中高年日本人の減塩習慣は、高血圧対策だけでなく肥満も予防できる可能性
血圧管理のための「減塩習慣の推進」は心血管疾患(CVD)リスク抑制を目的とする公衆衛生対策の柱と言える。その減塩習慣が、CVDのもう一つの主要なリスク因子である肥満の抑制にも役立っている可能性が報告された。園田学園大学人間健康学部の木林悦子氏、兵庫県立大学環境人間学部の中出麻紀子氏の研究によるもので、論文が「Nutrients」に掲載された。

減塩でCVDリスクを元から絶てる?
高血圧は脳卒中をはじめとする心血管疾患(cardiovascular disease;CVD)の重大なリスク因子であり、血圧管理には減塩が重要であることは広く知られている。また近年では、減塩(ナトリウムの制限)に加えてカリウムを積極的に摂ることも重視されるようになってきた。本年改訂された日本高血圧学会の「高血圧管理・治療ガイドライン2025」でもその点が強調され、尿中ナトリウム/カリウム比(尿ナトカリ比)のモニタリングが提案されている。
カリウムが多い食品として、野菜や果物が挙げられる。野菜や果物は、ビタミンやミネラルが豊富ということだけでなく、エネルギー密度が低く摂取により満腹感を得られやすいことから、過食を防ぐにように働き肥満予防につながるという点でも、健康の維持・増進に資する食品と位置づけられている。肥満リスクが抑制されることで、肥満を介した高血圧および高血糖、脂質異常の併存という、いわゆるメタボリックシンドロームのリスクが低下するという経路でも、CVDイベント抑止につながると期待される。
しかし、一般住民において、ナトリウムを減らしカリウムを増やすといった高血圧予防のための食習慣が、肥満の予防にもつながるものであるか否かという点は十分に検証されていない。また、外食の頻度や調理済み食品(中食)の利用頻度なども肥満リスク(BMIの増大)に影響を及ぼす食習慣であると考えられ、それらが互いにどのような関連があるのかという視点での研究は不足している。
以上を背景として木林氏らは、兵庫県在住の一般住民を対象に行われた横断調査のデータを用いた以下の検討を行った。
減塩習慣と食品Na/K比、BMIとの関連の仮説モデルを検証
研究に際してまず、BMIに影響を及ぼし得る因子として、食塩摂取量、減塩習慣、食品中のナトカリ比(食品Na/K比)、外食習慣、中食習慣を選定した図1の仮説モデルを構築。この仮説モデルを令和3年度「ひょうご栄養・食生活実態調査」のデータに外挿できるかを統計学的に検討し、最適な適合度を得られるように修正していき最終モデルを確立するという手法で検討が進められた。
ひょうご栄養・食生活実態調査では、自記式の食物摂取頻度調査票(Food Frequency Questionnaire;FFQ)や食事に関する質問票によって、食品摂取量や食行動が把握されている。本研究ではその結果から、肥満有病率の高い世代である40~69歳の成人418人(男性45.5%)のデータを二次利用した。なお、兵庫県では「ひょうご“食の健康”運動」などの食事に関する公衆衛生対策が推進されており、とくに減塩に力が入れられている。
減塩習慣や外食・中食頻度のスコア化
仮説モデルの検証にあたり、減塩習慣や外食・中食習慣などの数値で把握されないパラメーターは、それぞれの行動の頻度に基づいて分類またはスコア化して解析に用いた。
例えば減塩習慣については「生活習慣病の予防や改善のため、塩分を取り過ぎないようにする(減塩をする)ことを、どの程度実践しているか」という質問に対し、「いつも実践している」「実践している」「あまり実践していない」「全く実践していない」の四者択一で回答を得て、前二者を減塩の「実践群」、後二者を「非実践群」と分類した。
また、外食や中食、間食の頻度、就寝2時間前以降に食事をする頻度などは、週あたりの回数が多いほど高得点となるようにスコア化した。
ひょうご栄養・食生活実態調査にみる減塩習慣とBMI
解析対象全体における肥満(BMI25以上)の有病率は23.4%であり、性別の比較では男性のほうが有意に高値だった(29.5 vs 18.4%、p=0.004)。また、野菜・果物の摂取量は女性のほうが多かった(いずれもp<0.001)。
栄養素・食品摂取量の比較:減塩実践者はNa/K比が有意に低く、BMIは有意差なし
減塩の実践群の割合は、男性42.6%、女性68.0%だった。
