大学生アスリートの突然心停止に、失神の既往歴と心不全の家族歴が独立して関連
国内の大学生アスリート1万人以上を対象に行った横断調査により、突然心停止(SCA)の関連因子が明らかになった。本人の失神の既往歴と、血縁者に心不全罹患者がいることが、それぞれ独立して(SCA)に関連しているという。慶應義塾大学医学部スポーツ医学総合センターの勝俣良紀氏らの研究によるもので、論文が「Cardiology Research and Practice」に掲載された。

めったに起こらないが、まれに起こるアスリートのSCAリスク因子の探索
突然心停止(sudden cardiac arrest;SCA)は突然死につながることが多く、またアスリートは突然死の発生頻度が一般人口の2~4倍に上ると米国から報告されている。さらに、スポーツ関連の突然死の4割は18歳未満に発生するというデータもある。アスリート、とくに若年のアスリートの突然死は、周囲に計り知れない衝撃を与える。
アスリートの突然死を防ぐために、スポーツ関連施設への自動体外式除細動器(automated external defibrillator;AED)の設置推進など、SCA発生後の蘇生率向上の努力が続けられている。一方でSCAの発生を未然に防ぐ努力も重要であり、具体的には、SCAリスクの高いアスリートをSCA発生前に特定し、適切な治療介入へと結び付け得る体制の確立が期待される。
しかし、アスリートのSCAリスクが一般人口よりも高いとは言え、発生頻度自体は非常に低く、全アスリートを対象に詳細なスクリーニングを行うことは現実的でない。そのため、詳細なスクリーニングの前段階として、SCAリスクが高い可能性のあるアスリートをある程度、絞り込む必要があり、その絞り込みのため、SCAのリスク因子を明らかにしなければならない。
以上を背景として勝俣氏らは、アスリートの中でも年齢的にSCAリスクが高いとみなされる大学生アスリートを対象とする横断調査を実施し、SCAリスク因子の特定を試みた。
UNIVAS加盟の全大学を対象に横断調査
この調査は、2022年6~10月にwebアンケートとして実施された。調査対象は一般社団法人大学スポーツ協会(UNIVAS)に加盟している219大学、36競技団体の所属アスリートで、各チームのマネージャーやトレーナーを通じて回答を呼びかけた。
質問内容は、回答者本人の特性(年齢、性別、身長、体重、競技歴など)と、SCAや失神、不整脈、心不全などの既往歴、および、それらの疾患の家族歴であり、すべて本人の自己申告により把握した。なお、これらの質問内容は、国際オリンピック委員会のコンセンサスステートメントに基づき素案を作成後、15人の専門家(医師、トレーナー、疫学者などで構成される11人の研究者と、4人の外部専門家)によるデルファイ法によって妥当性を確保した。
本人の失神の既往と心不全の家族歴が、SCAの既往と独立して関連
前記の期間中に1万998人のアスリートから回答が寄せられ、回答内容に不備のあった137人を除外し、1万861人(20±1歳、男子62%)を解析対象とした。このうち6人(男子と女子が各3人)が、突然心停止(SCA)の既往を報告した。
SCA既往のある学生は、不整脈や失神の既往と、心不全や不整脈、失神の家族歴が多い
SCAの既往の有無で比較すると、年齢、学年、身長、体重、および性別の分布に有意差はなかったが、以下のように、本人の既往歴や家族歴の一部に有意差が認められた。
本人の既往歴
SCA既往のある6人のうち、2人(33%)が不整脈、4人(67%)が失神を経験していた。除細動器などのデバイス装着者、および心不全の既往者はいなかった。それに対してSCA既往のない1万855人のうち、不整脈は314人(3%)、失神は329人(3%)、心不全は11人が報告し、デバイス装着者が5人存在した。
これらのうち、不整脈と失神の既往者の割合は、いずれもSCA既往のある群が高く有意差が認められた(いずれもp<0.01)。
家族歴
SCA既往のある6人のうち、心不全の家族歴のある学生が2人(33%)、不整脈の家族歴は3人(50%)、失神の家族歴は2人(33%)であり、デバイス装着の家族歴がある学生はいなかった。それに対してSCA既往のない1万855人のうち、心不全の家族歴のある学生が239人(2%)、不整脈の家族歴は492人(4%)、失神の家族歴は101人(1%)、デバイス装着の家族歴は266人だった。
これらのうち、心不全、不整脈、失神の家族歴のある割合は、いずれもSCA既往のある群が高く有意差が認められた(いずれもp<0.01)。
ロジスティック回帰分析で明らかになった関連因子
次に、前記の解析で有意な関連がみられた因子を用いてロジスティック回帰分析を行い、SCA既往と独立した関連のある因子を検討。その結果、有意な関連因子として、本人の失神の既往(OR41.98〈95%CI;5.99~293.83〉)、心不全の家族歴(OR10.74〈1.03~111.19〉)という二つの因子が特定された。本人の不整脈の既往、および、不整脈と失神の家族歴は有意性が消失した。
標準化されたスクリーニングプロトコルの確立に期待
著者らは本研究について、SCAを含めて既往歴をすべて本人の自己申告に基づき判断していること、web調査の特性からサンプリングバイアスや想起バイアスなどの影響が否定できないこと、および、SCA既往者がわずかであるためにオッズ比の信頼区間が広く不確実性が高いことなどの限界点を挙げている。
そのうえで、「日本の大学生アスリートでは、失神の既往歴と心不全の家族歴がSCAのリスクの高さと有意に関連していることが明らかになった。すべてのアスリートを対象として、SCAの徹底的なスクリーニングを行うことは困難だが、このような情報に基づきハイリスク者に絞り込んで精査することは検討する価値がある。さらなる研究により、リスクを層別化し、標準化されたスクリーニングプロトコルの確立が望まれる」と総括している。
文献情報
原題のタイトルは、「Characteristics of Sudden Cardiac Arrest in Young Athletes: A Web-Based Survey of Athletes in Japanese College Sports」。〔Cardiol Res Pract. 2025 Oct 10:2025:1265728〕
原文はこちら(John Wiley & Sons)







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