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オリエンテーリングなど長時間の競技で水分不足を防ぐには、水分補給のタイミングが重要か

オリエンテーリングにおける脱水リスクの実態が報告された。国際大会にも参加するエリートレベルにある選手を対象とする観察研究の結果であり、2日間の競技期間中、時間経過とともに尿比重が上昇したという。

オリエンテーリングなど長時間の競技で水分不足を防ぐには、水分補給のタイミングが重要か

脱水はオリエンテーリングの身体的かつ精神的パフォーマンスを低下させる

地図とコンパスを頼りに、森林や丘陵、市街地に設けられたチェックポイントを最短時間で通過するオリエンテーリングは、体力と頭脳を組み合わせたパフォーマンスが要求されるスポーツ。高い心肺機能と筋力、筋持久力を維持できるか否かが成績を左右する。長時間に及ぶ競技中、選手は発汗による水分喪失を防ぐために適切な水分補給戦略が重要となる。

脱水は身体的パフォーマンスのみでなく、精神的パフォーマンスも低下させ得ることが報告されており、オリエンテーリングに必要な意思決定力、集中力を阻害する可能性がある。とは言え、オリエンテーリングの競技中の脱水リスクの知見は乏しく、実態が明らかにされていない。これを背景として本論文の研究者らは、競技中に尿検体を複数回採取し尿比重の推移を検討するとともに、選手の水分摂取状況を把握した。

トルコの国内選手権大会中に、選手の尿比重と水分摂取量を追跡

この研究は、トルコの全国選手権大会に参加した選手20人を対象に実施された。大会は2日間にわたって開催され、初日はチェックポイント数19、距離5.2km、2日目はチェックポイント数25、距離11.7kmだった。研究に参加した20人は競技歴が12.4±6.4年で国際レベルの実績があり、年齢は30.4±1.1歳、BMI22.5±0.5だった。

採尿は計6回行われ、初日は8時に初回採尿を行い、競技時間が10~13時で、競技終了後の13時30分と16時に採尿した。2日目は8時に初回採尿、10~14時が競技、14時30分および17時に採尿した。このほか、参加者には2日間にわたって水分摂取の記録を求めた。

なお、初日は気温11±2°C、湿度65±5%で、研究参加選手の走行距離は6.8±1.9km、所要時間48.5±19.2分であり、2日目は同順に12±1°C、75±5%、13±4.8km、106.5±45.1分だった。

尿比重は時間経過とともに上昇

解析の結果、尿比重には有意な時間効果が認められた(p=0.04)。詳しくは、初日の8時が1.019 ± 0.008、競技終了後の13時30分が1.023 ± 0.007、16時は1.018 ± 0.007であり、2日目は8時が1.019 ± 0.004、14時30分が1.026 ± 0.003、17時が1.022 ± 0.004だった。

尿比重が1.020以上で脱水傾向と判定される選手の割合も時間経過とともに上昇し、とくに2日目の競技後の14時30分には全員(100%)に脱水傾向が認められた。また、初日のレース終了後にその割合はいったん低下し、水分補給が行われたことが示唆されたが、2日目のレース後には初日よりも脱水傾向の選手が多かった。

初日の朝の尿比重と2日目の朝の尿比重が正相関

初日の朝の尿比重と2日目の朝の尿比重との間に、有意な正の相関が認められた(r=0.69、p=0.03)。また、1日目と2日目の水分摂取量との間にも、有意な正の相関が認められた(r=0.71、p=0.02)。これら以外に、水分摂取量と尿比重との関連は認められなかった。

なお、選手はレース2日目に1日目よりも、水分を有意に多く摂取していた(p=0.003)。

単に水分摂取を増やすのではなく、タイミングを考慮することが重要ではないか

まとめると、
  • 選手はレースが進むにつれて、水分補給状態が悪化(脱水状態が増加)し、
  • 選手は最初のレース狩猟の3時間以内に水分補給を行い、2回目のレース終了までその状態の傾向が維持され、
  • 2回のレース終了後にはともに、ほとんどの選手が脱水傾向の状態にあり、
  • 1日の水分摂取量と水分補給状態との間には関連がみられなかった。

著者らは、本研究においてアスリートは水分を自由に摂取できるにもかかわらず、尿比重の上昇が観察され、また尿比重と水分摂取量との間に明確な関係がないことが示されたことから、「アスリートは、競技中の運動強度に見合うだけの十分な水分を摂取できていない可能性が高い」と述べている。また、尿比重と水分摂取量が相関しない理由として、環境条件の影響を考察している。具体的には、今回の研究は比較的涼しい気温(11~12°C)、適度な湿度(65~75%)で実施されたため、喉の渇きが自覚されににくく、競技中の水分摂取の必要性に対する認識が低かった可能性があるという。さらに、選手が消化器症状の発現リスクを考慮し、意図的に水分摂取を控えていた可能性もあるとのことだ。

研究の限界点として、サンプルサイズが十分でないこと、尿比重は水分補給状態を評価する簡便な手法ではあるが、尿浸透圧ほど鋭敏には脱水状態を反映しない可能性があること、食事やナトリウム摂取量を評価していないことなどを挙げたうえで、結論は「オリエンテーリングの競技中、アスリートの水分補給状態が徐々に悪化していくことが観察された。この調査結果に基づけば、競技前、競技中、競技後にアスリートの水分補給を最適なレベルに維持するための戦略を採用することが非常に重要といえる。単に総水分摂取量を増やすのではなく、適切なタイミングでの水分摂取を奨励することが、コーチとアスリートの両者にとって重要な可能性がある」とまとめられている。

文献情報

原題のタイトルは、「Hypohydration is evident in elite orienteering athletes during a two-day race: a descriptive study」。〔BMC Sports Sci Med Rehabil. 2025 Aug 15;17(1):240〕
原文はこちら(Springer Nature)

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