減塩実践群と非実践群を比較すると、BMIについては男性・女性ともに有意差がなく、エネルギー摂取量も有意差がなかった。また、ナトリウム摂取量についても、性別にかかわらず、実践群と非実践群の間に有意差はなかった。
一方、カリウム摂取量については男性・女性ともに実践群のほうが有意に多く、結果として食品Na/K比は、男性(実践群2.40 vs 非実践群2.47、p=0.008)、女性(同順に2.14 vs 2.19、p=0.002)であり、いずれも実践群のほうが有意に低かった。
このほか、男性においてたんぱく質(15.0 vs 14.7%エネルギー、p=0.033)、女性において野菜摂取量(183.2 vs 176.5g/1,000kcal、p=0.007)に有意差があり、いずれも減塩実践群が高かった。
肥満の有無での食行動・運動習慣の比較:肥満の男性は外食、女性は中食が多い傾向
次に、肥満の有無で食行動を比較すると、男性・女性ともに間食・夜食・外食・中食・飲酒の頻度に有意差はなかった。また、運動の頻度にも有意差はなかった。
ただし、男性において外食の頻度が肥満群で高い傾向があり(p=0.064)、女性においては中食の頻度が肥満群で高い傾向がみられた(p=0.061)。
仮説モデルの検証と最適モデルの構築
スコア化されたパラメーターの性別・年齢層での比較
減塩習慣のスコアを性別で比較すると女性のほうが有意に高く、年齢層(40代 vs 50代 vs 60代)で比較した場合、60代は他の2群より有意に高かった(いずれもp<0.001)。
1,000kcalあたりの食塩摂取量は女性が多く(p<0.001)、年齢層での比較では有意差がなかった。一方、食品Na/K比は男性で高く(p<0.001)、40代は他の2群より有意に高かった(p=0.005)。
外食頻度のスコアについては男性が高く(p=0.012)、年齢層での比較では有意差がなかった。BMIも同様に、男性が高く(p<0.001)、年齢層での比較では有意差がなかった。
なお、これらのスコアはいずれについても、性別と年齢層との間に有意な交互作用が認められなかった。
減塩は肥満リスクを抑制する可能性が示される
以上の結果に基づき、本研究の主題である前記の仮説モデルの検証を実施。GFI(Goodness of Fit Index)、RMSEA(Root Mean Square Error of Approximation)、AIC(Akaike’s Information Criterion)などのモデル適合指標を用いて、有意でないパスを削除するなどの修正を繰り返した結果、最適な適合モデルとして図2が構築された。
図2 減塩習慣と食塩摂取量、食品Na/K比、およびBMIの関連の検証後モデル
直線矢印の横の数字は標準化推定値、双方向の弧の矢印の横にある数字は相関係数。上下の数字の上は男性、下は女性。*:p<0.05、**:p<0.01、***:p<0.001、n.s.:非有意。
まとめると、減塩習慣は性別にかかわらず食品Na/K比の低下と関連し、男性では食品Na/K比の低下を介してBMIが低下するという関連が観察された。それに対して女性では食品Na/K比低下の媒介効果は認められずに、減塩習慣がBMI低下と弱いながら直接的に関連していた。そのほかに男性では、外食の頻度が高いことがBMIの上昇と関連していた。これらの結果解釈上の留意点として著者らは、本研究における減塩習慣が本人の主観的な評価に基づくものであること、横断調査に基づく検討であることなどを挙げている。
なお、女性において食品Na/K比低下の媒介効果が認められずに、減塩習慣がBMI低下と直接的に関連するという結果については、女性は男性に比べて減塩実践者の割合そのものが高いこと、また、減塩非実践群でも食品Na/K比は男性よりも低いことなどが関係しているのではないかとの考察が加えられている。
文献情報
原題のタイトルは、「Dietary Salt Restriction Practices Contribute to Obesity Prevention in Middle-Aged and Older Japanese Adults」。〔Nutrients. 2025 Jan 31;17(3):536〕
原文はこちら(MDPI)







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