度、強い日差し、無風など)、および、休憩に関する因子(計画的または柔軟に休憩をとることができない、休憩エリアにエアコンがないなど)は、評価した項目のすべてが、EHE症状の経験と有意に関連していた。
ウエアに関しては、素材の通気性や吸水性、遮光・遮熱性能の高さ、および、冷却ベストの着用が、EHE症状を経験しないことと有意に関連していた。素材の速乾性、およびファン冷却式装置の使用は、EHE症状経験の有無と有意な関連がなかった。
EHEのリスク因子と保護因子
続いて、前記の単変量解析でEHE症状経験の有無による2群間のp値が0.10未満となった項目を変数とする多変量解析を実施。性別、年齢、BMI、慢性疾患、飲酒習慣、職種、勤務歴、労働時間、労働日数を調整後、EHE症状のリスク因子と保護因子が以下のように特定された。
EHE症状発現を高める可能性のあるリスク因子
組織的要因
作業強度を四つのレベルに分けた質問に対して、最も軽強度と回答した人を基準とすると、最も高強度と回答した人にはEHE症状の経験者が有意に多かった(調整オッズ比〈aOR〉4.40〈95%CI;1.54~12.56〉)。
職場環境
高湿度(aOR2.94〈1.27~6.86〉)、および無風(aOR2.03〈1.26~3.28〉)が、EHE症状発現に有意に関連していた。
EHE症状発現を抑制する可能性のある保護因子
組織的要因
熱中症対策教育を受けていた人には、EHE症状経験者が有意に少なかった(aOR0.56〈0.34~0.93〉)。
生活習慣
睡眠時間が6時間以上であること(aOR0.49〈0.29~0.83〉)、熱中症に関する知識が豊かであること(aOR0.42〈0.21~0.87〉)は、EHE症状の経験が少ないことと有意に関連していた。
休憩
勤務中の休憩時間が60分未満の人を基準として、90分以上の人ではEHE症状経験者が有意に少なかった(aOR0.39〈0.16~0.90〉)。60~89分の場合、60分未満と有意差がなかった。
また、計画的な休憩(aOR0.33〈0.14~0.74〉)、休憩エリアのエアコン(aOR0.23〈0.11~0.51〉)も、EHEリスク低下と関連していた。日陰エリアの存在は有意な関連がなかった。
ウエア
遮光・遮熱機能のあるウエア(aOR0.52〈0.32~0.85〉)、冷却ベスト(aOR0.55〈0.34~0.90〉)が、EHEリスク低下と関連していた。
従業員個人の努力で回避できないリスク因子には組織的な対応が必要
著者らによると本研究は、ゴルフ場従業員のEHEの広範なリスク因子を体系的に調査した初の研究とみなされるという。研究の限界点としては、自主的に回答した人を解析対象としたことによるサンプリングバイアス、一部の項目は主観的な回答に基づく解析であること、想起バイアスや残余交絡が存在する可能性があることなどを挙げている。
論文の結論は、「国内のゴルフ場で働く屋外従業員の約3分の2が、夏季にEHE関連症状を経験していることが明らかになった。高強度の作業、高湿度、風がないことが主なリスク因子として挙げられ、保護因子としては、エアコンのある休憩エリアの設置、計画された十分な休憩時間、十分な睡眠、熱中症に関する知識、遮光・遮熱機能のあるウエアや冷却ベストの着用、職場での熱中症に関する教育などが挙げられる」と総括。また、「本研究の結果は、熱中症リスクに対する予防的介入の新たな実証的エビデンスであり、組織的な対策が従業員の安全確保に不可欠であることを示している。睡眠習慣やウエアの選択は従業員個人で対処可能だが、それら以外の因子に対しては経営者の積極的な関与が求められる」との提言を加えている。
文献情報
原題のタイトルは、「Scheduled breaks, cooled break areas, and functional clothing are associated with a reduced risk of exertional heat exhaustion in outdoor golf club workers」。〔Temperature (Austin). 2026 Mar 25〕
原文はこちら(Informa UK)
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